上腕や手指のしびれと疼痛について    2015.7.1 有本政治

上腕や手指に起こるしびれや、うずくような痛みに苦しむ方がふえています。これ
は難しい疾患に属し、その機序を正しく認識する事が症状の改善には必要です。
この上腕から手指のしびれと疼痛(とうつう)の機序を日本伝承医学的に解説致
します。

しびれという感覚は、血液の流れがとどこおることで発生します。血流が遮断され
ている所に、ジワジワと血液が流れる時に感じる感覚です。長時間正座をして、
立ち上がって、膝を伸ばした時、ジワジワと血流が回復する時のしびれる感覚の
ようなものです。つまりしびれとは、動脈、静脈の血管が通常の流れを妨げられて、
ジワジワとしか流れなくなった所に起こる、血の気が失せたような不安な異常感覚
になります。

次に疼痛とは、体の奥からうずく痛みの事で、痛みは知覚神経が感じる感覚です。
どこかで神経の伝達を阻害する要因が発生する事で感じます。痛みの神経は、
神経を圧迫したり、つまんでも痛みは発生しません。どうした時に痛みが起こるか
と言いますと、それは神経が引き伸ばされた時に起こるのです。まさに輪ゴムが
伸ばされるように、神経に張力がかかった時です。

以上の二つの要因が重なった時に、上腕や手指にしびれや疼痛が発生します。
上腕は、胴体に肩で関節する形で連結しており、その根本にあたる場所と首の角
度がこの症状に大きく関わっています。この症状を訴える人には、共通の姿勢の
歪みが存在します。それは、頭と首の前方への突出と上体のねじれです。立位の
姿勢を横から眺めますと、頭が脊柱の上に真っ直ぐ乗っておらず、前方に突出して
います。それに付随して首も斜め前方に傾斜しています。また肩を少しすぼめた
姿勢が特徴的です。こうした長い時間の経過の中から上腕や手指のしびれは起
こっています。

上体のねじれは右に症状がでる場合と左とではねじれ方が決まります。私の40年
余の臨床経験上、左の上腕のしびれと疼痛の方が圧倒的に多いようです。これに
は理由があります。左に症状が出る場合は、上体が頭上から見て、右にねじれて
います。左肩が前下方に巻き込まれるように右にねじっています。
これはどうして発生するかと言いますと、心臓の拍動を助ける対応として、右に
体をねじり、心臓を絞り込む形を取るからです。心臓という臓器は、ハート形で逆
円錐状をしています。そして上から見て右にひとねじりした形で上胸部に収納され
ています。心臓のポンプ機能が低下してきた場合に、心臓の下部にある血液を噴
出する役割を担う左右の心室の収縮を助ける対応として、心臓の右スピンをより
強める事で血液の噴出を助けているのです。また心臓を絞り込む姿勢をとる事で
心臓の拍動を助けているのです。心臓が弱まるという事は、遺伝的体質もありま
すが、その人自身の生命力の低下を表わしています。

右上腕に症状が出る場合は、胆嚢の袋の収縮を助け、胆汁の分泌を守る対応とし
て、上体を左にねじり、胆嚢を絞り込むように右肩を前下方に巻き込ませます。こ
の場合は、しびれよりも上腕から肘、手の親指、人差し指にかけての運動障害と
疼痛が強く感じられます。このように体は、大切な機能を守るために、故意に姿勢
の歪みを作ってまでも対応するのです。

頭と首を、前方に突出させるのも、理由があります。人体は他の四つ足動物と違っ
て、二足直立で縦長な形をしています。例えれば、積み木を積み上げて高くした
構造になります。積み木構造は、積み木を斜めに積んでいくと、ある高さになった
ら崩れてしまいます。崩さないためには、上に積む積み木を重力方向にバランス
をとるように積み上げなくてはなりません。この状況をそのまま人体にあてはめて
みると、頭を前方に突出させる事で、縦長な人体の姿勢のバランスをとっている
ことがわかります。(詳細はHPの人体積み木理論、バナナ理論参照)

以上が姿勢の歪みの本質になります。すべて体にとって必要な対応で、痛みを発
する事で、血液が不足している所に血液を集めるための役割と、痛みの信号によ
って心臓のポンプ力を高め、血液を送り込む対応をしているのです。

冒頭で解説してありますように、しびれと疼痛発生の直接的原因は、上腕の付け
根と首の前方への突出になります。上腕の付け根で大きな血管(動脈、静脈)
が通っている場所は、鎖骨と第一肋骨の間になります。腕に行く動脈、静脈の全
てがこの二つの骨の隙間を通って腕に伸びています。また頸椎(首の骨)から出
て、上肢(腕、肘、手、手指)を制御支配する知覚神経や運動神経もこの隙間を
通過しています。

左上肢のしびれや疼痛は前述してありますように、首が前方に突出し、上体が右
側にねじれ、心臓を絞り込むように肩が前下方に巻き込む状態が続く事で、上記
の鎖骨と第一肋骨の間の隙間が狭められてしまうのです。これが腕に伸びる動脈、
静脈を圧迫する事になります。これにより上肢への血液の流れが阻害される事に
なったのです。血液が上肢にジワジワと流れる事で腕全体の重だるさと、手指の
しびれ感を発生させる原因となっています。また、首の位置が正常位置より、前方
に突出する事で、頸椎から出て上肢に伸びる神経を引き延ばす事になり、これが
痛みを引き起こしているのです。

以上が上肢にしびれや疼痛を発生させる機序になっています。故にこの状態を回
避するためには、首の前方への突出を元に戻し、上体の右ねじれと心臓の絞り込
みによる左肩の前下方への巻き込みを取り除く事で、神経の引き伸ばしと動脈、
静脈の圧迫を解除し、しびれや疼痛は解消できるのです。

ただ上肢にしびれや疼痛が発生するようになるまでには、長い時間の経過と、自身
の生命力や免疫力の低下が背景にあり、特に左に症状が出ている時は、心臓の弱
りが必ず関係しています。また膵臓と脾臓の機能低下も存在します。左肩を前下方
に巻き込むのは、心臓を絞り込むだけではなく、膵臓と脾臓の機能を発現させる
ためでもあります。左上肢のしびれは糖尿病の人に多く見られる症状で、慢性的
に左の肩甲骨と脊柱の間にこりや重だるさを訴えるのも特徴です。故にこれを元
に戻すには、本人の自覚と、生活習慣の改善は不可欠になります。また一朝一夕
に治すことはできず地道な自助努力も必要になります。

特に首の前方への突出は、積み木の積み重ねに例えて説明してありますように、
上の積み木を積み替えて、直るものではなく、下部構造を積み替える事で修正し
ていく必要があります。これを修正するためには、肝臓の慢性的な腫れと左肝臓
と言われる脾臓の腫れの両方を取り除く事も必要です。

下部構造に歪みが生じるのは、肝臓と脾臓の腫れの圧迫を回避する対応から起こ
ります。カゴ状の肋骨の下部を前方に突出するため、姿勢が後方に反り返ります。
これを上方の頭部を前方に突出する事で姿勢のバランスをとっているのです。
肝臓と脾臓の腫れは慢性的な生活習慣の乱れと精神的ストレスの蓄積から起こっ
ており、修正には時間を要します。

この状態を回復に向かわせるためには、首や上腕部を対象とした局所治療だけで
は効果は上がりません。低下した生命力や免疫力の低下を元に戻し、肝心要と言
われるように、肝臓(胆嚢も含む)と心臓の機能を高める事で、全身の血液の循環、
配分、質の乱れを正す事が重要です。
肝臓の充血がとれ肝機能が上がり血液の配分が整うと、胆嚢機能も上がり苦い
胆汁の分泌が促進されます。そうすると血液の質(赤血球の連鎖)が変わり、心臓
のポンプ力が元に戻り血液の循環が改善できます。特に胆汁の分泌を促進する事
が、膵臓と脾臓の負担軽減につながり、機能を回復させていくのです。

以上を達成させることができるのが日本伝承医学の治療法になります。骨髄機能
を発現させる事で細胞新生と造血を促進し、生命力や免疫力を回復させていきま
す。肝心要を中心にした治療で肝臓、胆嚢と心臓の機能低下を元に戻します。家
庭療法として勧める頭と肝臓の氷冷却法により、脳内の熱のこもりと脳圧の上昇
を抑え、肝臓、胆嚢の熱と腫れ、充血を除去していきます。また首の前方への突出
と上体のねじれや巻き込みは、骨伝導を使用した日本古来より伝承の技法で対応
します。これらの統合的な取り組みにより症状は徐々に回復に向かわせる事が出
来るのです。