テニス肘の本質〜なる人の身体的特徴と対処法 2015.11.25 有本政治

<右肘がテニス肘になる人は、 既に右肘にねじれのゆがみ
が存在している>

同じ様な条件でテニスをやっても、テニス肘になる人とならない人がいます。
過度の酷使、個人の身体能力、体の使い方、力の入れ過ぎ、技術の差異に
よって、なるならないが決まる要素は存在します。また、限度を超えて、腕を使
い続ければ、肩、肘、手首に負担と疲労が蓄積し、テニス肘になりやすくなりま
す。週末プレイヤーのように、週に一回位のペースでしかテニスをやらない人で
もテニス肘になる場合はあります。また昨今ではパソコンに長時間向かう仕事
につく方もテニス肘と診断される場合が増えてきています。テニスは一回もしたこ
とがないのにテニス肘と診断されるケースはこの10年で2倍にもなっていると言
われています。それはテニス肘と言われるものが、単に肘だけの問題で起き
るのではなく、根本的な要因が他に存在しているからになります。

右肘がテニス肘になる人は、次のような要素が存在しています。
それは姿勢全体のゆがみのひずみが、右肩、右肘、右手にかかって、各関節に
正常を逸脱したねじれのゆがみが既に存在しているからになります。特に肩と
手首の中間に位置する肘関節には、ねじれが集約されます。この状態でいる
ために、過度に肘を使わなくても、右肘に大きな負荷がかかってしまうのです。

具体的には、肘関節のねじる動きを作り出す上腕橈骨関節(じょうわんとうこつ
かんせつ)において、橈骨(親指側の長い骨)に常に外旋のストレスがかかるた
めに生じます。橈骨が外旋(外ねじり)した状態で、肘関節の屈伸運動が繰り返
されるために発生していきます。


<何故、肘にねじれの集約が起きるのか>

それは姿勢全体のゆがみが、肩を含めた上肢に影響を及ぼすからになります。
特に上半身が左にねじれ、右肩が前下方に巻き込む事で、上肢の接続状態に
ひずみをもたらしていくのです。上肢全体が内旋(内ねじり)を起こし、それを補
正するために、肘を外旋する事で上肢全体のバランスをとろうと対応するのです。
これが橈骨に外旋ストレスをかける機序になります。これが肘にねじれが集約す
る理由になります。


<何故、上半身が左にねじれ、右肩が前下方に巻き込まれるのか>

これは、運動系(筋肉骨格系)だけの問題では無く、内臓が関係しています。その
臓器は、胆嚢(たんのう)になります。胆嚢は袋状になっていて、袋が収縮する事
で、胆汁(たんじゅう)を分泌しています。心労や精神的ストレスが持続すると胆嚢
が機能低下を起こし、胆嚢が腫れて熱をもちます(これが重篤になった状態が
胆嚢炎)。胆嚢という袋が腫れると、袋の収縮に減退が生じます。これは胆汁の
分泌不足を生起させます。胆汁は生命維持と病気予防に不可欠な物質になり
ます(詳細は、院長の日記、胆石の項参照)。

体は、この胆汁の分泌をなんとかして守ろうとするのです。袋の収縮ができなく
なったのを補うために、体全体を使って胆嚢を絞り込む事で、袋の収縮を助け
ようとします。これが上半身を左にねじり、右肩を前下方に巻き込む体勢を作
り出していくのです。


<胆のうに熱と腫れをもたらす原因は、精神的ストレスの持続にある>


テニス肘はテニスを一度もやったことがない人にも、この診断名がつきます。
それは痛みの発生部位と痛みの種類、肘の運動制限が、テニスプレーヤーと同
様の症状を呈するからです。特に右肘に出る症状は、胆のうのしぼり込みに起
因しています。それでは何故胆のうの機能低下が起きるのでしょうか。それは
精神的ストレスの持続が根底にあり、胆のうを含めた肝臓と胆のうの両方に
機能低下が発生するからです。

精神的ストレスの持続は、常に脳を興奮状態におき、脳を酷使させます。脳が
酷使されると、脳内の神経伝達物質や脳内ホルモンを大量に消費することにな
ります。この脳の神経伝達物質と脳内ホルモンのほとんどは、肝臓で作られ脳
で使われ、また肝臓に還って分解されます。この状態の持続が肝臓に負担をか
け、肝臓の機能低下につながっていくのです。
 肝臓の機能低下は、肝臓だけにとどまらず、内包されている胆のうにも影響を
及ぼします。もともと肝臓と胆のうは肝胆相照らすと言われる様に、表裏の関係
にあります。肝臓の機能低下は、胆のうの機能も同時に低下させていくのです。

体は、この肝臓と胆のうの機能を元に戻すために肝臓と胆のうに大量の血液を
集め、熱と腫れを起こすことで機能の回復を図る対応をとっていきます。これが
胆のうが熱をもち、腫れる機序となるのです。テニスを一度もやったことがない人
でも、胆汁の分泌を守るために胆のうをしぼり込む体勢をとることになったのです。


<テニスで手や肘を使うこととパソコンでキーやマウスを使う動作も、テニス肘
の引き金となる>

テニスでボールを打つ動作とパソコンでキーやマウスを動かす動作は強弱の差は
あっても、手、肘に負担をかけ、肘の痛みの引き金になるのです。その前提条件は
これまで解説してきましたように、肩、上肢(肩、肘、手首)の左ねじれと前下方
への巻き込み姿勢にあります。これを補正する対応として、肘関節の橈骨の外
旋のひずみが根本原因となります。この前提がある中での、手や肘の使用が
引き金となったのです。


<胆汁の分泌不足は、血液に熱を帯びさせ、赤血球の連鎖を生み、血液の質
を低下させ痛風性の肘の痛みを発生させる>

肘の痛みの発生には、整形外科的要因の他に、血液の質の低下からくる偽通
風性の肘の炎症もあります。胆汁の働きの最大の特性は、その苦味の成分に
あります。苦味は漢方薬の苦寒薬の作用をもち、体内の炎症をおさえ、血液の
熱を冷ます働きがあります。胆汁の分泌不足は血液に熱を帯びさせ、熱変性に
よる赤血球の連鎖を生み、血液の質の低下をもたらします。また、赤血球の連
鎖による毛細血管の流れの停滞とつまりを生み、肘関節に血液の停滞を生じ
させます。血液の熱と血液の質の低下と停滞が、偽通風性の肘の痛みへと進
行していくのです。


<左のテニス肘は、心臓を絞り込む対応から、上半身が右にねじれ、左肩が巻き
込む事から発生する>

右のテニス肘の根本原因は、胆嚢の絞り込みにありますが、左のテニス肘は、
心臓の血液の噴出を補う対応として、体全体を使った心臓の絞り込み姿勢が
根本要因としてあります。心臓の機能低下は命に関わる問題になります。故に
体は徹底的に血液の噴出を守る対応をとっていきます。
これは右肘で解説してある機序と同様に、左肘にねじれの集約を生み、この状態
での動作の反復がテニス肘を生み出していくのです。心臓のポンプ力の低下は
遺伝的に心肺機能の弱い体質の人に発生しやすくなっています。


<テニス肘発生の根拠と機序が明らかになれば、対処法が構築できる>

以上がテニス肘発生の根拠と機序及び根本原因になります。故にテニス肘は、
上辺だけの処置や予防法では治癒しないのです。テニスを休んで使わないよう
にしたり、パソコンに向き合う時間を制限していけば炎症は治まりますが、また
復帰すれば時間の問題で再発していきます。そして慢性化になり、痛みに苦し
み、ついにはテニスや仕事を断念せざるを得ない方も多いのが現状です。

回復に向かわせるためには何をすべきかは、テニス肘の根拠と機序の中で明
確になっています。それは上半身に起こっているねじれと肩の前下方への巻き
込みを元に戻し、上肢の位置異常と肘へのねじれの集約をとり除く事が不可欠
になります。そのためにはまず、胆嚢と心臓の機能を高める事です。そして上
半身のねじれと肩の巻き込みをとり除く全体調整と、直接的な肘の外旋をとる
肘自体の調整法の両方からアプローチしていきます。また肘や手首のストレッ
チ法、アイシング法、テーピング法も重要です。右肘のテニス肘要因となるの胆
のうの機能低下は、その根本原因は精神的ストレスにあります。これはすぐに
解決する問題ではありません。これを最小限にくいとめる処置が大切になります。


<全体と部分の両方を調整出来る日本伝承医学の対処法>

日本伝承医学では、体のねじれと肩の巻き込みをとるために日本古来から伝わ
る三指半操法(さんしはんそうほう)を用いて、体のねじれを改善します。また胆嚢
の機能を高めるために大腿骨叩打法を用い、胆嚢の熱と腫れを除去していきます。
心臓機能を上げていくためには、上部胸椎(3、4、5番の椎骨及び肋骨)のヒビキ
操法を使用して心臓機能の改善を図ります。

直接的な肘の技法は、肘が外れた時に用いる肘内法を用いて対処します。さらに、
古代人の開発した、独自の集約拳操法、中指屈曲法を用います。これは自分自
身でもできる調整法になります。またアイシング法、テーピング法も併用していき
ます。さらに精神的ストレスの影響を最小限にとどめるために、頭と肝胆の氷冷
却法が大きな効果をもたらします。直接的に冷却により、脳内の熱のこもりと脳圧
の上昇と肝胆の熱と腫れの除去に役立ちます。
日本伝承医学では、このような全体と局所の統合的な調整法を行なっていく事で、
テニス肘に対応しています。