古代日本の自然分娩促進法


古代日本人がこの地に残してくれた医学を継承し、四十年が経ちます。
日々、臨床に於いて、日本伝承医学の技法を用いて病気回復の一助にさせ
て頂いております。これらの技法の数々は知れば知るほど、古代日本の医学
の見識の高さに驚かされます。伝承され続けてきた技術の中から、今回は
「自然分娩促進法」を紹介します。

出産現場で用いられるこの技術は、長時間難産に苦しんだり、帝王切開での
出産を余儀無くされる方々にとって役立つ治療法になります。
難産や手術を回避することもできるので、産科の医師、助産師の方々にも
身につけて頂き、出産の場面で広く活用できる様、望みます。この技術は、
母体に危険性も副作用も後遺症もなく、骨盤を形成する二つの関節(恥骨結合
と仙腸関節)の動きを回復させ、産道を拡げると同時に、腹圧を一気に高める
事で、自然分娩に導くことができます。

難産の原因は以下の3つが考えられます。

⑴胎児の大きさが骨盤開口部を通過できない大きさになった場合

胎児の大きさとは、胎児の頭の発育が正常よりも大きく、産道を通過するのが
困難となる場合です。今日では、母体内の胎児の頭や身体の計測は、画像診
断に基づき出産前に確認できます。計測上、困難と判定された場合は、帝王
切開手術による出産となります。この場合の選択は正しいと考えます。外科手
術の進歩は著しく、これに委ねる事で母子ともに危険を回避できるからです。

⑵胎児の通り道、産道が開かない場合(実際には恥骨結合と恥骨下角が開かない)。

これらの場合に、日本伝承医学の「自然分娩促進法」が著効をしめします。
産道が開かないということは、産道となる膣(膣には拡張性がある)が拡がらな
いのではなくて、出産時に胎児が頭を出す場所の骨盤下口を形成する骨と骨
の巾が拡がらない状況を指しています。

骨盤は3つの骨で構成されていて、動く関節は恥骨結合部と仙骨の両横にある
両仙腸関節の3箇所です。この本来動くべき関節が固着したように動かなくな
ってしまうことで、恥骨結合部と恥骨下口の骨と骨の巾が拡がらないのです。
この恥骨結合と恥骨下口は妊娠時に出る特殊なホルモンによって恥骨結合部
の靭帯が柔らかくなり、出産時に約1センチほど開きます。これに伴い恥骨下口
も開きます。この作用が作動しない事で産道が開かなくなるのです。これが難産
の大きな要因となります。

何故固着するかと言いますと、流産や早産の防止のためにとる体の対応に
なります。生命力を低下させている現代女性は子宮口を締めたり、胎児を持ち
上げる腹圧が低下してきているために流産や早産になりやすく、逆子や横子に
することで流産を防止しています(逆子や横子の意味の項を参照)。さらにもう
一段の防止対策として恥骨結合部を固着させて、開かないようにして流産を防
いでいるのです。この対応は、出産時においては解かれるものなのですが、固着
がとれない状態がそのまま残ってしまうのです。これを解除することができるの
が日本伝承医学の自然分娩促進法になります。瞬時にして恥骨結合の固着を
解除し、恥骨結合を開くことができるのです。

⑶胎児を出す力が弱い、微弱陣痛や腹圧が低下していて押し出す力が足りない場合

胎児を押し出す力が弱いということは、微弱陣痛と腹圧の低下を意味します。
この2つは、局所的な筋力の低下だけではなく、もっと全体的な、謂わば生命
力そのものの低下を意味しています。前述してありますように、子宮口を締め
たり、腹圧で胎児を持ち上げたり、肛門、膣、尿道口を締めたり緩めたりする
力と便を押し出す力の腹圧は、生命力と大きく関わっています。新たな生命を
産み出す力とは生命力そのものになります。

徐々に時間をかけて低下していった生命力そのものといえる微弱陣痛と腹圧の
低下を、正常に戻すには時間を要します。それを待っている時間的な余裕は
ありません。出産の現場では一瞬でもその力が高まれば、産み出す力と成り得
ます。この力を、一時的ではありますが一気に回復させることができるのが
「自然分娩促進法」になります。これにより自然分娩が可能となるのです。

古代日本人が、骨に対しての鋭い洞察力により見出したこの技術を、解明で
きる範囲でその意味と機序を説明致します。
現代の産婦人科で行われている出産時の妊婦の体勢は、分娩台に仰向けに
寝て、両脚開脚で、両膝屈曲肢位をとるのが一般的です。しかし実はこの出産
体勢に問題があるのです。理想の体勢は、和式のトイレにしゃがんだ下半身姿
勢で、上体を起こし両腕を伸ばして、鉄棒にぶら下がったような懸垂肢位になり
ます。

この体勢と動作は、流産に成りやすい体勢と動作である為、日本では、古代より
"井戸の釣瓶(つるべ)引き動作"と表現し、禁忌とした体勢動作になります
流産しやすい体勢とは逆に、出産しやすい体勢でもあるのです。故に出産において
は、この姿勢をとる事で骨盤下口と恥骨結合が開き、産道が拡張されます。
そして上半身を伸ばした垂直の姿勢でぶら下がる事により、内臓の重み、
胸部横隔膜の作用、腹筋の収縮が生じ腹圧が一番高まるのです。
まさに出産をスムーズに行うための条件の全てが含まれています。
(つまり、現在行われてる出産姿勢に、上体を垂直に起こす体勢が加わるだけ
でも、今よりもっと楽に出産ができるようになります)。

日本伝承医学の「自然分娩促進法」は、古代からの出産姿勢の利点をそのま
ま技術として抱合させています。この技法は、骨盤部の恥骨結合とその裏側の
両仙骨腸骨関節を瞬時に締めたり開いたりする事で、失った可動性を回復させ、
同時に腹圧を一気に高める事を目的に構築されています。
原理的、作用的には、膝蓋腱反射と上体の牽引反射法を順番に行なう事で、
上記の目的を達成させます。これにより恥骨結合部が開くと同時に恥骨下口も
開き、産道の拡張が助けられ、また一気に腹圧が高まり、押し出す力を助長し、
自然分娩に導くことができます。

古代日本人が残してくれたこの「自然分娩促進法」を、難産に苦しみ、手術を余
儀無くされる多くの妊婦さんの方に役立てていける様これからも精進してまい
りたいと思います。