葛根湯の誤った処方  2022.7.8.有本政治  

日本では風邪には「葛根湯」という考え方が浸透しています。
最近では肩こりや肩の痛みの処方として使用されるケースが
よく見られますがこれは誤った処方となります。

葛根湯(かっこんとう)は体の上部(首、肩、上背部)の発汗
解熱を促す漢方薬で、漢方の原典と言われる『傷寒論』に記載
されている初期の風邪(正式には風寒邪)の処方になります。
古代の風邪の考え方は、風と寒の邪を体内に引き入れることで
発熱が起こり、風邪をひくと考えていました。体表から風寒の
邪が入ると体の深部が冷やされるので、体の熱が放散しない様
に毛穴と汗腺を閉じて熱を放散できなくします。この時上背部
の毛穴と汗腺を開いて発汗させるために葛根湯が用いられまし
た。

現代の風邪の概念は古代とは異なります。防寒着や暖房に
より今では長時間、風寒にさらされることはなく、体の芯まで
冷えるということがなくなりました。風邪の原因は風寒の邪に
よるものではなく、体の力(免疫力と生命力)の低下から発症
する「温病(うんびょう)」という概念が正しい現代の風邪の
捉え方になります。

温病は体の免疫力が低下して、免疫の最前線にあたる喉に弱
りが起きることで発症します。喉の弱りを元に戻す対応として、
喉に炎症を起こすことで、喉の機能を回復させます。さらに
全身を発熱させ、人体内の組織の分子運動を活発にし、体力を
とり戻していきます。毛穴と汗腺を閉じて発熱させ風邪をひか
せ、体力の回復を図っているのに、葛根湯で毛穴と汗腺を開き
発汗させてしまうと、体に必要な熱が常に放散し続けることに
なります。そのために上背部の冷えが深部にまで及び、背中、
首、肩の筋肉にこわばり(硬縮)を生じさせ強いこりや痛みを
発症させます。

適用を間違えた葛根湯の服用は、このように体の深部に慢性的
なこりや痛みを生じさせるため、却って症状を悪化させてしま
います。こりや痛みは経絡的には小腸経に反応が出ます。

常用していた薬が体内から完全に消えるのには最低数カ月
かかりますが、強い薬やホルモン剤、抗生物質等は体内から
抜けきるまで何年もかかってしまう場合があります。間違った
薬の服用は極力避けたいものです。