『つま先立ち』と『腕立て伏せ』は何故必要なのか 2018.6.12.有本政治

今年で臨床歴45年を迎えます。たくさんの患者さんを日々診察する中で、病気や症状が中々
改善しない方がいます。それは何の自助努力もしないで、病気は先生が治してくれると思って
いる他力本願な方々です。以下当院が家庭療法として推奨する『つま先立ち』と『腕立て伏せ』
の重要性を解説していきます。

『心臓のポンプ力を高める為につま先立ちと腕立て伏せが必要』
病気や症状を改善するためには、低下した体の力(体力)を高めていくことです。体力とは、
筋力、免疫力、生命力のことになります。体の力をとり戻すためには、命(生命)は何と何で成
り立っているのかを知る必要があります。つまり生命を成り立たせているものは何かという事
です。それは命の源と言われる、“血液”になります。「血は命」と表現され、これが体内を廻ら
なければ生命は維持できません。つまり病気や症状の直接的な原因は、血液の循環・配分
質の乱れから発生しているのです。血液が不足する所に、症状や病気は発生します。また逆
に病気や症状を回復に向かわせるためには、新鮮な血液を、不調な個所に供給する事が絶
対必要条件になります。

例えば、脳に血液が不足する事(虚血)で、頭痛は発生します。これは痛みの信号を発して心
臓の拍動を強め、脳に早急に血液を集める対応になります。子宮に血液が不足すると、子宮
けいれんを発して、血液を子宮に周囲から吸い集めようとして激痛が起きます。同様に胃に血
不足が起こると胃けいれんを起こし激痛が起き、胃にいっきに血液を集めようとします。
このように血液が不足する所に症状や病気は発生していきます。

つまり病気を治すためには、如何に新鮮な血液をいち早く不調な箇所に送り込めるかにかかっ
てくるのです。そのためには血液を全身に送り出す役割を担う心臓の役割が重要になってきま
す。生命活動の中心は心臓です。この心臓のポンプ機能の補佐をしてくれるのが、ふくらはぎ
と、にの腕の筋肉になります。

心臓のポンプ力が低下している方のほとんどが、ふくらはぎとにの腕の筋肉が萎(な)えてしま
っています。筋肉とは生命力の源(みなもと)であり、筋肉が萎えてしまった人のふくらはぎと
にの腕についているのは、筋肉ではなく、単なる肉なのです。これでは心臓のポンプ力を助け
ることはできません。毎日継続することで、ふくらはぎとにの腕に筋力をつけることができるのが
つま先立ちと腕立て伏せになります。

『血液を心臓まで還すのは、手足の筋肉ポンプの働きによる』
心臓は血液を噴出するポンプの役割を担っていますが、全身に送り出した血液を吸い戻す働
きは有していません。全身に送り出して組織器官を潤した血液を心臓まで還すには、上肢と下
肢のもつ筋肉ポンプ作用を利用するしかないのです。このことから“足は第二の心臓”と呼ばれ
ているのです(リンパ液の循環も筋肉ポンプ作用になります)。

手足の筋肉(ふくらはぎとにの腕等)は“形状ポンプ”と呼ばれる円錐形(えんすいけい)をして
いて、円錐の形をした筋肉の下部が収縮する事で、血液が上方に押し上げられる構造になって
います。それが下肢での歩行や筋肉運動によって足から下腿部、大腿部と連動して心臓まで
血液を押し上げているのです(心臓まで血液を還す静脈には、逆流しないように静脈内に弁が
設けられています)。

心臓まで血液を還す機構が正常に稼働しないと、心臓は血液不足に陥り、血液が心臓内に貯
まるの待って大きく拍動させるため、「動悸」という症状として現われてきます。心臓の血液不足
がさらに進むと、心臓に血液を集める必要から、周囲から血液を吸いとろうとし、心臓筋肉に
けいれんをおこさせる「狭心症」や「心筋梗塞」等の症状を引き起こします。

また心臓に還る血液量が少なくなると、脳へもち上げ供給する血液量も減る事になり、脳に虚
血(きょけつ)が生じます。これは頭痛やめまいを引き起こすだけではなく、脳内の少ない血液
を隅々まで早く廻そうとするため、脳圧の急上昇をもたらします。脳圧の上昇が極限を超えると
脳溢血やクモ膜下出血、脳梗塞という脳血管障害を引き起こします。つまり心臓まで還る血液
を如何に確保するかが「大命題」となるのです。この心臓まで血液を還すための、上肢の筋肉
ポンプ機能の中心を担っているのが、にの腕の筋肉で、下肢の筋肉ポンプ機能の中心を担っ
ているのが、ふくらはぎの筋肉になります。

『二足直立を果たした人類の構造的な弱点』
四つ足動物の中で唯一二足直立を果たした人類は、そのお陰で大脳の発達を獲得しました。
火を起こし、道具を発明する事で、“万物の霊長”として君臨する事になりました。しかしその反
面、四つ足動物のもっていた手足四本を使っての心臓まで血液を還す筋肉ポンプ機構の半分
を失う結果となってしまったのです。

二足直立になったために血液を十分に心臓まで還す力を失い、常に心臓に負担をかけ、心臓
に虚血(血液不足)状態を作り出し、生命活動において構造的な弱点を生み出してしまったの
です。しかし生命体とはどんな状況に陥っても生命を存続させるための手段を講じていきます。
人間は、下肢の筋肉量を格段に多く大きくする事で、筋肉ポンプを補う対応手段を獲得したの
です。

例えば大型犬が立ち上がると、人間の身長と変わらない背丈になりますが、その後ろ足の筋
肉量は人間の下肢の筋肉量よりはるかに小さく、骨の大きさも長さも短いです。人間の下腿部
の筋肉は、四つ足動物の十倍以上あり、大腿部、臀部も筋肉の量と太さが圧倒的に違います。
このように人間は下肢の骨の長さや大きさと筋肉量の多さを獲得する事で、筋肉ポンプの能力
を増幅し、半減した手足のポンプ機構を補う対応をとって生きてきたのです。

しかし人類は縦長な構造体をもち、心臓の位置が上部にあるために、どうしても四つ足動物の
効率の良い四つ足を使用したポンプ機構に比べると心臓まで還る血液量を獲得するまでには
至らなかったのです。これが人類の肉体の構造的な欠陥と言えます。心臓までの血液量の不
足が心臓に大きな負担を生じさせ、人間に心臓疾患というものを発生させ、また全身への血液
供給を低下させることが、すべての病気の大きな要因となったのです。

『二足直立の人類のもうひとつの弱点』
人間のもう一つの弱点が、脳への血液供給の低下になります。四つ足の動物は二足直立の
人間に比べて頭の位置が低い位置にあります。また動物の頭の位置は、動物の心臓とほぼ
同一の高さにあるために、脳への血液供給に負担がかからずスムーズに脳へ血液を送り込
む事ができます。

それに比べて人間は、頭が立位において、心臓よりもかなり高い位置にあります。これは頭へ
の血液供給に大きな負担をかける事になってしまったのです。そのため脳に虚血状態を作り
やすい、脳障害を発症しやすい構造的な弱点を生み出す事になったのです。

心臓まで還る血液量が不足しがちの人間は、さらに脳への血液供給を慢性的に減らすという
弱点ももつことになってしまったのです。人間だけに心臓疾患と脳血管障害が圧倒的に多い
理由がここにあったのです。四つ足動物には心臓疾患や脳血管障害はほとんど発生せず、
その種に備わった寿命を全うすることができます。人間だけが本来もつ寿命を最後までいまだ
全うすることができていないのは以上の理由によります。

『自信がある人ほど己の体を過信している』
患者さん方につま先立ち運動を奨励すると、皆さんよく、私は毎日ストレッチをしてますとか、ラ
ジオ体操をやってます、ジムに行ってます、山登りをしてます、歩行を毎日実行しています等と、
口々に言われますが、肝心な、基本となるつま先立ちや腕立て伏せを毎日していません。
つま先立ちや腕立て伏せを馬鹿にしていて、基本をおろそかにしているのです。事実、つま先
立ちをやってもらうと、ぐらつき、踵(かかと)を高くあげて行なうことができません。

いろいろやってます等と自慢げに語る人ほどできません。みなさん踵のもち上げが低く、目一
杯高くもち上げさせると、かかとが上がらずにバランスを崩してしまいます。ふくらはぎの筋肉が
萎えてしまっているということです。昔スポーツをしていたとか、体力には自信があると言う人ほ
ど、 一番大事な基本ができていないのです。誠に残念な生き方です。過信(かしん)ほど、
愚かなものはありません。

目標とするつま先立ちとは、踵(かかと)を目一杯高くもち上げ、バランスを崩すことなく10秒間
姿勢を保持でき、これを10セット連続で行なえるだけの筋力の獲得になります。できるだけ踵
が高くもち上げられる筋力の維持が必要になります。当然歩行も運動も何もしていない人は、
低いつま先立ちでも5秒ともちません。筋力が完全に萎えてしまっているのです。これでは心臓
まで血液を還すポンプ機構が十分に働くことはできません。こういう方は心臓病や脳血管障害
を引き起こしやすいということです。ストレッチングボードとの併用を勧めます。

『腕立て伏せの意味を知る』
つま先立ちと並行して奨励しているのが腕立て伏せになります。これは一般的に行なわれてい
る運動選手達の腕立て伏せとは概念が異なります。早く何十回と行なう必要はありません。
ゆっくり無理の無いように自分ができる回数をマイペースで行なうことです。

人間は四つ足から二足直立を果たして前足に相当する上肢を地面から離したために、地面か
らの重力圧を受けない身体構造になってしまいました。腕立て伏せは、この重力圧を受けなく
なった上肢に重力圧(自重)をかける役割があります。これにより、関節の骨や筋肉の弱体化を
防ぎ、心臓へ還る血液の筋肉ポンプ力を高めてくれます。

『重力圧を受けなくなると、人体の関節の骨や筋肉はどうなるか』
四つ足の動物は四本の手足が地面に接しており、手足の関節の全ては、常に重力圧を受け
ています。実はこの関節にかかる重力圧が、関節の骨や筋肉の劣化と弱体化を阻止し、筋力
や筋肉ポンプ機能を維持するために重要な働きを担っているのです。

これを証明したのが、無重力空間で生活した宇宙飛行士になります。初期の宇宙飛行士は、
無重力の空間で、下肢の関節に重力圧がかからない時間を過ごしたため、骨からカルシウム
が溶出し、骨の中がすかすかになり、筋肉が急激に萎えてしまったのです。ペラペラの筋肉に
なり関節の動きを失ったのです。初期の宇宙飛行士は無重力空間から、1Gの重力をもつ地球
に帰還した時、自力で立ち上がる事ができず、体重をかけただけで骨折してしまったのです。

つまり関節に圧がかからなくなると、骨を破壊し、筋力を萎えさせるということです。これを防ぐ
対応として宇宙飛行士は無重力空間に適応するために、関節に圧のかかるトレーニングを課
す事になったのです。1日の中で2時間くらい、巨大なゴムバンドを使用して、立位で肩から足裏
まで圧を加えて固定し、この状態での維持や足踏みを加えた運動や仰臥位で足の関節に圧が
かかる自転車漕ぎに似た運動を日課としたのです。怠ると宇宙空間での生命維持ができなくな
るからです。関節の骨や筋肉が弱体化するだけでなく、心臓まで血液を還す筋肉ポンプ作用が
低下し生命維持ができなくなってしまうからです。

『日本伝承医学的考察』
日本伝承医学的に考察すれば、骨に圧がかかる事で電気が発生し、瞬時に骨伝導を介して
全身に伝わり、骨の中の骨髄機能を発現させ、造血と細胞新生を促進する事で生命力と免疫
力を高めることができるのです。さらに全身の血液の循環・配分・質を整えることができます。
これは当然、筋肉の強化へつながっていきます。

腕立て伏せにより上肢の骨に圧がかかる事で、電気が発生し、この電気が骨に付着する筋肉
に刺激を与え、筋肉の増幅を促す効果も発揮されます。これにより、萎えてしまった筋肉を蘇
生させる事ができるのです。

上肢の末端である手や指先を握ったり開いたり震わせたりする運動でも、血液を脳や心臓に
還す手助けになります。人類は二足直立により上肢への重力圧を失った補助対応のために、
四つ足動物にはない手や手指の巧緻な動きを獲得したのです。手や指先を細かく動かし使用
する事で、脳や心臓への血液の流入を促しているのです。
(参)昔から日本で行なわれているオハジキ運動(指先をはじく運動)は、骨へのヒビキが入るた
  め効果的な手指運動になります。

『四つんばいも大事』
腕立て伏せは、一方向からの面圧ではなく、あらゆる角度、方向からの作用力線から肩まで圧
力がかかることが理想となります。この理想形が四つんばいになっての四つ足歩行です。
近年四つんばいが見直され、健康法にとり入れられてきたのにはこのような理由があります。
四つんばいになり手、肘、肩と面圧がかかることによって骨に電気が発生して骨髄機能が発現
されるからです。つま先立ちや腕立て伏せと合わせて、四つんばいもとり入れてみましょう。

また、高齢で普通の腕立て伏せが厳しい方は、丈夫な台や備え付けの低い棚等に手をついて
斜め、前傾の姿勢からの腕立て伏せを行なうようにします。自分のやりやすい無理のない角度
を探して行なうようにします。最も理想形は、腰位の高さの台に斜め前傾姿勢から両手をついて
両腕を伸ばしたまま、重力圧をかけた姿勢から身体を前後に移動して、肩への入力角を変えて
重力圧を加える方法になります。何事も、『継続は力なり』です。言われたから仕方なくやるので
はなく、自らが自覚して、自分の意志で、毎日日課として継続して行なうことです。

『特に女性は、筋肉が萎えやすい』
男性は男性ホルモンが強いために筋力の低下は起こりにくいのですが、女性は30代から急速
にふくらはぎとにの腕の筋力が低下していきます。なぜならば、女性ホルモンの分泌が低下し
これを補うために骨に蓄えていたカルシウムを流出させ、筋肉から栄養を吸いとるからです。
故に女性は、骨粗鬆症にもなりやすくなります。

女性は、初潮を迎えてからは、体が子どもを産む準備に入ります。そのためには筋肉からも
エネルギーをもらい、体の中のカルシウムだけでは足らず、骨の中からもカルシウムを溶出さ
せ使っていきます。故に出産適齢期の時期を過ぎると、急速に筋力の低下が進行していきま
す。それが顕著に現われるのがふくらはぎとにの腕の筋肉になります。

筋肉は血液を循環させる要(かなめ)、生命力の源(みなもと)です。つまり筋肉が萎えてくると
血液を循環させる事ができなくなり、心臓に大きな負担をかける事になります。心臓機能が低
下してしまうのです。内臓の中心となる心臓機能が低下すると様々な病気や症状を発生させて
いきます。女性は、20代後半からつま先立ちと腕立て伏せを毎日行なうようにして下さい。
男性の場合も過信せず、30代になったら毎日行なうようにして下さい。この文章を読まれた方は
30代をとっくに過ぎていても今からでも実践して下さい。

『付記』

先に目を閉じてから片足立ちをしてみます。(片足立ちをしてから目を閉じるのではありません)
ふらつく人は、脳内の毛細血管の流れが悪く、毛細血管につまりが起きています。脳梗塞や
脳溢血が起きやすい兆候です。脳圧が高く、眼圧も高くなっているので、頻繁に瞳を閉じて、
脳を休める習慣をつけて下さい。意識的に瞳を閉じて光を遮断し、脳を休めることはとても大事
な事です。

先に目を閉じてから片足立ちをしてみてぐらつく人は、脳と足裏との指令がスムースに行なわれ
ていないため、バランス感覚がとれなくなっています。脳のおとろえ、脳の劣化が起きています。
認知症予備軍でもあります。この様な方は肝臓と頭の冷却も毎日徹底して必ず行なうようにし
てください。病気は、治療家や医師が治すのではありません。生活習慣の乱れを正し、自助努
力を怠らないように指導し導いてくことが、真の治療家の務めだと私は思っています。