錦織圭選手の左ふくらはぎ痛と左臀部(でんぶ)痛は何故発生したのか。
                                  2015.8.19 有本政治

今年度のウインブルトンテニスは先日終了しました。残念ながら錦織圭選手は、
左ふくらはぎ痛のため、2戦目から欠場となりました。25歳とまだ若いですが、最近
の体の状態をみていると、年間を通して怪我がなく過ごせる事はありません。何か
しらの不調や怪我で試合を休む事が多いように見受けられます。
私は日本伝承医学の治療家として、今年で41年をむかえます。その間、前日本鋼管
運動部トレーナー、三菱電機バスケットボール部トレーナーとして日本のトップアスリー
トの治療に携わってまいりました。1986年にはソウルオリンピックも経験しています。
これまでの経験から、怪我は、不可抗力によって起こるのではなくて、起こるべくして
発生しているという感を強くもっています。スポーツ選手の怪我は、不可抗力によるも
のは全体の2割、後の8割は起こるべくして起きているのです。

錦織選手は以前から、右足首の故障、右肩の痛み等が出ており、今回左ふくら
はぎの痛みが出たという事を鑑み、遺伝的な体質は、心臓と肺臓に弱さをもって
ることがわかります(心肺機能低下体質)。肺の弱りは、鼻水、鼻詰まりとして表わ
れやすく、朝鼻をかむのが特徴になります。風邪も引きやすく、食べ物は辛い物や
塩気の物、脂っこい物が食べたくなる傾向にあります。彼の場合は、特に心臓機能
が低下しやすい傾向があります。これまでも、軽い動悸や心臓がドクドク拍動する瞬
間を感じることがあったかと思います。
錦織選手は筋肉質な体型ではなくて、やや脂肪のついた体型であります。筋肉トレ
ーニングで鍛えられていますが、元来心臓系に弱りがみられるので、体質的に肥満
体型になりやすい資質をもっています。また心臓が弱い人の体型的特徴は、下肢
のふくらはぎの形にも表われます。ふくらはぎの筋肉は、ハート型を長細くした形を
していますが、この部分が広く太くなっていきます。

よく、太ると心臓に負担がかかると言われますが、事実は逆で、心臓に弱りのある
人が、肥満体型になりやすいのです。その理由は以下になります。
心臓に負担がかかり、心臓が過度に働かされると、心臓に熱が発生します。この異
常な熱を回避し冷ますためには、上半身に汗をかくことで、その気化熱によって熱を
冷まそうとします。汗をかき、気化熱を応用するためには、皮膚の表面積が広い方
が効率的だからです。そのためには、上半身を風船の様に膨張させる事で皮膚の
表面積を拡げるのです。つまり脂肪を着けて太らせていくのです。上半身が膨張す
ればそれを支える下半身が必要になり、結果的に肥満体型になっていきます。また
上半身や首すじ、頭に異常に汗をかくのも特徴です。汗をかく事で心臓にこもる熱を
冷ましているのです(錦織選手も、上半身、首、頭に異常に汗をかくタイプに属します)。

また脂肪には体内の熱が常に一定に保てるように、余計な熱を放出したり、冷え
過ぎないように体を守ってくれるサーモスタット(適温調整)の働きがあります。
脂肪には筋肉を保護する役割もあるため、トップアスリートのように過度に体力を酷
使し続けていく選手には、必要不可欠なものになります。体は汗をかくと体内から
熱が多量に奪われてしまうのですが、脂肪がついていると、脂肪がサーモスタット
の役割を果たしてくれるため、必要以上の熱を奪わず、筋肉が冷え過ぎないように
守ってくれます。必要な個所に必要とする脂肪がなくなってしまうと筋肉が冷え、血行
が悪くなり、引きつりや違和感、肉離れ等を引き起こしやすくなります。特に体質的
に心肺機能が弱い選手の場合は、心臓のポンプ機能が弱いため、ある程度の脂肪
がついていないと、筋肉ポンプを作動できないため、体の隅々まで血液を循環させ
ることができなくなってしまうのです。

次に心臓とふくらはぎと臀部のポンプ機能との関わりについて述べます。
心臓はハート型をしていて血液を噴出させるための大事なポンプ機能の役割を果た
しています(これを形状ポンプといいます)。ハート型の形状は下が窄(すぼ)まってい
て、これが収縮する事で、血液を上に噴出するようになっています。一定量の血液
を噴出するためには、常に、ある量の血液が心臓に戻っていかなければなりません
(心臓に還る方の血管は静脈と呼ばれ、一方に噴出されたら、逆流しない様に弁が
設定されています)。
心臓から吹き出された血液が心臓に戻るためには、全身の筋肉や関節をポンプに
して働かせ、心臓まで血液を還さなければならないのです。その中でも、下肢と臀部
の筋肉が主体的に働きます。それは立位に於いて高い位置にある心臓に、血液を
還していかなけらばならないので、筋肉量を多くする必要があるからです。足は第二
の心臓と言われるように、足関節と下腿の筋肉(ふくらはぎ)の連動が最も強力なポン
プ機構として作動していきます。足関節の底背屈運動と連動して、ふくらはぎの筋肉
が収縮伸長を繰り返す事で、関節ポンプと筋肉ポンプが作動して血液を心臓に還す
事ができる構造機能になっています。続いてももの筋肉、臀部となります。
臀部は巨大なハート形状で、強力なポンプ効果を発揮します(臀部の筋肉に張りが無
くなったり、衰えてくると、運動選手としては衰えを意味します。また生命力の低下と
も関わっています)。

筋肉の形状を見ると、長い、丸いの違いはありますが、模式化すればすべてハート
型の形状をしていて、心臓の形と同様になります。ハート型を立体化すると、円錐形
になります。この円錐形の細い方が収縮する事で、血液を上にもち上げ、心臓に還
していくことができるのです。
心臓機能が遺伝的に弱い人は、心臓の働きを補う対応として、下肢の筋肉ポンプ
の主体となるふくらはぎと臀部の筋肉を大きく丸くしてポンプ力を強化する対応をと
っていきます。まさに錦織選手は臀部も丸く力強く発達し、ふくらはぎの筋肉も広く太
くなっています。このように心臓のポンプ作用は、ふくらはぎの筋肉や臀部の筋肉とも
深く関わっているのです。

ではなぜ心臓機能が低下するとふくらはぎや臀部に痛みを引き起こすかについて説
明していきます。心臓という臓器は、平面的にはハート型をしていて、立体的には下
の窄まった円錐形をしています。大きさはその人の握りこぶし大で、上から見ると、右
側にねじられた、右スピン形状をして両肺に接しています。この心臓の円錐形状と右
スピン形状が左のふくらはぎの痛みと関係していきます。
心臓のポンプとしての働きは、円錐形状の下部が律動的に窄まる事で、内部の血
液がもち上げられ噴出されます。つまり心臓のポンプは心臓の下部の部屋に当た
る心室の収縮により、血液を噴出させて全身や肺に血液を送っているのです。心
臓機能の遺伝的に弱い人は、この心臓の収縮力に弱りと負担がかかりやすくなり
ます。体はこれを守り補う対応を講じます。心臓の下部の2つの部屋に当たる心室
つまり心臓の下部の円錐形状を収縮しやすくしていきます。これを成すためには、
心臓の下部を圧迫できるような体勢をとらざるを得なくなります。

その体勢とは、胸部を前方に突き出させ、上体を右にねじり、体の左側を縮める
心臓を絞り込むような体勢になります。胸を前方に突き出す事で心臓下部を圧迫
し、右に体をねじることで、心臓本体の右スピンを助け、上体の左側を縮める事で、
心臓の収縮を助けていきます。具体的には、胸椎の3番4番5番、肋骨の3番4番5
番を前方に突き出し、左肩を下げて前方に巻き込み上体を右にねじり、胸椎と腰椎
の境い目に当たる胸腰椎移行部に右ねじれを生起させます。つまり肋骨全体の籠
そのものがねじれ、前方に突き出たような形をとっていきます。胸が出て、大胸筋
も大きくなり、胸を張った姿勢に見えます。この姿勢は、脊柱の生理的わん曲を乱
し、上体の重さを緩衝出来ず、腰に負担がかかり、腰痛引き起こす要因となります。
体は、骨格である脊柱のカーブを変えてでもこうして心臓のポンプ機能を守ろうと
していくのです。

上体に歪みが生じると、縦長な構造体である人体は、下半身にもねじれの応力が
及び、全体のバランスをとるための対応を迫られます。つまり骨盤、股関節、大腿
部、膝関節、下腿部(ふくらはぎのある部分)、足関節にまでねじれの応力が及び、
正常でない力が関節、筋肉全体にかかる事になるのです。特に左臀部、左股関節、
左の恥骨(鼠蹊部)を痛めやすくなります(詳細は日本伝承医学のホームページの
人体積木理論、人体バナナ理論参照)。この状態の持続が、徐々に左下肢全体に
異常な負荷を与えていきます。

心臓に遺伝的な弱さがある人は、元々ふくらはぎの筋肉に大きな負担がかかっ
ていますがそれにプラスされて、体の歪みから受ける下肢へのねじれの応力がふ
くらはぎに、より大きな負担をかける事につながったのです。これは当然筋肉疲労を
蓄積させます。そして次第に痛みへと移行したのです。つまり錦織選手のふくらはぎ
の痛みは起こるべくして起きてしまったのです(アキレス腱の断裂を発症する場合も
あります)。

また怪我は季節にも関係してきます。5月から6月にかけては、気温が25度近くまで
上がってきます。最近は異常気象で春からいきなり夏日になるため、体に大きな
負担がかかります。一番負担がかかる場所は、血液のポンプの役割を担う心臓
になります。体は暑さに早く順応しようと、内部の機能を夏用に切り替えようとする
のです。7月半ば位には、体が暑さに馴染んでいきますのでに8月位からは体調も
次第に上がってきます。また近年の異常な暑さは、心臓と胆嚢に負担をかけ続ける
ため、年齢的にも左半身に症状は出やすくなっています。

錦織選手の場合は年齢が25歳を過ぎ、体力が少しずつ低下していく年齢に入って
いますので、春から初夏にかけてのこの時期の体調管理は重要になってきます。
また、彼の体質は心肺機能低下と共に、胆嚢に炎症を起こしやすいために、胆汁が
分泌不足になります。胆嚢の場合は右半身に怪我や負傷等の症状が出ます。(詳
細は日本伝承医学のホームページ院長の日記、肩の痛み、中村俊輔の胆嚢炎と
右大腿二頭筋の肉離れの項参照)。

左半身に歪みが起こる根本原因は、心臓を鼓舞するため、心臓の下部の心室を
収縮しやすくするため、全身を絞り込んだ姿勢に起因しています。この状態の持続
が左ふくらはぎの筋肉に負担をかけ痛みを引き起こしていくのです。また上体におい
ては、上部の胸椎(胸椎3、4、5番)の前方への突出と上体の右ねじれから、脊柱と
左肩甲間部(肩甲骨と脊柱との間)に異常な筋肉のしこり(収縮状態)、こり感を生起
させます。胸椎3番の脇の、東洋医学のツボとしては”肺腧穴”と胸椎5番の脇の”心
腧穴”に反応が出ます(この2個所は喘息の反応点にもなります)。ここにこり感が生
じると、関連痛として、左臀部に坐骨神経痛性の痛みも起こしやすくなります。また
ここは内臓の膵臓にも関係する場所であり、膵臓に熱が発生し、炎症を起こしやすく
なります(異常食欲も起きる)。上体のねじれは左股関節、左鼠蹊部等にも影響を及
ぼしていきます。

これらの根本原因には、胸椎3番4番5番、同じく左肋骨の3番4番5番の固着があげ
られます。故に椎骨肋骨の動きを正常に戻していくことで、上記の症状のほとんどは
改善されていきます。まず左肩甲間部の椎骨、肋骨の動きを取り戻し、筋肉の収
縮を除去する事が不可欠になります。この個所が回復していけば、左半身の心臓の
絞り込みにより発生している体の歪みが解消されます。また上部胸椎(胸椎3、4、5番)
と左肋骨の3、4、5番を調整していくことで、ふくらはぎの痛みもとる事ができます。
ここに動きが出る事で、心臓の働きが改善し、心臓のポンプ機能が正常になり、
ふくらはぎ部や左臀部の血液の循環が変わるからです。日本伝承医学の治療では
このようにふくらはぎには直接的に触れず、上部胸椎の調整法を用いて、痛みを改善
していきます。そして怪我の直接的要因となる全身の血液の循環、配分、質の乱れを
整えるために、肝臓胆嚢調整と心臓調整法をとり入れていきます。また痛みをとる方法と
して、患側ではなくて、健側を使ったバランス操法を用います。日本伝承医学では、こ
のように単に患部だけを診ていくのではなく、遺伝的な体質と内臓との関わりの中から
全体的に、有機的思考法で捉えて診ていきます。