運動選手のシンスプリント(脛骨疲労性骨障害)は何故起きるのかーー
 その原因と対処法               2017.2.10. 有本政治

シンスプリントのシンとは脛(スネ)の事を指します。日本では「弁慶の泣きどころ」
と呼ばれる場所で、下肢の膝から下の下腿骨の中間部にあたります。シンスプリ
ントという名称は、幅広い解釈があって内容が一定ではありません。脛骨疲労性
骨膜炎、過労性脛骨部痛、脛骨内側症候群などとも呼ばれています。ここでは
疲労骨折も含め、骨膜炎、筋膜の炎症の全てを含めて、脛骨疲労性骨障害とし
て解説致します。


『原因はオーバーユースと言われているが、これは原因ではなく引き金であるーー
 起こるべくして起きている』

脛骨疲労性骨障害の原因を、一般的には使いすぎ(オーバーユース)としてあげ
ています。しかしこれは原因というより、正しくは”引き金”という位置づけになります。
なぜならば、使用しない休養期間をおけば、痛みは一時的には除去できますが、
トレーニングを再開すると、ほとんど再発を繰り返してしまうからです。

再発防止のための筋力トレーニングやストレッチング、アイシング等を駆使しても
中々効果を上げる事はできません。また対症療法に終始し、過度な手術や金属
装着等により益々悪化するケースも多く見られます。これはこの疾患の根拠と機
序が明らかにできていない事に起因しています。
この脛骨疲労性骨障害は起こるべくして起きているのです。以下日本伝承医学的
に考察し、その根拠と機序を解説し、その対処法を示します。


『本来下肢全体で重力を分散して受けるべきものが、下腿の脛骨の内側に応力
 の集中が発生する事が最大の理由になる』

脛骨疲労性骨障害の症状の中の疲労性骨膜炎や疲労骨折は、一箇所に持続的、
集中的にストレスがかかる事で、発生します。これは本来起こってはならない
現象です。他の四つ足の動物と違い、縦長で二足直立歩行をする人体は、下肢
に上体の重さが集中します。これをうまく緩衝し分配する事で、一箇所に応力の
集中を防ぎ、足を破壊から守っています。

この下肢の重力緩衝構造は、四つ足の動物から人類特有の二足直立歩行に至
る何千万年という時間の経過の中から、徐々に完璧に獲得した人体の仕組みと
構造になります。一例を挙げれば、地面に接する人体の足は、あんなに小さいの
に動きの中で、何百キロという負荷がかかっても破壊されない構造を有しています。
また耐久性もあり、一生涯全身の重さを支えられる構造と仕組みをしています。

この足の構造は「アーチ構造」と言い、重い荷重を支える構造物の基本形になっ
ています。メガネ橋に代表される様に、アーチ型をしていて、お椀を伏せた様な形
で、小さくてもかかる重さを均等に分散して、破壊されない仕組みになっています。
また長期間の使用にも耐え、一生の使用に耐えられる様に作られています。

この様な構造は足だけではなく、下肢の他の関節の全てが、完璧な重さへの緩衝
装置と力の分配構造を有しています。さらにその支柱となる人体の骨は、荷重に
耐えられる理想的な構造と形状をしています。これは人類だけでなく、生物として
生き抜く上で当然獲得すべき仕組みと構造です。故に本来なら下腿の脛骨の内
側に力の集中が起きる事はあり得ないのです。

このような完璧な重力緩衝構造を有しているのに、一点に負荷がかかり、それが
持続する事で疲労性の炎症を発する事は、使いすぎという理由や、部分的な問題
ではなく、人体全体の構造にゆがみが起き、その中で力のつながり伝わり方に変
化が生じた事が原因と考えられます。


『その一点応力集中の代表的な例が、女性に多く見られる外反母趾である』

この本来起こり得ない力の集中の分かりやすい例が、女性に多い外反母趾にな
ります。外反母趾とは足の親趾の付け根の関節がくの字に曲がる変形症状で、
炎症を起こし、悪化すると歩行が困難になります。

現代医学においては、外反母趾の原因を、先の細いハイヒール状の靴を履いた
ことで起こると説明していますが、これは大きな誤りです。確かにハイヒールの着
用は、外反母趾を助長はしますが原因ではありません。踵の高い先のすぼまった
靴など一度も履いたことの無い女性にも外反母趾は起きているのです。これは
明らかな矛盾です。

外反母趾の原因は、前述の様に足のアーチ構造が崩れ、一点に力の集中が持
続した結果、足の親趾の付け根の関節に変形が生じたのです。
外反母趾が一点に力が持続的に集中して起こる様に、脛に起こるシンスプリント
も下腿骨の脛骨の内側に力の集中が起こる事で発生します。


『この力の集中は、何故発生するのかーーー簡単な実験から判明する』

立位で肩幅くらいに両足を開き、上体を伸ばしたまま両膝を屈曲するとこれに連
動して足関節も曲がります。この時足関節や膝関節に障害が無ければ、何の問題
もなく膝は曲げ伸ばしできます。

次に同じ姿勢で、足の位置を動かす事なく、上体を極限までねじって先程と同じ様
に膝の屈曲を行なうと、力の伝わり方が変わって、足の親趾側と脛の内側に負荷
がかかるのが体感できます。逆側も行なって同じ様な感覚になります。今度は膝を
屈曲した状態で上体を左右に最大にねじります。以上の実験で、外反母趾やシン
スプリントの無い人は負荷がかかった部分が痛む事はありません。しかしシンス
プリントの人はこの動作をすると脛に痛みや違和感が発現します(以前に足や膝
を痛めた事がある人は、足や膝に痛みや違和感が先にでます)。

この実験からわかる事は、上体にねじれのゆがみがあると、足関節や膝関節は
曲げる事はできても、力のつながり伝わりが変わり、力を分散吸収できず、足の
親指の付け根と脛の内側の一部に力の集中が’発生するのです。足の親趾の付
け根にゆがみが集中したのが外反母趾で、脛骨の内側に力の集中が起きたのが
シンスプリントに進行したのです。


『上体にねじれたゆがみがある人がシンスプリントを発症する』

上記の実験で上体が右にねじれてる人は、左の脛に力が集中します。上体が左
にねじれている人は右の脛に力の集中が発生します。しかしこの上体のねじれに
自分では気付かない場合がほとんどです(詳細は日本伝承医学の人体バナナ理
論の項を参照)。

自身ではねじれを自覚できなくても、上体にねじれのゆがみがある状態で、飛ん
だり跳ねたり、走ったりを継続したために、前述の実験で明らかになった様に脛
骨の内側に力の一点応力集中が起こり、この持続がシンスプリントを発症させた
のです。


『全体と部分の関連を見ないで、局所を治療しても、休養をとってもシンスプリント
は改善しない』

自分では気付かない上体のねじれが、力のつながり伝わりを変えて、体の重さを
支える下半身に力の一点応力集中を起こす事でシンスプリントは発症しています。
この全体との関連を無視して、オーバーユースを理由に休養をとっても、復帰す
れば元のもくあみで、すぐに再発してしまいます。また局所の痛みを一時的に様々
な治療法でとり除いても、練習に復帰すればこれもすぐに再発します。


『どう対処すれば良いか』

シンスプリントを改善に向かわせるためには、全身に起こっている上体のねじれ
と、局所の治療の両面からのアプローチが不可欠になります。体のねじれを修正
するには、日本伝承医学の治療法が最適です。日本伝承医学の治療は体のねじ
れたゆがみを修正する事を目的に技術が構築されています。手足を開いて角度
張力を用いて、三指半操法を行ない、骨伝導を介して体のねじれを修正します。

この技法をまず行ない、シンスプリントを起こした側の下肢の股関節、膝関節、
足関節全てにおいて、ねじれを矯正する技術を用いる事が必要です。脛だけでは
なく下肢全体の関節を対象に治療を行なうのです。これにより脛の局所に起こって
いる炎症を鎮めることができます。

また日本伝承医学独自の骨伝導を利用したひびき操法を使う事で、骨全体にひび
きが伝わり、骨に電気が発生する事で、骨を修復するための骨芽細胞と破骨細
胞を産出させ、この二者のバランス関係を一番良い状態にする事で、シンスプリ
ントで発生している、骨折やヒビを早く効率よく修復させます。また骨膜の炎症を
鎮静させます。

このように全体と局所の両面からのアプローチと、骨伝導を使用して、骨組織の
細胞発現を助ける治療法がシンスプリントを一番早く確実に回復に向かわせるの
です。また当院で推奨する、患部の徹底した氷冷却法が、患部の炎症を速やか
に除去し、治癒を早めます。再発の防止にも有効に作用します。