筋膜リリースとトリガーポイント治療/人体ヨロイ理論
                    2021.3.12.
有本政治
 

2021312日に行なわれたスポーツトレーナー未来塾の講義内容に
 なります。

                    
≪有機的全体思考≫ 

全体と部分の調和・・・宇宙も自然も社会も人も、単体では存在できません。

「全体は部分を総括し、部分は全体を規定する」 

人体のすべての関節は単体では働くことはできません。周辺の関節との
連動と調和の中で成り立っています。このことを教えてくれるのが「機
能解剖学」になります。もっと詳しく勉強するに『カリエの痛み』シリ
ーズを学ぶ必要があります。

     医歯薬出版株式会社発行        Rene Cailliet
                                       荻島秀男 訳
≪筋膜リリースとトリガーポイント治療≫

筋肉は筋膜という薄い組織膜に包み込まれています。筋膜は、筋全体
を覆(おお)っている最外層の「筋外膜」と、いくつかの筋繊維を束ねて
覆っている「筋周膜」と、筋繊維11本を包む「筋肉膜」との3種類に

分けられます。

 この筋膜は柔らかい組織なので、萎縮や癒着しやすい特徴があります。
これがコリや痛みを招き、筋肉の柔軟性を損なう要因になります。また、
筋膜や皮膚は、内部に炎症が起きると腫れて熱が発生する特性がありま
す。本来皮膚はピンと張力がはっているのではなく、シワがありゆとり
があるものになります。ゆとりがあることで内部の熱がすてられ、循環
が確保されているのです。ところが内部に熱がこもると(炎症)、皮膚が
ピンと引き伸ばされた状態になり、筋膜もひきのばされ、筋膜の機能を
果たさなくなってしまいます。筋膜は組織を支える「第二の骨格」と言
われる、とても重要な役割を果たしています。

 筋膜リリースは、筋肉の萎縮、癒着を引きはがしたり、引き離したり、
こすったりすることで、内圧の除去、熱の放出、内部循環の復活をし、
筋膜を正常な状態に戻していきます。と同時に、皮膚機能も改善してい
きます。

 またキネシオテープを合わせて用いることで、皮膚にゆとり、余裕を
もたせ、本来の皮膚機能と筋膜を回復に向かわせることができます。

 トリガーポイントとは、引き金の意味で、筋肉に作用を及ぼすポイン
トになります。
東洋医学の経穴(ツボ)や現代医学の内臓体壁反射点とも
共通点があります。トリガーポイントを刺激することで当該筋肉の機能
を改善できるのです。

皮膚には呼気作用があり「脳ミソを薄くのばした状態」と言われるよう
に、脳と密接な関わりがあります。皮膚機能を回復させ、筋膜を良い状
態にするには、脳内環境を正常に復する必要を無視してはなりません。
脳は熱に最も弱い部位であり、脳内温度(脳温)43度以上になると人間
は生命維持ができなくなります。つまりいかに脳内の熱を除去していく
かで、人体のすべての神経作用が促進され、筋膜を正常に復することが
できるのです。そのためには、就寝時に氷枕で後頭部を冷却し、脳内の
熱のこもりを除去していく「局所冷却法」が著効をしめします(詳細は
日本伝承医学のHP『家庭療法としての局所冷却法』参照)

 人体はこのように、全体と部分との関連の中で相互に関連し合い、生
命を維持しています。臨床家、スポーツトレーナーは、一部分だけ、そ
の部位だけをみていくのではなく、有機的全体思考で人体を捉えていく
と、今までみえなかったもの、気付かなかったことがわかり、あらたな
視点、第三の目を持つことができるのです。
 

≪人体ヨロイ理論≫ 

●縦長な人体の中で大きな構造体は、骨盤部、脊柱部、胸郭部(肋骨部)
頭部となります。ヨロイにたとえるなら、骨盤部は前ダレ、胸郭部は胴
ヨロイ、頭部はカブトにあたるといえます。

●以下の脊椎とそれぞれの構造の変わり目、合わさり目に、ゆがみは集
約されます。
 ①頭頸部 ②胸部 ③胸腰部 ④腰仙部 ⑤骨盤と両股関節部
●自分で行なう上記ヨロイの境目の調整法
 立位または正座位で行ないます。
 各実技詳細は『日本伝承医学実技解説書』『日本伝承医学わかりやす
       い解説書』
『日本伝承医学ひとり操法』参照。
 ①ひとり三指半操法 または五指底屈法
  ②ひとりリモコン操法
  ③ひとり心臓調整法
  ④左大腿部一発叩打法・・心臓に反射がいき、首、肩の筋肉の緊張が
  瞬時にゆるみます

  ⑤以下ヨロイの境目の調整法を行ないます。
   頭頸部・・・・・・・・・・・・・頭頂叩打法
  頸胸部・・・・・・・・・・・・・集約挙と中指背屈法
  胸腰部・・・・・・・・・・・・・両肩ストン法
  腰仙部・両仙腸関節部・・・・・・立位にて両かかとをもち上げ脱
  両股関節部           力ストンとかかとを床に打ちつ
                  ける
(10)。立位で両肩ストン法
                   と同時に行なってもよいです。
                  イメージは糸で
つるされた「あ
                  やつり人形」が重力線上に引き

                  あげられ、かかとにストンと落
                  とされるイメー
ジ。天から地へ
                  と一直線の感覚で行ないます。

  骨盤部・・・・・・・・・・・・・大腿骨をテコにして、骨盤の微
                  細な動きを正常に
復し、また
                  股関節の運動域も改善できます。
 

『人体ヨロイ理論』  著:有本政治  

 人体を把握する場合、その物の構造・機能・形態の三点から分類、考
察することが望ましい。人体を構造上か眺めてみると、その主体は、骨
格構造である。人体は約200個の骨で構成され、人体積木理論で述べた
通り、大小の骨の重なりで縦長に構築されている。大きく分類すれば下
から、下肢部―骨盤部―肋骨部―肩甲部―上肢部―頭部となる。その中
にあって下肢部は二本の足で、人体の土台となる骨盤部を支え、可動性
豊かな脊柱が一本頭部まで貫いている。

  人体機能上、大切な器官は堅固な骨の「ヨロイ」をまとい、保護され
ている。それは骨盤部、肋骨部、頭部の三個所である。戦国時代の武者
の「ヨロイ」を想像すればわかりやすいであろう。つまり大切な個所は、
ヤリや刀で突かれたり切られても致命傷にならないように防御されてい
るのである。しかしその反面、その部分の可動性は制限を受けることに
なる。人体部でいえば、体幹部の大部分を構成し、カゴ状を呈している
肋骨部がこれに相当する。

  人体の肋骨部は、カゴ状とはいえ、横目だけの構造であり可動の範囲
は大きいといえる。しかし、脊柱という積木を重ねたような可動性豊か
な中にあって肋骨と接合する胸椎部は、全体として一つのユニットとし
て動くと考えられる。

他のヨロイ部である、骨盤部・頭部もそれぞれの可動性を有しながらも
全体として一つのユニットとして動くと考えた方が妥当であろう。とな
ると、骨盤部から頭部までの間の可動に大きく関与するのはその空いて
いる部分、腰椎部と頸部とみなされるわけで、その中にあってヨロイの
境目にあたる腰仙関節部、胸腰椎移行部、胸頸椎移行部、頭頸関節部の
四個所が構造上、大変重要な位置を占めている。

  各移行部は力学的構造の分岐点となり、それは構造が変わり、形態が
変われば、動きが変わり、機能も変わる、すべての分岐点となる。機能
の分岐点ということは、内臓器官の各官の分岐点とも一致し、脊髄神経
の分岐点もここに集約されており、臨床上、欠くことのできない個所と
言えるのである。

  また、日本伝承医学の理論的基盤である、漢方理論との関係からこの
四つの分岐点を考察すると、日本伝承医学が最重要視している皮膚と腸
(
脾・胃も含む)、特に腸(大腸・小腸・胃)の反応の発現場所は、構造
医学で第一ベースと呼ばれる(腰仙部)に大腸兪・小腸兪、胸腰移行部に
脾兪・胃兪、頸胸移行部にあたる大椎穴部に手足の陽の経絡六経(大腸・
小腸・胃・膀胱・胆・三焦)が集まり、結ばれている。頭頸関節部は腎―
大腸の反応点と一致する。

  以上のように、すべて腸(大腸・小腸・胃)の反応の発現場所とも見事
に一致しており、構造面と機能面の最重要個所と言えるのであります。
右記四個所の他に、肋骨部の上部に位置する、肩甲骨の存在も構造上大
切であり、その下縁部(胸椎78)、上縁部(胸椎23)も臨床上見
落とせない個所であることを付け加えておきたい。生命体の構造・機能・
形態を決定づける最大の因子は、重力要素であり、その中で構造上から
人体を眺めると「人体ヨロイ理論」というものが十分に考えられるわけ
である。

                                    1987年 有本政治