人は何故病気になるのか?回復させるためには
どうしたら良いのか?

                                   2019.7.25. 有本政治

人は何故病気になるのか? 一番素朴な疑問ですが、一番答の出せない問題です。
病気になる根拠と機序が明らかにできないと、回復には何をなすべきかの答えも
導き出せません。

世の中では多種多様な健康情報が蔓延し、情報過多で、何を選択すれば良いのか
わからず、錯綜状態になっているのが現状です。間違った健康法を信じて、良かれ
と思って実践し、寿命を大幅に縮めてしまう事もあります。日本伝承医学では病気の
根拠と機序を明確にし、病気や症状を回復に向かわせるための必要条件を提示し
ています。

人間社会には病名のつく病気が二万種位あると言われています。しかしその中で
原因がわかってる病気は約1割程度になります。何故人間だけに、この様な多種
多様な病気が発生するのでしょうか。動物は、弱肉強食や疫病、餓死で死ぬことは
あっても、人間の様に何年も床に伏し、苦痛や恐怖を伴いながら死ぬようなことは
ありません。動物達は実に尊厳深く、静かにその寿命を全うしています。
人間だけが、見誤った選択眼で、与えられた寿命を全うできていないのです。


『病気は、脳内の熱のこもりと心肺機能の低下が原因となる』

病気は、脳内に熱がこもる事から始まります。脳は、全ての思考と生命情報を総括
し、生命活動に指令を出す中枢の場所になります。謂わばコンピューターに匹敵する
重要部位で、熱に最も弱い個所になります。脳内に熱がこもることで、脳内温度(脳温)
が上がり、熱でたんぱく質が変性し固まってしまいます。一度固まった部位は元には
戻りません。

脳温が上がると、基本的生命維持機構に指令を出す「脳幹」(のうかん)にも熱がこも
り、脳幹の機能を著しく低下させます。脳幹は別名「命の座」と言われ、「食息動想眠」
(しょくそくどうそうみん)全ての生命活動の指令の中枢部になります。食欲、呼吸、心拍
体温、思考、睡眠等が正常に働くように指令を出し、コントロールしています。故に脳
幹の機能が低下すれば、人間のもつ本来の生命力と免疫力も低下してしまいます。
この生命力と免疫力の低下が、全ての病気の発生原因となるのです。

病気になるもう一つの要因として、生命維持の中心的役割を担う心臓と、肺の機能
の低下が挙げられます。心臓は命の源(みなもと)となる血液の循環ポンプであり、
肺は新鮮な酸素を血液に溶かし、人体の組織器官に供給しています。これらの機能
は、生まれつきに遺伝的弱さをもっている場合があります。父母や祖父母に心肺機
能の弱い人がいる場合、体質的に遺伝していきます。自身の体質を理解し向き合う
ことも、病気治しには必要です。

心臓が弱いと、脳へ血液を上げる力も弱くなり、脳に虚血(血液不足)が生じ、脳内
に熱が発生していきます。また、肺が弱いと、新鮮な酸素を含んだ血液を体内全て
の生理器官に供給する事ができなくなり、全身の血液の循環・配分・質に乱れを生
起させます。このような機序で病気は発生していきます。

つまり、全ての病気は、脳内の熱のこもりを起点として、自身の生命力と免疫力が
低下していくことから始まります。これに心肺機能の低下が加わる事で、全身の血液
の循環・配分・質が乱れ、様々な病気を発生させていくのです。


『四つ足の動物から二足直立を果たした人間の弱点と対処法』

人間は直立し、二足歩行をすることによって大脳を獲得し、発達させた事で、思考
能力をもちました。これにより「火と道具」を発明し、物質科学文明を築き、“万物の
霊長”として君臨するようになりました。しかしその反面、四つ足の動物にはない、
様々な弱点をもつようになってしまったのです。


【弱点1~四つんばい運動】
四つ足の低い安定した構造体から、二本足の縦長な構造体に移行した事で、四つ足
動物の様に、四本の手足のポンプ機構を使って、心臓に血液を還す事ができなくな
りました。心臓に還る血液が不足するという構造的弱点が生じてしまったのです。
また二本の足で立ち上がったことで、心臓より高い位置にある頭に、つねに多量の
血液を上げなければならなくなり、心臓に大きな負担がかかるようになってしまいま
した。

四つ足の動物は、四本の手足の筋肉ポンプを使用できるため、心臓や脳に虚血が
起きません。頭の位置が胴体と同じ高さにあるため、心臓に負担がかからない構造
となっているのです。当然、頭部(脳)にも熱がこもりません。四つんばい(四つ足歩行)
を日常生活にとり入れると体にいいと言われるのには、四つ足動物の構造を見習った、
このような理由があったのです。

四つんばいになって歩くことを毎日3分間とり入れるだけで、体調は大きく変化します。
手、肘、肩の関節に圧がかかり、二の腕の筋肉が発達していくため、心臓のポンプ
機能が上がります。二の腕やふくらはぎは、心臓に血液を環流させるための主要な
ポンプ機能の役割を担っているのです(詳細は「つま先立ちと腕立て伏せは何故必要
なのか」の項を参照下さい)。

心臓が微弱な電気で動いているように、人体は圧が加わると電気が発生します。
手を床につき四つんばいになることで、肩鎖関節(けんさかんせつ)に圧がかかり、
発生した電気が鎖骨(さこつ)から胸骨(きょうこつ)に伝導していきます。心臓は胸骨
の真裏に位置しているため、胸骨を介して、心臓に電気エネルギーが伝わり、心臓
の拍動が整います。四つんばい歩行がつらい場合は、静止して四つんばい姿勢をと
るだけでも心機能は上がります。


【弱点2~深呼吸】
二足直立によって、呼吸に関与する横隔膜(おうかくまく)の上下動に重力がかかるよ
うになりました。また、 肋骨(ろっこつ)の開閉上下運動の動きにも重力の制限が加わ
り、呼吸にとって大きな妨げとなり、常に肺に負担がかかり、肺の機能低下をまねき
ました。つまり四つ足から、二足直立になったことで、人間は、「心肺機能」(心臓と肺
の機能)に負担が生じるという構造的弱点をもつことになったのです。

重力から解放され、横隔膜の動きをとり戻すには、横たわる必要があります。横隔膜
は単なる隔壁ではなく、人体最大のポンプ機構になります。横たわることで、横隔膜
の動きが楽になり、血液と体液の循環がよくなります。 
また、横になり、ゆっくり深呼吸をするだけで、横隔膜の動きに変化がでます。
横隔膜に動きが出ると、固まって機能低下していた心臓も、正常な動きをとり戻すこ
とができます。深呼吸は肺胞全てに十分な空気(酸素)をとり込めるため、肺の機能も
上がっていきます。

私たちは普段浅い呼吸をしていますが、意識して深呼吸を行なうだけで、弱った心臓
と肺の機能を、回復させることができるのです。できるだけ早い時間に床につき、横
になることは、一日の疲れをとるためだけではなく、心肺機能を回復させるという重要
な役割があったのです。


【弱点3~局所冷却法】
縦長の構造体である人間は、心臓まで血液が充分に還りにくい構造の為、その上部
に位置する頭(脳)に、充分な血液を供給できず、脳に血液不足(虚血)を生じさせました。
脳が虚血(きょけつ)になると、体は、脳内に血液をいち早く循環させようとし、脳内の
圧力(脳圧)を高めていきます。脳圧が高い状態が続くと、脳は熱を発生させ、脳内に
熱のこもりを生起させていきます(脳の炎症)。

脳内の熱を除去し脳内温度を下げるためには、日本伝承医学が家庭療法として推奨
している氷を使った局所冷却法を行なう事です。就寝時に氷枕を後頭部にあて、アイ
スバッグで首や額(ひたい)を冷却する事で、脳温が下がり、脳圧の上昇を防ぐことが
できます。


【弱点4~日光浴】
大脳の発達は言葉や文字を獲得させ、思考能力を飛躍的に高めましたが、その思惟
活動は他の動物にはない感情面をも発達させ、「感情の動物」と言われる喜怒哀楽を
もつことになりました。これは悩みや苦しみ、悲しみ、憎しみ、怨み等の感情を生み出
し、精神的ストレスを発生させていったのです。精神的ストレスの持続は、脳内に熱を
発生させる最大要因となってしまったのです。

感情をコントロールできる、ストレスに強い脳内神経伝達物質を「セロトニン」と言いま
す。脳内に熱がこもり、炎症を起こすと(脳の炎症)、脳内物質のバランスが崩れ、セロ
トニンが著しく減少していきます。セロトニンが減少すると、ささいなストレスでも感情が
左右されやすくなり、不眠や情緒不安を招いてしまいます。不眠症や神経不安症等の
症状に、日光浴が著効を示すのは、日光を浴びることで、セロトニンの分泌が促進さ
れるからです。


二足直立の人間の弱点を述べてきましたが、このように日常生活で自助努力をして
いくだけで、不調は改善していくことができます。病気や症状は、自分でもできること
を実践し、自分自身でも治すという信念をもつことが大事です。


『脳内の熱のこもりと心肺機能の低下の根拠と機序が明らかになれば、
 どう対処すべきかが見えてくる』


人間と他の動物との決定的な違いは、四つ足動物から二足直立を果たした事です。
地球上を支配する絶対的要素となる「重力」の作用力と方向が、動物とは違うと言う
事です。地球上の全ての物体は、1Gという重力に抗してつぶれないように、またそれ
にあがなって動いています(抗重力作用)。

二足直立により縦長構造になった人間は、この重力に抗するために人体構造を構
築したのですが、どうしても補完しきれず構造的な弱点を抱える事になってしまいま
した。この状態から受ける負担が、脳内の熱のこもりと心肺機能の低下をもたらした
のです。

また、脳内の熱により脳幹に熱がこもることで脳圧が上昇し、脳血管障害を生起させ
るようになりました。人間の死因の三番目迄に、脳血管障害と心臓疾患が入っている
のは、病気のほとんどが、脳の問題と心肺機能の低下に起因しているからなのです。

脳の炎症は、脳内物質のバランスを崩し、様々な精神疾患も引き起こしていきます。
野生の動物には、脳血管障害も精神疾患もありません。これは人間特有の病気とい
えます。

これらから脱却するためには、縦長の姿勢にかかる重力から解放させることです。
つまり横たわる事です。横たわることによって体はどう変化するかを列挙してみます。

❶頭の位置が胴体と平行になるために、脳に血液が供給しやすくなり、脳の虚血が
 解消できる。

❷心臓の位置も胴体と水平になり、心臓に血液が還流しやすくなり、心臓にかかる
 負担が無くなる。

❸同様に呼吸に関わる横隔膜と胸郭の動きが重力から解放されて大きく動くように
 なり呼気も吸気も楽に行なえ、酸素を充分にとり込めて、肺の負担が減少する。
 横隔膜の動きが楽になることで、血液と体液の循環が楽に行なえるようになる。

❹縦長な立位から床に横たわるという姿勢の変化は、重力方向がまったく異なる事
 になり、体内の血液、体液、胃腸内の内容物等全ての液体成分の循環と物質の移
 動が変わる事になる。縦方向の重力から解放される事で、液体成分は横に拡がり
 やすくなり、循環に負担が無くなりスム-ズになる。また血液、体液の配分が変わり、
 循環が良くなる。

❺血液の貯蔵庫と言われる肝臓に血液が集まりやすくなる。4ー6ー10の法則と言っ
 て、立位だと4、坐位だと6、横たわると10肝臓に血液が供給できる。これは肝臓機
 能を円滑に活動させ、また低下した肝臓機能を元に戻す上で不可欠となる。
 さらに就寝時に肝臓冷却を行なうことによって、一日の疲れで充血した肝臓(胆嚢)
 の熱を除去できるため、本来の機能をとり戻すことができる。

❻横たわり肝臓機能が上がることで、胆嚢(たんのう)機能も上がり、胆汁(たんじゅう)
 の分泌がよくなる。胆汁の分泌がよくなると、血液の熱がとれて、サラサラのきれい
 な血液になる(血液の質が良くなる)。

❼横たわることによって腎臓機能が上がる。腎臓は二つあり、臥位から立位をとると
 腎臓は若干下降し、また呼吸運動に伴って、吸気では下降、呼気では上昇する。
 つまり、腎臓は振り子のように動きのある臓器と言える。立っていると常に重力とい
 う負荷がかかり、臓器に負担がかかっていく。横たわることで重力から解放され、
 本来の機能をとり戻すことができる。夜中に何度もトイレにいきたくなるのは、腎臓
 が無理なく働いている姿なので、薬で尿意を止めてはいけない。
 また、水の摂取が少ないと、腎臓が役割を失い、機能低下していく。水は一日約1.5
 ~2リットルの摂取が望ましい。 

❽横たわることによって腸の機能が上がる。重力から解放されるため、負荷がかか
 らなくなる。人体の右側に位置する上行結腸(じょうこうけっちょう)は、重力にさから
 って蠕動運動(ぜんどううんどう)をしている。寝不足が続くと、右下腹部が重くなり、
 便秘になりやすいのは、上行結腸の働きがうまくいかなくなるからである。横たわる
 と上行結腸に負荷がかからなくなり、便の生成が楽にできるようになる。夜中に便
 意をもよおすのは悪いことではなく、腸が重力から解放されて、働きやすくなってい
 る姿なのである。

❾脳下垂体から分泌される成長ホルモンは、その名の通り骨を成長させる重要なホ
 ルモンであると同時に、体内のすべての細胞代謝を促進させ、生命力を維持する
 作用がある。この成長ホルモンは、夜の10時から4時の間にしか分泌されず、この
 時間帯に身体を横たえていないと、放出されない。つまり病気を回復に向かわせる
 ためには、夜10時~4時迄は、横たわる必要がある。同じ6時間でも、12時~6時迄
 の睡眠では意味をなさない。

 また、夕食は就寝の5~6時間前には終えるようにする。10時に寝るためには、5時
 以降は固形物はとらないようにする。固形物を摂取すると胃腸が消化するために
 負担がかかり、就寝時に臓器が休まらず、いくら寝ても、体は回復できない。
 不調になる人のほとんどが、就寝の2~3時間前に固形物をとってしまっている。


横たわるということはこのように実にたくさんの大事な意味が含まれています。
動物達は天然に、横たわることを行なっていたのです。


『横たわる時間をできるだけ長くとる
 氷を使って頭部、首、額を冷却し脳内温度を下げる
 これが病気を回復させるための絶対条件となる』


人は何故病気になるのか、そして回復に向かわせるにはどうしたらいいか。
病の根拠と機序が明らかになれば、何をすべきかはおのずとわかってきます。

動物達は具合が悪くなると、涼しい個所を見つけて、ただひたすらじっと横たわって
います。水以外は固形物を口にしません。食べ物をとり入れると、消化のためにエネ
ルギーを使う事になり、回復が遅れることを知っているのです。四つ足の動物であっ
ても、横たわる事で重力から解放され、心肺機能と肝機能が上がることを天然に知
っていたのです。

横たわり、脳内温度を下げる、頭部(額)冷却の重要性は、日本に古来から病気治し
の慣習として伝承されてきました。日本伝承医学とは、このように日本に綿々と受
け継がれてきた慣習や古代人の知恵、叡智を伝承している、家庭の医学になります。