「夜間多尿」は脳血管障害を回避する対応として起きている   

                           2018.1.22. 有本政治

夜間尿意を催しトイレに何回も行くという人を多く見受けます。年をとってくると
夜中に1〜2回位目が覚めてトイレに行くのは、正常な対応だと思って下さい。
若い時に比べると体の機能が低下し、徐々に血行が悪くなってくるので、排尿
の数を増やして血のめぐりを良くしているのです。ここでは1時間半から2時間
おきに目が覚めてしまい、3〜5回位夜中から明け方にかけてトイレに行く場合を、
夜間多尿と定義します。

ほとんどの方がトイレに起きるのは水分を摂りすぎたからだと考えますが、この
認識には大きな間違いがあります。なぜなら若い時は夜、いくらお酒や水分をと
っても、朝までぐっすり眠れます。就寝してから一度も目が醒める事なく、トイレに
行く事もほとんどありません。健康で生理状態も良好なので、血液の循環も配分
も質も問題がなく、良い眠りの質が得られるからです。

若くても、赤ちゃんは成長過程で未発達の段階にいるため、眠りが浅くなります。
何回も起きて、泣いて、おしっこをすることによって血液の循環を促しています。
血行を良くして細胞を新生させ、成長していくためです。病気や高齢になると、
赤ちゃんと同じ様に眠りが浅くなっていきますがこれは悪いことではありませはん。
同じ体勢で寝ていると、血行不良になり脳内に充分な血液がまわらなくなります。
脳が虚血(血液不足)になると、脳血管障害を起こしやすくなるため、眠りを浅くし
て何度も目が覚めて排尿するように促していくのです。


『夜間尿と睡眠のサイクル』

私たちの体はレム睡眠(浅い眠り)とノンレム睡眠(深い眠り)を約1〜2時間のサイ
クル(周期)で繰り返しています。一般的には1サイクルは1、5時間位になります
が、睡眠のサイクルには個人差があります。目が覚めてトイレに行きたくなるのは
1サイクル眠った後になります。故にたとえ夜中に何回起きたとしても、1サイクル
眠った後に目覚めているので、睡眠の質は確保できているので、あまり気にしない
ことです。

睡眠で大事なことは長さではなく、質になります。たとえ夜中に何回も起きたとし
てもても、短時間で良い眠りの質を得られていれば大丈夫です。眠りの質が良
ければ、目覚めが良くすっきり起きることができます。ノンレム睡眠の間に物音や
目覚まし時計で起こされてしまうと、眠りが分断されるため、目覚めが悪く、頭が
ぼっとしてしまいます。快適な一日をスタートするには、早朝でも自然に目が覚め
た時に起き上がってしまうことです。


『腎臓と夜間尿の関係』

腎臓は2つあり分銅のようにぶら下がって常に働いています。体を横たえる事に
よって重力から解放されるため、少しのエネルギーでも腎臓は無理なく働く事が
できるようになります。昼間は頻繁にトイレに行かない方でも、夜間横たわると、
トイレの回数が増えるのにはこうした理由があります(下項で五臓六腑と時間の
関係からも解説していきます)。

年をとると老化してくるため、全機能が低下していきます。当然腎臓機能も低下
していきます。腎臓はぶら下がっているため、昼間より就寝時の方が負担がか
からず働くことができるのです。つまり、体を横たえ眠りについた時に、省エネで
がんばってくれているのです。

夜間トイレに行くことは悪いことのように思われていますが、実は体を守るため
に必要なことなのです。眠くても夜間目が覚めたら起き上がり、トイレに行く習慣
をつけていくことが大事です。起きた時には水を少量含むようにします。水を含
み口内をしめらせることによって、気付け薬(きつけぐすり)と同じ作用が働きます。
「心は舌に開竅する」(しんはぜつにかいきょうする⇒心臓の働きは舌に表われる)
と言うように、舌を湿らせることによって無理なく就寝時の心機能を上げることが
できるのです。舌が心臓機能のスイッチだからです。


『生きている体の起こす反応には意味がある』

生きている体の起こす反応には、全て意味があります。単純に就寝前に水分を
摂ったから、尿意を催し、目を覚まし、トイレに行っているわけではありません。
夜間トイレに行くのが嫌だからと言って水分を制限する方がいますが、制限して
はいけません。人間の体は一日約2〜2.5リットルの水分を汗や尿で排出してい
ます。つまり生命を維持していくためにはその分だけ水分をとる必要があるという
ことです。

夜間尿を気にしている方のほとんどが水をあまり飲んでいません。また不調にな
る方の多くは、お茶等で水分をとっているからと言って、水を飲んでいないのが実
状になります。たとえ水を制限しても夜間尿は続きます。そればかりか水を控えて
しまうと代謝が悪くなり、血液の循環、質が低下し、脳血管障害を起こしやすくな
ります。

血液の循環、質が低下してくると、益々眠りの質は悪くなります。眠りを浅くして
起こさせ、血液が停滞するのを回避しようとするからです。血液が停滞し血のめ
ぐりが悪くなると、脳内に充分な血液が行き渡らなくなり、血液をまわそうといっき
に脳圧を上げていきます。

脳圧が上昇すると、脳内の血管が切れやすくなります。これを回避するために、
目を覚まさせ夜間排尿によって、脳内の脳圧を抜く対応をとっていくのです。
故に誘眠剤等で朝までぐっすり眠ってしまうと脳血管障害を引き起こすリスクが
非常に高くなるのです。この対応をわかりやすく解説するために、次に”失禁”
と”鼻血”を例に挙げて説明していきます。


『同じ脳圧を抜く対応ながら、もっと急激な対応となる「失禁」と「鼻血」の意味』

極度の恐怖や命が危険にさらされた時に、自分では制御できず”失禁“する場合が
あります。これは何故起こるかと言いますと、急激な恐怖やショックを受けると、
肝臓が瞬時に充血し脳が虚血になります。体は脳に血液を急速に送り込もうと
するため、脳内の圧力が一気に高まります。脳圧が高まり脳内の血管が破裂す
るのを防ぐ対応として、失禁を起こします。失禁させて、尿を出す事で一気に脳
内の圧力を抜くことができるからです。

同じように脳圧を抜く対応として起こる現象に“鼻血”があります(外傷を除く)。
よく小さい子が、興奮してはしゃぎ過ぎて、のぼせて鼻血を出す事がありますが
これは脳の興奮を鎮める対応として起きています。つまり、これも脳圧を抜くため
の手段として、脳内に通じている鼻から出血させる事で脳圧を抜いているのです。

また中高年になると、突然に鼻から大量に出血し、なかなか止まらない場合があ
ります。長い時には半日以上続く場合もあります。これも脳圧を抜く必要から、自
らわざと鼻から出血させる事で、脳溢血やクモ膜下出血になるのを防いでいるの
です。このように体に起こる全ての症状は意味があって発生しています。命を守
る必要な対応として起こしているのです。

この事を熟知していた日本の古代人は、脳溢血やクモ膜下出血時の緊急救命法
として、手刀を鼻の下に当て、鼻に向かって強く左右に動かす事で、鼻を刺激し
わざと鼻血を出させる事で、脳圧をいっきに抜き、脳内の出血を最小限に抑えて、
命を守る方法を伝え残していたのです。古来より日本に伝承されてきた医学の高
度な見識と技術には驚かされるばかりです。


『夜間多尿や頻尿は私達の命を守るために発症している』

排尿回数が増える夜間多尿や頻尿もその根拠と機序は同一になります。
脳内の熱のこもりと脳圧の上昇を回避し、脳圧の上昇による脳梗塞や脳の血管
が破裂する脳溢血、クモ膜下出血といった脳血管障害を防ぐ対応手段になります。
尿を出す事で、脳圧を抜き、脳血管の破裂を防いでいるのです。これが夜間多尿
や頻尿の本質になります。

しかし夜間多尿と頻尿は、全く同じではありません。夜間多尿の場合は脳圧の上昇
が高くなる事で発生しますが、頻尿の場合は、精神的な要因が加味され、脳圧の
上昇だけではなく、脳内の熱の蓄積(脳の炎症)が著しい場合に生じます。
この脳内の熱の上昇を下げ、脳圧を抜く対応として頻繁に排尿せざるを得なくな
ります。故に夜間多尿の人は、日中の排尿回数は普通の場合が多く、頻尿の方
は昼夜を問わず、トイレの回数が多くなります。つまり夜間多尿と頻尿は根拠と機
序は同じでも、頻尿の方がより精神的な要因が強いということになります。(排尿
だけでは間に合わない場合は嘔吐や下痢を頻発させて対応していきます)。
それでは、何故夜間多尿の人は、日中の排尿回数は普通と変わりないのに、深
夜や明け方トイレに起きるようになるのか、五臓六腑と時間の関係から説明して
いきます。


『深夜にトイレに起きる人は、肝臓の機能低下があり、明け方目が覚め、トイレ
に行く人は生命力や免疫力の低下がある』

夜間や明け方に目が覚める方には、目覚めの時間に一定の周期が存在します。
つまり判で押したように、同じ時間帯に目が覚めるのです。この謎を解き明かす
には、東洋医学の発見が参考になります。

東洋医学では、何千年にも及ぶ臨床経験を通して、五臓六腑と時間の関係を解
明しています。つまり1日24時間の時間の経過とそれに対応する内臓の関連を発
見したのです。1日を2時間毎に分類し、それぞれの時間に応じて活発になる臓器
を発見し、時間に配当したのです。

その中で深夜と明け方に配当されているのが、肝臓と大腸になります。肝臓は夜
中の1時から3時の2時間になり、明け方の5時から7時が大腸になります。この
配当された時間帯に肝臓と大腸はその働きが一番活発になるのです。現代科学
的な概念を当てはめれば“体内時計”の作用ということになります。これは極めて
正確に作動します。以下その例を挙げて解説致します。

肝臓に配当されている時間は夜中の1時から3時になります。この時間帯に肝
臓の働きが活発になるのです。しかし肝臓に機能低下や病気がある場合は、
活発に働こうとしても、それを行なう事ができません。その場合に体のとる対応は、
弱った肝臓に大量の血液を集め、熱を発生させる事で、機能を高めようとします。

そのためには肝臓を支配する自律神経の中の「交感神経」を一気に優位に働か
せることが必要になります。交感神経が優位に働くためには、就寝していては交
感神経を優位にする事ができません。だから目を覚まさせるのです。これにより
深夜にも関わらず肝臓の時間帯になると、目を覚まさせ、上記のように肝臓機能
を正常に働かせようと対応するのです。そしてそれは肝臓の時間に配当された3
時まで継続します。故に肝臓機能の低下している人は、判で押したように、夜中の
1時から3時の時間帯に目が覚め、トイレに行く事になるのです。

この事実をよく示す例が有ります。それは病院で、肝臓に症状をもつ患者さん方は、
夜中の1時から3時の間に、体に異変が生じて、ナースコールを要求する回数が
激増するということです。しかし3時を過ぎると一気に減っていきます。この事実が
如実に肝臓の時間帯を表わしているのです。

ちなみに肝臓に内包されている胆嚢の時間帯は、その前の夜中の11時から1時
の2時間に配当されています。肝臓と胆嚢は一対の臓器で、“肝胆相照らす”(か
んたんあいてらす)の言葉の通り、密接に関係しています。胆嚢に機能低下の著
しい人は、11時から1時の時間帯に目が覚め、排尿だけではなく、下痢を催す事
がよくあります。下痢を伴うのは、胆嚢の機能低下から胆汁の分泌不足があり、
脂肪の分解吸収がうまくいかず、脂肪が未消化の状態で小腸に送られるため、
下痢させる事で、未消化物を体外に排出する対応が起こるからです。

このように肝胆両機能が低下の人は、夜中の11時から3時の時間帯に目が覚め、
異変が生じたり、この時間帯を過ぎないとなかなか寝付けないといった現象が起
きるのです。不眠症や精神疾患の方にこの傾向が多く見られます。尚、明け方の
3時から5時の間は肺に配当されています。肺に疾患のある方や機能低下の人は、
この時間に目が覚めトイレに行ったり、肺に違和感が出たりします。

生命力や免疫力の低下した人は、5時位に目が覚めてトイレに行く事になります。
この理由は、明け方の5時から7時の間は大腸に配当されており、大腸が一番活
発に働く時間帯になります。大腸は人体の免疫機構の主体で、全ての免疫物質
を生成する場所になります。人体の生命力や免疫力を維持するためには、この
大腸の機能を正常に保つ必要があります。故に免疫力や生命力の低下した人は、
この時間帯に目を覚まさせ、トイレに行かせ、眠らせなくする事で大腸の機能を高
める対応をとっていくのです。

また東洋医学では「心 - 膀胱」(しんぼうこう)とも密接な関わりがあることを説い
ています(十干十二支の関係)。つまり臓器は単体で働くのではなく、互いに関連
し合って機能しているということです。心 - 膀胱と言う言葉の通り、心臓と膀胱に
は関わりがあります(腎臓と膀胱は表裏の関係になります)。

冒頭で記載したように、高齢になり臓器が機能低下してくると、体は省エネ(エネル
ギーを節約すること)で働くように工夫していきます。その為には、腎臓や心臓に
負担がかからないよう、昼間より夜間排尿することよってオーバーワーク(過度な
労力)しすぎないようにバランスをとっているのです。

このように生きている体のする事は、全て意味があって発生させています。
年を重ねていけば誰しもが、自身の体の力⇒体力(免疫力・生命力・自己治癒力
筋力等)が低下していくというこを、自覚していかなければなりません。体力には
自信があると過信してはいけません。体は自分が思っているより、もう若くはない
のです。無理がきかない年代に入っているのです。


『夜間尿を封じ込める事はさらに脳血管障害のリスクを高める』

夜間多尿や頻尿を訴える患者が急増し、その対策が急務となっています。この
状態を鑑み、現代医学の出した病名が「過活動膀胱」という捉え方になります。
水分過剰摂取、高血圧等様々な理由で薬を処方しているのが現状ですが、これ
はあまりにも狭い捉え方と言えます。夜間多尿や頻尿は、単に膀胱(腎臓)という
局所だけの問題ではなく、心臓や脳とも関連があって発生しているからです。

尿意を薬で抑え、排尿の回数を減少させる処置は断じて避けるべきであります。
夜間多尿は、排尿によって、心臓のポンプ機能を上げ、血液を速やかに脳に送
り込む対応になります。一時的に血圧を上げて、脳梗塞や脳溢血、クモ膜下出血
を回避するための緊急対応になります。血圧(血液を流す力)が高くても、薬で下
げてはいけません。薬やサプリメント等で封じ込めたり誘眠剤を使用してしまうと、
脳血管障害のリスクを高める事になります。

夜間多尿は目を覚まさせ、排尿をする事で脳内の熱のこもりと脳圧を抜き、脳血
管の破裂を防いでいる大切な対応手段です。また、水を制限することは、健康を
著しく害するということ、夜間のトイレは悪いことではないということをこの章では
皆様方に認識して頂きたいと思います。

日本伝承医学では、病気や症状の根本的要因をまず自分自身が知ることから
説いています。真実の要因を知らなければ誤った選択をしてしまうからです。
病気や症状は医者や治療家が治すのではなく、自らも治すという意志、自分でで
きる自助努力が必要です。日本伝承医学は治療と家庭療法を実践していくことで、
病気や症状と共存しながら免疫力と生命力を高めていく医学になります。


『日本伝承医学と家庭療法』

夜間尿や頻尿の根拠と機序を解説してきましたが、根拠と機序が示されたという
事は、どうすれば良いかの答えも見えてきます。それは、脳内の熱のこもり(脳の
炎症)と脳圧の上昇を抑制する事が不可欠であり、その大元の要因となっている
肝臓胆嚢心臓機能の低下を元に戻すことです(脳内の熱と脳圧の上昇原因の詳
細はホームページ、院長の日記の各項を参照下さい)。

そのためには、局所の問題だけでなく、全ての病の背景に存在する生命力や免
疫力低下を補い、病気や症状の直接的な要因となる全身の血液の循環・配分・
質(赤血球の連鎖と変形)の乱れを正すことが求められます。

明け方の5時位に目が覚めトイレに行く人は、生命力や免疫力が低下している人
に見られる兆候です。これを改善するためには、その人自身の生命力と免疫力を
元に戻す必要があります。大腸の機能を上げるだけではなく、新たな細胞や血
液を作り出す事が不可欠です。

以上の要素を実現できるのが、細胞新生と造血を担う骨髄機能を発現できる日
本伝承医学になります。また肝心要となる肝臓と心臓機能を高めることを目的
にした日本伝承医学の技法が効果を発揮します。これにより全身の血液の循環・
配分・質の乱れを修復できるのです。血液の循環、質が改善されれば、脳に十分
な血液が供給できるようになり、脳内の熱の貯留と脳圧の上昇を制御できるのです。

また、家庭療法として推奨する頭と肝臓(胆嚢を含む)の局所冷却法を併用し毎
日実践することで、脳内の熱と脳圧の上昇を除去し、肝臓、胆嚢の熱と充血を抑
え肝胆機能を整えることができます。脳内の熱と炎症を速やかにとり去る方法と
して、氷を入れたアイスバッグを用いて首すじの冷却を行ないます。首すじを冷や
すことで、脳内に冷たい新鮮な血液が行き渡ります(家庭療法、局所冷却法の詳
細はHP、院長の日記の項を参照)。症状は現われている現象だけを封じ込めよ
うとしてはいけません。その根拠と機序を正しく理解し根本から見直し改善してい
くことが大事です。