生体電気と骨   2017.12.24 有本政治

 *これは今から約30年前に書いたものになります

 「電気と磁気」は古代よりその存在は知られていました。古代人はこの「電
気」と「磁気」を神の力だと信じていたのです。

 漢方医学における「気」の作用が、現代物理学の中の「電気」「磁気」の作
用を含有していることは明らかです。「気」とは、目に見えないけれど何らかの
作用力をもっているものを総称する名称です。古代人はこの作用力を「気」と
呼んだのです。故に気はエネルギーとしての性質を有しているのです。

 また、磁気の性質を考えると、N極とS極は吸着し、同極同士は逆に反発し
ます。これは磁気が情報を読みとり、それに反応する性質を有していることを
意味します。故に磁気は情報としての作用を有していることになります。電気
についても同様です。乾電池の配列を考えてみると明白になります。マイナス
極と同極同士を接続しても、電気は流れません。このことから、電気も磁気と
同様に情報の受容・転送・処理・反応能力を有していると考えられます。こう
考えると「気」としての電気・磁気は、エネルギーとしての作用と情報として
の作用の両面を有していると言えるのです。

 この電気と磁気が生体にとって欠くことのできないエネルギー・情報である
ことは、かなり古い時代より発見されていました。しかし、科学の発達した現
代においても、電気と磁気の本質は未だ解明されていません。現代科学は、
本質は謎のままで、その性質を応用して現代の科学文明を構築しています。
現代文明は、電気と磁気を活用しなければ成立しなかったといっても過言で
はないでしょう。まさに電気と磁気は現代文明生活の“生命線”といえるのです。

 電気のない生活は成立しません。現代の機械、器具のほとんどに使われて
いるモーターを考えれば明白です。モーターに電流を流すと回転する構造の
内部の金属(磁性物質)が磁気を発生し、N極とS極の吸引と反発作用によっ
てモーターは回転します。この逆に磁石となっている回転金属体を回転させ
ると、電気が発生します。自転車のライトが点灯する仕組みを考えればよくわ
かります。このように電気と磁気は切り離すことできないのです。

 私たちが日常生活の中であたり前のように使っている車やテレビ、携帯電
話、エアコン、カセットデッキ、CDMD、バーコード等身の回りの機械や電気
製品のすべてに、電気と磁気が応用されています。これなくしては、現代生活
は機能しないのです。前述した通り、まさに電気と磁気は現代生活の“生命
線”になります。そして、実は私たちの身体も、この電気と磁気のエネルギー・
情報によって生命が営まれているのです。ここでは電気に的を絞って、生体
と電気の関係を今一度学習してみます。

 人間の身体には電気があり、私たちの身体は電気によってコントロールさ
れているというと驚く人も多いでしょう。人間に限らず生き物には皆電気が流
れています。その代表が電気ウナギやしびれエイで、これらは電気魚といわ
れています。これらの生物からは強い電気が発生します。この電気魚である
しびれエイの出す電流を使って病気を治療したという記録は、今から、
2,500年前の紀元前5世紀に既にみられます。ギリシャのエートスという人
がこれを行なったそうです。我が国では、200年以上も前に平賀源内が“エレ
キテル”と名付けた起電気を使って治療したという記録があります。電気と病
気治療の関係は、このように新しいようで実は古いのです。

 電気魚のような特殊なものだけではなく、人間も含め生物すべてがもってい
る電気ですが、脳や心臓、筋肉、体内の体液活動はじめ身体の至る所で電
気が発生していることは生理学上明らかです。これらの生体の電気現象は
、一般に「生体電気」と呼ばれています。電気魚などの場合は別にして、身体
には感じられないほどのごく微弱な電気です。しかしこれは、生命体が正常
な働きをするためになくてはならないものになります。

 また、エネルギーの作用としてだけでなく情報としても、一つ一つの細胞
の核の中にあるDNARNAといった遺伝子にも、スイッチを入れたり切った
りという作用を担っているのです。この生体電気は、生きている時のみ存在
するもので、生命が終わると同時にことごとく消え去ってしまうのです。身体
に電気があるということは、私たちが生きているという証拠です。

 非常に不思議なことのように思われますが、これが漢方医学のいう「気集
まりて生を為し、気散ずればすなわち死」という考え方と通じているのです。

生体機能は電気によって維持されているといえるのです。故に電気のレベル、
つまり電位が落ちると生体機能は著しく低下してしまいます。この状態を漢方
医学では「生気の虚」と表現します。

 このような状態の時、私たちの身体は外部より別の種類の電気を与えても
敏感に反応します。外部からの電気によっても様々な変化が起こるのです。

それは、ちょうどメカニックの電気器具に外からの電気エネルギーを与えると、
特有の働きや変化を見せるのと同じ現象です。この外部からの電気刺激を
与えて生体に変化を起こさせる方法は、様々な電気治療器具に応用されて
います。そしてそれなりの効果をあげています。しかし、最も効果的に電位を
上げる方法は、外部から電気を与えるのではなく、生体内の電気発生システ
ムを正常に復することです。その為には、どうしたら電気を発生させることが
できるのかを探らなければなりません。その方法はいくつか考えられます。

 一つには、筋肉を動かすことで血流を高め、そして電流を高めるという方法
です。筋肉を動かすことで電気が発生していくことは生理学上実証されてい
ます。これを応用したものが筋電図です。筋肉運動が電気を発生させ、血圧
を高め血流を速めるという証明は、西原克成氏の歯や骨の基礎研究を通して、
脊椎動物の進化の問題を探る中で研究発表されました。軟骨魚類のサメが
陸にあげられるとサメはのたうち回りますが、この筋肉運動が生体にどのよ
うな作用を及ぼすか、以下紹介してみます(西原克成著『生物は重力が進化
させた』より抜粋)

 『水中の生物は血圧が低い。浮力に相殺された6分の1Gの環境では、尾と
ひれとエラを動かせば、それだけで心臓脈管系を血液・リンパ液がめぐるの
である。したがって、心臓のポンプ作用は水中では強大である必要がない。
ところが陸にあげられ、いきなり1Gという6倍の重力環境におかれたらどう
なるだろう。まず、自分の体重が重くのしかかってくる。下手をすると自重でつ
ぶれて死んでしまう。また重力が6倍になれば、尾とひれをいくら動かしても
血液は身体中をめぐらない。自重でつぶれるという危険と、血液が身体中を
めぐらないという危険をクリアするためには、血圧を上げなければならない
(血圧とは血流を流す力)。血圧を上げさえすれば、自分の体重を支え、なお
かつ身体中に血液を運ぶことができる。では血圧を上げるにはどうすれば
よいか。

全身を波のように揺すればよい。つまり、のたうち回ればよいのである。いや、
サメは呼吸ができないから窒息しそうになると苦しくて自動的にのたうち回ら
ざるをえなかったのである。エラは空気中で呼吸するようにはできていないか
らである。結局、サメは陸上に残され、苦しまぎれにのたうち回ることによって
血圧が上がり、結果的に自重をささえることができたし、血液を身体中にいき
わたらせることもできた。息ができないという問題点も血液が上がったために
エラで呼吸ができるようになって解決するのである。これによって海から陸へ
の進化の過程が見えてくるのである。全身を波のように揺り動かす筋肉運動
は血圧を上げることになる。身体の中を流れる血流と血管壁をはじめとする
周囲臓器の間に生じる流動電位が高まる。つまり生体内では血圧は流動電
位、すなわち電流に変換されているのである。』このように解説されています。

 陸に上げられたサメの動きを分析してみると、腹を下にして尾を左右に大き
く波打たせています。頭の部分はそんなに大きく振られません。この動きは、
ヘビの移動する動き、あるいはオタマジャクシの動き、精子の動きと共通して
います。この動きは、手足という移動肢をもたない動物の動きの基本型でも
あります。この動きは平面的には波形状に見えますが、三次元的に表わせば、
「渦」「螺旋」の動きになります。

わかりやすく表現すれば、蚊取線香の渦巻きを引き伸ばした形を連想すれ
ばよいでしょう。また、音や光、電波が空中を進む時も、渦状・ネジ状、つまり
螺旋状運動形態で進んでいます。サメがのたうち回る動きは、実は螺旋状の
動きだったのです。この動きにより、「血圧」「血流」が促進されるのです。
すでに説明してあるように、血圧が上がって血流ができると、流動電位が上
がり、電流が形成されます。西原克成氏のもう一つのサメを使った実験結果
は次の通りです。

 『海の中で軟骨の魚類であったサメが、陸に上がりのたうち回る動きによっ
て、流動電位が高まる。この流動電流が一定以上になると、アパタイト(骨の
主成分でありますリン酸とカルシウム)の存在下で、軟骨を形成していた間葉
細胞の“遺伝子”の引き金が引かれ、造骨細胞に分化する部分の“遺伝子”
が発現する。』というように、内骨格の軟骨が硬骨化していくことを、実験に
よって検証されています。また、この実験を再検証するために、サメが螺旋
状に動くと電流が生じ骨が形成されるならば、人工的に電流を流すことで骨
が形成される、という発想に基づいて実験を行ないました。その結果、電流
が流れるように電極を埋め込まれたサメの体内に骨化が確認されたのです。
このように生体電気と骨の間には、密接な関係が確認されたのです。

 以上の考察は、人体を波状に「揺すったり」、小刻みに「振ったり」「叩いた
り」する生体力学刺激は、生体電気の流動電位を高め、血流と電流を促進す
る手段となり得るのです。

 もう一つは、人体の硬組織である骨に圧をかけることで、電気を発生させる
という方法です。これをピエゾ(圧電)現象といいます。このピエゾ現象の詳細
は既に論述してある通りです。骨を叩いたり、圧をかけたり、ゆすったり、ふっ
たりすることで電気は発生します。この二つの方法は、生体に電気を発生さ
せ、発生した電気を流動させる生理機能を高める大変有効な方法です。

日本の古代人達は、人体の骨に対する高い見識からこのことを既に知り
得ており、世界に例をみない“骨”に圧やヒビキ(ゆり・ふり・たたき)をかける
ことで、病気を治す方法を研究、開発していたのです。また、仰臥位において、
手と足を開いて、ある角度をとることで生体電気の流れを配分を変えることが
できることも発見しています。これが日本伝承医学の治療における、両手と
両足に角度をとる理由になっています。日本伝承医学の技術は、まさに生体
電気発生と流動電位を高める有効な方法であったのです。日本の古代人の
叡智に感服するばかりであります。今後はさらに生体内の電気と磁気の作
用を掘り下げて解説していきます。