ひたい冷却の意味  2019.3.11 有本政治

『日本人は昔からどのような病気のときでもひたいを冷やしていた』

日本で古来から行なわれているひたい冷却は、日本独自の慣習になります。
今のように氷がまだ無かった時代では、水で濡らした冷たい手拭いを、病気の時に
ひたいにあてて、おでこを冷やしていたものです。手拭いが温かくなったら冷たい水
でゆすいで絞り、またひたいにあてて冷やしました。

氷が手に入るようになると、氷嚢(ひょうのう)に氷を詰めて、氷嚢スタンドからぶら
下げて、ひたいにあてました。昔はどこの家庭でも氷嚢と氷嚢スタンドは家庭の常
備品として置いてあり、そしてあたり前の様に、具合が悪くなると、ひたいを冷却して
いました。この様な慣習は日本以外の国ではほとんど見られません。
ひたい冷却は日本にだけ古来より伝統的に行なわれていた家庭療法だったのです。


『ひたい冷却の意味は脳の「前頭前野」の熱のこもりをとる事にある』

ひたいという場所の内部は、脳の機能の分類からすれば、前頭前野と呼ばれる場
所になります。丁度オデコの位置になります。この前頭前野は“人間のこころ”と表
現され、精神と深く関わる所になります。精神面だけではなく、前頭前野は「考える、
記憶する、やる気を出す、感情をコントロールする、判断する、応用する」等の働き
の中心をなしています。つまり脳の中枢部でもあるのです。

近年うつ病は、この前頭前野に炎症が起きている事がわかってきました。逆にそう
状態の時には、脳幹部の扁桃体に炎症が起きている事が判明しています。つまり
精神の病(やまい)は、脳の炎症から起きるといっても過言ではありません。
ひたいの冷却は、この脳の炎症を速やかにとり去り、前頭前野の炎症、脳内の熱の
こもりを除去するための、最も効果的な方法でもあったのです。この事実を古代の
日本人は既に知り得ていて、どの様な病気に対してもひたい冷却をしていたのです。


『ひたい冷却は副次作用として、脳幹部や間脳の熱のこもりをとる方法でもある』

ひたい冷却は、前頭前野の熱をとる事が主体になりますが、副次的に脳の中心の
脳幹や、間脳の熱のこもりをとる事もできます。
脳の中心の脳幹部は別名「命の座」と呼ばれ、基本的生命維持機構に指令を出す
中枢の司令塔の役割を果たしています。基本的生命維持とは「呼吸、心拍、体温、
自律神経、情緒の安定等」を指し、正に「命の座」と呼ぶに相応しい場所になります。

この部分に熱がこもると、中枢の指令系統に乱れが生じ、生命維持機構の機能が
低下します。これは生命力や免疫力を著しく低下させ、あらゆる病気の根本原因と
なっていきます。また間脳は人体のホルモン系に指令を出す中枢であり、ここの熱
のこもりも同様に人体の生理機能に大きな影響を及ぼしていきます。
ひたい冷却により、この脳幹と間脳の熱のこもりをとり、指令系統の乱れを正す事
ができます。これにより生命力や免疫力を回復することができるのです。


『ひたい冷却法が行なわれなくなった理由』

ひたい冷却は次第に行なわれなくなってしまいました。日本の家庭に常備されていた
氷嚢や氷嚢スタンドはその出番を失っていったのです。その大きな理由が現代薬
の登場になります。その中でも抗生物質(抗細菌生物物質)の出現です。

抗生物質の効果を世に知らしめたのが、結核病の原因となる結核菌を殺す「ストレ
プトマイシン」だったのです。結核という病気は、この薬の登場まで不治の病とされ、
戦前まで死因の第1位にありました。それが結核菌を殺すストレプトマイシンという
抗生物質により、結核による死亡者を激減させたのです。

また、その他の伝染病に対しても、赤痢菌、腸チフス菌、コレラ菌等を殺す抗生物質
が次々と開発され、伝染病による死亡者を激減させたのです。これらに代表される
現代薬の登場が、病気治しは薬に頼るという風潮を定着させていったのです。

日本には元々“越中富山の薬売り”に代表される様に、薬売りが各家庭を周り、各
家庭に常備薬を置いていくという、薬の流通が確立されており、具合が悪くなると
直ぐに薬を飲む習慣がありました。ただ当時の常備薬とは現代薬ではなく、漢方薬
や日本の本草でした。

これらが相まって、日本人の薬信仰の様なものができ上がっていったのです。
抗生物質の登場が益々拍車をかけ、病気を治すためには全面的に薬に頼る方法
を定着させ、日本に伝わるこの伝統的なひたい冷却が行なわれなくなってしまった
のです。


『現代社会にはひたい冷却が必要』

現代ではパソコンやスマホ、ゲーム機の普及が脳と眼の酷使を生み、眼と脳の酷
使から脳内に熱を発生させ、熱をこもらせています。この様に、現代人の脳内の熱
のこもりは、常軌を失しており、ひと世代前の人と比較すれば、数十倍以上に達し
ていると考えられます。

脳内の熱のこもりは脳圧を上昇させ、若年性の脳血管障害(脳いっ血、くも膜下出
血等)を招くことになります。現代人の脳は“パンク”寸前と言っても過言ではありま
せん。身体と脳への影響力を最小限に抑える事が不可欠です。そのための手段と
してひたい冷却が必要になってくるのです。


『日本伝承医学では、ひたい冷却を家庭療法として推奨』

当院では日本伝承医学の治療と並行して、ひたい冷却法で脳内温度(脳温)を下げ
ることを家庭療法として毎日実践してもらっています。様々なストレスや心労により、
昨今、抗うつ剤や精神安定剤、誘眠剤等の薬を飲んでいる方が増えてきました。
薬は一時的に症状を封じ込めるだけで根本的な改善にはなりません。そればかりか
自分で病気を治す、自己治癒力を著しく低下させてしまいます。

ひたいを冷却することで、脳内温度を下げ、前頭前野の炎症を鎮め、後頭骨と両首
を冷却する事で“脳温”の上昇を防ぎ、脳内に新鮮な血液を送り込み、症状を緩和
することができます。また日本伝承医学の治療で骨髄機能を発現させ、低下した
生命力と免疫力を高め、病気の直接的要因となる全身の血液の循環・配分・質の
乱れを正す事で、不調な個所を改善できます。


『ひたい、頭部、首筋の冷却法』

冷却にはアイスバックと氷枕を使用します。日本伝承医学で推奨しているものは、
冷却伝導に優れ、耐久性があり、薄型で丈夫なため、頭や背中に敷いて使用する
事ができます。

ひたいを冷やす時には体は楽な姿勢をとり、アイスバックに氷を詰め、おでこの気も
ち良い所を見つけ、あてます。直接だと冷たすぎる場合は、アイスバッグを手拭いや
バンダナ等で包み温度調節します。気もちが良ければ日中や夜間等、いつでも、
何分続けても大丈夫です。最低20分くらいあてれば効果はあります。パソコンを使
用している時は脳内にかなり熱を帯びてくるので、手元にアイスバッグを用意して、
冷却しながら仕事をすると良いでしょう。脳温を下げるためには水の摂取も大事です。
水をこまめに飲む習慣も付けます。

夜間は一日の疲れをとるためにも、氷枕を頭に敷いて就寝するようにします。
日中、仕事やパソコン、スマホで熱を帯びた脳を、就寝中に冷却し、熱を除去するよ
うにします。夜間に氷枕で頭部を冷却することで、脳内に新鮮な血液がめぐり、良い
脳内物質が生産されていきます。朝起きると枕が異様に熱くなっていることがよくあり
ますが、頭部はこれだけ熱がこもる場所だということです。疲れた時やストレスを感
じた時には、就寝時の冷却は必ず行なうようにします。

脳内温度を下げるためには、首すじにアイスバッグをあてて冷却します。両首、もし
くは気もちが良いと感じる方を冷やします。首を冷やす事で、脳内に新鮮で冷たい
血液を脳内に送り込むことができるので、最も効率的に速やかに脳温を下げること
ができます。

また首には、脳へつながる脳脊髄液が通う頸椎が、表皮近くを通っています。故に
首筋を、アイスバッグで冷却すると、脳をとり囲む脳脊髄液が冷やされ、脳温を下げ
ることができるのです。
脳は脳脊髄液という液体にとり囲まれ浮かんでいます。脳脊髄液が温められてしまう
と、脳細胞が固まってしまいます。脳細胞は熱に弱く、一度固まってしまうと元には戻
りません。細胞はその機能を失い、死んでしまうのです。

また首の頸椎には、脊髄から脳へつながる交感神経幹があります。首を冷却する
ことによって、熱を帯びていた交感神経幹が冷やされ、交感神経の緊張がとれます。
交感神経はストレスや心労で緊張し熱を帯びます。交感神経の緊張から様々な病気
が発症していきます。冷却によって交感神経の緊張がとれることで病気を未然に防ぐ
ことができるのです。ひたい、首筋、頭部の冷却を毎日実践する事で、前頭前野の
炎症をとり、脳の中心部の炎症も鎮め、脳温を下げ、全ての病気の治る起点を体に
与える事ができるのです。