蛋白尿、血尿、クレアチニン数値異常を捉え直す   2015.8.5 有本政治

病院に行くと尿検査で、血尿、蛋白尿、クレアチニン数値上昇を指摘される事がよ
くあります。しかし精密検査や腎生検等を薦められるだけで、尿成分の変化の根拠
や機序を詳しく説明される事もなく、ただ不安な気持ちになるのが現状です。受診時
に、この症状はこういう理由で発症しています、だからこうすれば改善に向かいますよ、
という事を教えてもらいたいのが心情ではないでしょうか。また患者が理解、納得で
きるように話してあげるのが、医療人の務めではないかと私は思います。

現代医学では、検査データで表れる異常数値は全て悪い事として捉えています。
尿の成分の変化は、異常として見なされてしまうのです。ここでは視点を変えて、蛋白
尿、血尿、クレアチニンについて捉え直してみたいと思います。
ではなぜ蛋白尿、血尿、クレアチニン数値異常が起こるのでしょうか。それは腎臓機
能が低下して、血液の濾過再生が充分にできなくなり、分別、分解吸収ができなくなっ
た物質を、体外にすてようとしているのです。体内に留めておいては有害になるため、
尿として速やかにすてる必要があるからです。単に毒素としてだけでなく、腎臓内の
熱のこもりも排出しています。また出血する事で、内圧を抜く対応もとっています。

故に血尿であっても、これは体外に熱や毒素をすてる必要な対応なので、止めるの
ではなく、出しきる事が大切です(血便も同様の機序になります)。外への排出手段
として生きるために体がとっている対応になります。体の示す反応は、決して体を悪く
するために起こしているのではありません。命を守るために必要な対応を、一時的に
とっているだけなのです。一時的に尿成分の数値が上がっているだけで、この状態で
は病名の付く段階ではありません。必要な対応として分別できなかった物、未分解
な物質や有害な物、内熱、内圧を体外に排出してくれているので、この時点で薬等で
止めたり、封じ込めてはならないのです。数値を下げる処置をしてしまうと、体は逆に
さらなる対応を余儀なくされ、より重篤な状態に移行してしまいます。

蛋白尿、血尿、クレアチニン数値の上昇は、自覚症状や苦痛を伴わない場合がほ
とんどになります。これらの症状は、腎臓機能の低下を自己修正(自然治癒、自己良
能)してくれています。この段階で、尿検査を通して異常として見つかってしまっただけ
なのです。私たちの体には元来自己防御システムが備わっています。緊急時にすば
やく察知し、対応していくようにできています。尿の変化や数値の異常は、体のSOS
を知らせる自己防御システムが作動した状態と言えます。故にこうした自覚症状のな
い段階での数値異常は薬等で対処するのではなく、調整修復が終わるまで、症状と
共存共生(きょうそんきょうせい)していくことが必要になります。

この間に成すべきことは、体力(=免疫力と生命力)を取り戻す事です。まずは充分な
睡眠と休養です。体は横たわり眠っている間に、臓器や細胞が修復されるからです。
寝不足や過労になると弱った臓器がいつまでたっても修復されません。次に充分な
水を毎日摂取することです。水は血液の循環を良くするだけでなく、胆汁の分泌を促
してくれます。故に私たちの体は、一日約1.2~1.5ℓの水が必要なのです。草花にお茶
やコーヒー、スポーツドリンクを与えない様に、生物は生きていく上で純粋な水が必要
になります。また、免疫力が落ちている時には、できるだけ精神的ストレスや心労をか
かえこまないように、気もちを切り換えていく事です。歩行や適度なストレッチ等で無理
のないように体を動かしていくことも大切です。

蛋白尿、血尿、クレアチニン数値の上昇は直接的要因には腎臓機能の低下から発
症します。血液を濾過(ろか)再生する機能が低下しているのです。しかし腎臓だけが
弱っているわけではありません。臓器は単独で働いているのではなく、他の臓器と互い
に連係し合い全体との関連の中で動いています。腎臓という臓器は、突然に悪くなる
臓器ではありません。長い時間をかけて徐々に腎臓の血液の濾過再生機能に負担を
かけてしまった事で、その機能が弱っていきます。

腎臓は、血液を濾過し、余分な老廃物や塩分を取り除き、血液を再生させる事が一番
の働きになります。塩分の多い食事が、腎臓に負荷をかけ機能低下を起こすと言わ
れていますが、それは主たる原因ではありません。塩分摂取量ならば昔の人の方
が現代人よりはるかに多く摂っており、実際に塩分を控えても、さほど大きな変化がみ
られないのが実状です。また 糖分や脂肪の多い食事によって、血液中に、糖や脂肪
が増加し、腎臓の濾過する穴を広げ、糸球体の機能がうまく働かなくなると考えられ
ていますが、これも塩分摂取量と同様に腎機能を落とす要因のひとつになりますが、
主たる原因ではないのです。

腎臓の血液濾過再生機能に負担をかける主たる原因は、血液の質の低下にあった
のです。質の低下とは、血液成分の異常もありますが、 その最大の要因は、血液中
の98%を占める赤血球の形の変化にあります。つまり、赤血球同士がくっ付き合う
赤血球連鎖です。連鎖により血液がドロドロでベタベタ状態になる事で、血液の質が
低下していきます。そして毛細血管内の血液の流れに停滞と詰まりを生起させます。
腎臓の毛細血管内の血液の流れに停滞と詰まりが起こると、これを早く流す対応として、
腎臓内部の内圧を高めたり、血圧を上昇させる事で、毛細血管の循環を守ろうとしま
す。 この状態の持続は、毛細血管に熱を帯びさせ、腎臓全体にも内熱を発生させま
す。つまり腎臓に慢性的な炎症を引き起こす事になるのです。

腎臓は私たちの体に2つあります。(ひとつの腎臓に糸球体は約100万個もあります)。
腎臓は毛細血管のかたまりのような臓器で、その中でも、血液を濾過する糸球体(し
きゅうたい)の毛細血管は、他の場所の毛細血管より血管壁が極薄です。この薄い
壁膜を通して、血液を濾過して尿を作っています。血液中の成分のほとんどは、この
糸球体の膜(フィルター)を自由に通過することができます。これにより再生血液と、
老廃物の尿を分離しているのです。

腎機能が正常に働いている時は、必要な物は吸収し再び血液として運ばれ、不必要
なものが尿として排出されていきます。分子の大きい蛋白質や血球は、正常時には
通過できない構造になっています(蛋白質より血球の粒子の方が大きい)。ところが
腎機能が落ちると炎症が起き、フィルターに穴ができてしまいます。(=糸球体のフィ
ルターの目があらくなる)。細かい目のままだと蛋白や血液を濾過するのに時間と労
力がかかってしまうからです。体は少しでも腎臓にかかる負担を軽減しようとし、穴を
大きくしフィルターの目をあらくして、血液や蛋白を尿と一緒に出しているのです。

糸球体の毛細血管の膜の透過性を粗くする事で、これまで通過させないでいた、大
きな蛋白分子や血球、糖や脂肪をも通過させて尿として排出する事で、腎臓への負
担を軽減し、内熱や未分解未処理な物を体外にすて、腎臓を守ってくれていたのです。
つまり、腎臓の機能を守るために、故意に糸球体の毛細血管の内壁の透過性を高
めて、蛋白分子や、血球、糖や脂肪を尿として体外に排出していたのです。これが
蛋白尿、血尿の本質になります。クレアチニンの数値はこれらの対応処理の結果とし
て上昇していったのです。このクレアチニンについて少し説明します。

筋肉の中にはクレアチンリン酸と呼ばれる窒素化合物が含まれていますが、これが
酵素の働きによってクレアチンに分解されるときにエネルギーを放出し、そのエネルギ
ーを使って筋肉は動いています。クレアチンは役割を終えるとクレアチニンという物質
に変わり、老廃物として尿と共に排出されていきます。しかし腎臓に弱りが出てくると
濾過機能がうまく働かなくなり、血液中にクレアチニンが戻されてしまいます。そのた
め血液検査でクレアチニン異常と診断されてしまうのです。正常にクレアチニンを濾過
し、排出するためには、腎臓に多大な負担をかけることになります。腎臓が弱っている
状態の時は、糸球体のフィルターの目があらくなっているため、クレアチニンが濾過され
ないで血液中に戻ってしまうのです。血液中にクレアチニンが含有され体内を巡ってい
くことになりますが、これは腎臓に負担をかけないようにしている対応なので、体が回復
し腎機能が正常になっていけば、クレアチニンの数値は自然に下がっていきます。

クレアチニンはその時の数値だけで判断し、薬で下げてしまうと、益々数値は上がって
いきます。これは本来、休ませてあげなければならない腎臓の濾過機能を人為的に
過度に働かせてしまうからです。人為的に数値を下げてしまうとさらに腎臓に負担がか
かり、酷使された腎臓は益々クレアチニン数値を上げていくしかなくなるのです。つい
には薬無しではいられない体へと化してしまうのです。クレアチニンの数値が少し高く
なっただけで「人工透析になります。」と言われる場合がありますが、どんなに上昇し
ていってもクレアチニンの数値が20や30にはなることはありません。数値が10㎎/dl
と言われても、日常生活を営んでいる方はおられますので、検査結果だけに左右され
ないで、私に一度相談して下さい。
  (参)クレアチニンの基準値:男性0.5~1.1㎎/dl 女性0.4~0.8㎎/dl

では次にこの低下した腎臓機能を回復させていくにはどうしたらよいかを記していきま
す。このためにはまず、血液の質を元に戻し、赤血球の連鎖を改善していかなければ
なりません。赤血球が連鎖する原因は、血液の熱変性にあります。
赤血球の1個1個が熱を帯びる事で、粘性が増しくっ付き合う事から発生します。
血液は、ある一定の温度に保たれています。この血液の熱の上昇を冷ましてくれる
のが、胆嚢から分泌される胆汁(たんじゅう)になります。胆汁は1日に約600から1000
ml分泌されている極めて苦い物質になります。漢方薬はそのほとんどが苦い成分で
作られています。“良薬口に苦し”と言われるように、苦味に体の炎症を鎮める作用
があるからです。故にその作用を苦寒薬(くかんやく)と呼んでいます。この苦寒薬の役
割を果たしているのが、胆汁になります。胆汁は抗炎症作用の役割を担っている重要
物質なのです。この胆汁が分泌不足になることで、血液が熱を帯び(血熱)、熱変性に
よる赤血球の連鎖が生起されてしまうのです。これが腎臓の機能を低下させる最大の
要因になります。

それでは何故胆汁の分泌に減退が生じるのでしょうか。それは、胆汁を出す胆嚢
の機能低下と、胆汁そのものの生成不足が考えられます。胆嚢はその名のごとく、
胆汁を貯める袋になります。この袋が収縮する事で、胆汁が押し出されるのです。
この袋(胆嚢)が腫れて炎症を起こすと、胆嚢は収縮力を失い、胆汁がうまく分泌さ
れなくなります。胆嚢に炎症を起こす要因は、主に心労や精神的ストレスの持続から
くる、肝臓の機能低下になります。

元々胆嚢は、肝臓内に内包されて存在し、肝臓とは表裏(ひょうり)の関係にあります。
肝胆相照らす(かんたんあいてらす)と言われるように、一体のものとして考えらています。
胆汁は肝臓で作られ胆嚢に集められ、濃度を10倍以上に濃くして分泌されます。そし
て肝臓と胆嚢は、精神的な作用から最も影響を受けやすい臓器になります。心労や精
神的ストレスの持続は、交感神経を緊張させ、脳を常に興奮状態におき、脳内の神経
伝達物質や脳内ホルモンを大量に消費していきます(脳に炎症が起きている状態)。
これらの物質のほとんどは肝臓で作られ、また肝臓に還って分解されるので、交感神
経が緊張する状態が続くと、肝臓を弱らせていきます。肝臓の機能低下は胆汁の生成
力を落とし、胆汁不足に拍車をかける事になります。

体はこれを元に戻そうと肝臓(胆嚢)に大量の血液を集め、熱を発生させる事で機能の
回復を図ろうとします。肝臓という大きな血液の塊のような臓器に大量の血液が集まる
ということは、全身の血液の配分を大きく乱していくことになります。当然、血液の配分
を調整する働きを持つ腎臓へも負担をかける事になっていくのです。
このように腎臓機能は単独で弱っていくのではなく、肝臓や胆嚢、精神状態とも深く
関わっているのです。腎臓の機能を元に戻すためには、その最大要因である赤血球
の連鎖を断ち切る事が不可欠になります。そのためには、肝臓機能を上げて、血液
の熱を冷ましてくれる胆汁の分泌を正常に復す必要があります。

日本伝承医学の治療は、骨髄機能を発現させる事で、細胞新生と造血を促し、生命
力と免疫力を高めていきます。また全身の血液の循環、配分、質の乱れを整える方
法として、肝心要(肝腎要)に当たる、肝臓(胆嚢を含む)と心臓、腎臓の働きを高める
治療を行なっていきます。腎臓の働きを元に戻すには、日本古来から伝わるふり操法
を用います。また家庭療法として勧める頭と肝臓(胆嚢も含む)の氷冷却法を行なう事で、
脳内の熱や脳圧の上昇をとり、肝胆の熱と腫れを除去していきます。自助努力としての
生活習慣の見直しも大事です。

蛋白尿、血尿、クレアチニンの上昇は単に腎臓や膀胱という泌尿器だけの問題では
ないのです。このように全身の血液の循環、配分、質の乱れとも関連し、その背景
には生命力や免疫力の低下が存在していたのです。また私の41年の臨床歴から言
える事は、クレアチニンの数値上昇の大半は、尿酸値、血糖値、コレステロール値等
を下げる薬を長期に渡り服用されてきた人に多く見られるということです。それだけ、
薬の成分が腎臓の濾過再生機能に負担をかけてしまうということになるのです。
体は、検査結果や数値だけをみていくのではなく、体全体との関連の中でみていくこと
が必要です。数値の異常は全て悪い事であるという先入観をもってしまうと、物事の本
質を見誤ってしまうからです。