精神疾患の肉体的機序について(精神的ストレスがどう身体に作用するのか)

精神疾患は、肉体的病気と違い原因を究明するのが難しい疾患です。生い立ちか
ら始まり、取り巻く環境、人間関係、資質等も含めて原因は千差万別です。原因
は千差万別であっても肉体に作用する要因は精神的ストレスということで集約する
ことができます。つまり精神的ストレスが肉体にかかりその持続で肉体的症状と心
理的症状が起こり合わさって精神疾患を発症させているのです。
精神的ストレス
の持続は肉体にどう作用し、どういう機序をたどって病に至るのかを探ってみた
いと思います。


要因は様々ですが精神感情の乱れは、常に気懸りな事として大脳を刺激し、大脳に
休む間を与えません。つまり寝ても覚めても大脳を使う状況を作ります。通常で
も脳は常に新鮮な血液を消費する所で、大量の血液供給を必要とします。大脳に
大量の血液を常に導入しフル回転状態が続くと、オーバーヒートを起こし脳の内
部に熱の発生をもたらします。


大脳内の熱の蓄積は、思考の最高中枢である前頭葉(額部)の働きを低下さます。
ここは生きていくための意欲、つまり「やる気」と関わる所で、次第にプラス思
考が下がり、気力を萎えさせたり、不安を感じやすくなると言われています。


熱の蓄積は脳の中心にも及び、脳幹にも熱を発生させます。脳幹は別名「命の座」
と呼ばれ生命維持に不可欠な場所です。自律神経中枢、ホルモン中枢、体温中枢、
呼吸中枢、心拍中枢、女性の生理のコントロール等を司っています。また情動の
安定作用をも担っているのです。

脳幹の機能の低下は生命活動を低下させます。生命力、免疫力の低下を引き起こ
すのです。当然情緒不安定にもなります。肉体的自覚としては劇症はなく、疲れ
やすい、休んでも疲れがなかなかとれない、肩こり、頭痛、寝つきが悪い、何度
も目が覚める、生理不順、体がだるいといった症状を訴えます。そして次第に病
名のつく段階へと移行して行くのです。


さらに熱の蓄積は脳幹部の下部に位置する大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)
の扁桃体にも機能低下をもたらします。この部は情動と恐怖を司る場所とされ、
イライラしたり怒りやすくなったりと躁状態を引き起こしやすいと言われています。


このように前頭葉、脳幹、扁桃体の熱のこもりは体の症状と同時に気力を落とし、
情緒を不安定にし、憂鬱になったり、逆に切れやすく怒りっぽい躁状態を作り出
して行きます。さらに様々な症状が複合され各種精神疾患へと発病していくのです。


常に脳を働かせるという事は脳内の神経伝達物質
(セロトニン、ドーパミン、ノル
アドレナリン等
)と脳内ホルモンを大量に消費することになります。これら物質の
ほとんどは肝臓で作られ脳に送られ、脳内で消費されて、また肝臓に還って分解
されるという行程をたどります。この行程が過度に働かされることで肝臓機能の
低下を発生させるのです。


この状態を元に戻す対応として体は肝臓に熱を発生させ、大量の血液を肝臓に集
め回復を図ろうとします。前述してありますように脳にも大量に血液を集め、肝臓にも
血液を集めるということは全身の血液の配分を大きく乱す最大の原因になるのです。


全身の血液配分が乱れるという事は、血液が不足する箇所が発生するという事にな
ります。血液供給がうまくいかないと、その人の遺伝的に弱い組織器官に症状が起
こります。そうなった場合、体は血液を集める対応として、痛みという信号を発
して、心臓のポンプ力を高め、血液を集めようとします。代表的なものが頭痛に
なります。胃に起これば胃痛、腸に起これば腹痛、子宮に起これば下腹部痛
で血液不足がより深刻になれば子宮に痙攣を起こして血液を集めようとします

(
スポンジ作用)。激しい痛みを伴うこともあります。胃痙攣、腸捻転も同様の機
序で起こります。


遺伝的に心臓と肺の機能が弱いタイプの人は、心臓と肺に血液不足が起こります。
心臓のポンプ力の低下は全身への血液循環を悪くし、肺の機能低下は全身への酸
素の供給を落とします。心臓と肺は各臓器の中で最も命に直接関与する臓器の
ため、体は自律神経のバランスを崩してまでも優先的に心臓と肺の機能回復を図
ろうとします。つまり自律神経の中の交感神経を優位に働かせ、副交感神経を抑制
して交感神経緊張型のバランスを取ります。


交感神経緊張型が起こるとまず眠れなくなります。寝つきが悪く、夜中の三時を過
ぎないと眠れなかったり、寝ても1時から3時位の間に必ず目が覚めたり、その
後眠れなくなったり、一時間毎に目が覚めたりと所謂不眠症状を起こします。し
かし真実は眠れないのではなくわざと眠らせないのです。昼間の体の状態にして
心肺機能の回復を図るのです。命に直接関わっている心臓と肺の働きを元に戻
すために必要な対応をとっているのです。

命を守るためには体はここまでやるのです。
眠れないには眠れない意味があるの
です。眠らせない根拠と機序と理由をまず知る事が大切になります。これを安易
に睡眠薬で眠らせてしまっては交感神経緊張型がずっと続くだけではなく、心臓
と肺の機能の低下をもたらします。心臓疾患、呼吸器疾患、脳血管障害等病名の
付く段階へと移行するだけではなく、最悪の場合、急性の心不全、呼吸困難、脳
溢血、クモ膜下出血等を引き起こしてしまうこともあり得るのです。


さらに心臓と肺の機能低下は、急な心拍数の増加、動悸、ゼイゼイ、ハーハーする
呼吸異常、息苦しさ、胸苦しさ、息が吸えない等を発症します。パニック障害や
不安神経症等がこれに相当します。しかし、これらも死に至らしめるために起こ
しているのではなく、元に戻すための対応として発生しているのです。

呼吸数と心拍数を急激に上げて、脳や全身に酸素と血液を供給しようとする対応な
のです。例えれば
100m全力疾走した後などは、呼吸と心拍が一気にあがり息
苦しさと胸苦しさが起こりますが、これも素早く脳と全身の筋肉に酸素と血液を
送ろうとしている必要対応なのです。


命ある生きている体は死に至らしめるために反応しているのではありません。必ず
守るために対応してくれているのです。
どうして症状がおきるのかという根拠と
機序を、正しく知る事が必要であり大切なのです。そうすることでどう対処した
らいいのかも明らかになります。


これまで解説してありますように、脳内の熱のこもりから始まり、肝臓機能の低下
遺伝的に弱い箇所への波及という機序を持って肉体的症状が発生しているのです。
この根拠と機序を知る事で不安を減少させ、元に戻すためには何をすればよいかが
明確になってきます。


日本伝承医学の治療と併行して、日本伝承医学の勧める家庭療法としての頭と肝臓
の氷冷却法は、脳と肝臓の熱のこもりと充血を除去するのに役立ちます。ひたいの
冷却は前頭葉の熱のこもりを取り、不安を減少させ、プラス思考に導き、やる気
を引き出します。左右の首の冷却は心拍と呼吸をコントロールし、脳幹と扁桃体
の熱のこもりを除去します。精神的ストレスが肉体に及ぼす機序に準拠したこれ
らの方法は的を得た合理的なやり方であり、効果を発揮します。救急法としても、
これを心得ていれば、すぐに対応でき不安の軽減にもつながります。