腎臓結石及び尿路結石の本質 2019.2.20. 有本政治

日本伝承医学の疾病観は、病気や症状を一方的に悪の反応として捉えるのでは
なく、一時的な必要な対応として捉えています。病気や症状には意味があります。
その意味とは、何かを守り、何かを元に戻し、ひいては私達の命を最後の最後ま
で守る必要な対応になります。その観点に立って、腎臓結石及び尿路結石の根拠
と機序を解説していきます。


『苦痛はあっても、体は命を守ることを優先させる』

胆石、膵炎、結石(尿路結石)の痛みは、「三大激痛」と言われています。中でも結
石は「七転八倒の苦しみ」、「想像を絶する痛み」と表現されます。突然の激痛に
救急車を呼ぶことも少なくありません。

現代医学の治療では、腎臓に石ができないように石を溶かす薬を服用したり、外
科的な処置をしていきます。しかしいかなる手段を講じて腎臓の石を封じ込める処
置を施しても、何度でも再発してしまいます。何故なら石を作る事は、体を守り、命
を守る対応に当たるからです。大切な事は、どうして腎臓に結石ができるのかとい
う根拠と機序を知る事です。それが明確になれば、対処の方法は見えてきます。

生きている体の起こす事には必ず意味があります。例え大きな苦痛を伴っても、体
や命を守らなければならない事態に進行する状況に体が置かれた場合は、命を守
る方を優先させるのは生物として当然の対応になります。

結石は、腎臓にある場合はほとんど痛みはありません。また結石が小さい場合は
尿として自然に排出されます。痛みを発するのは、石が大きく腎臓から離れて、尿
管や尿道に詰まった場合になります。この確率は低く、すぐに生死に関わるもので
はありません。

体内に石を作るという化学的対応は、生命にマイナスに作用する様な化学的な反
応を体内に生じさせません。例えば体内のカルシウムの血中濃度や細胞内の濃度
は超微細な濃度に常に一定に保たれないと、生命に危険が及びます。故にカルシ
ウムを主成分とする結石は、カルシウムの血中濃度や細胞内濃度に悪影響を与
えるような事があってはならないのです。

つまり結石は悪ではなく、カルシウムの濃度を一定に保つための必要な対応の一
手段であるという正の対応の視点が求められるのです。以下この認識に立って結
石を捉え直してみます。



『生きている体の命を守る対応手段は、人智を超える』

命を守るための対応手段は人智を超えています。正にそこまでやるかという様な、
驚きの対応を示します。以下いくつか例を挙げることで、今回にテーマとなる腎結
石の本質が見えてきます。

腎臓結石と同様に体内に石を作る対応としては、胆石が挙げられます。胆石は胆
嚢(たんのう)という袋の中に、石を作る事で、胆嚢内の内圧を高め、胆汁(たんじゅう)
の分泌を守るために生じます。胆嚢が慢性的に炎症を起こし袋が腫れることで、袋
の収縮が制限され、胆汁の分泌ができなくなります。これを補うために袋の中に、石
を作る事で袋内の内圧を高め、わずかな収縮でも胆汁を出す対応をとっていきます。
また胆汁の濃度調整の作用も持たせています(詳細はHP院長日記、胆石の本質
の項を参照)。

同様に関節内の滑液の循環を守る対応として、スポーツ選手が重症の足関節捻挫
後に生じる”関節ネズミ“と言われる軟骨形成があります。これは重症捻挫で正常
な関節運動に制限が生じ、関節内の滑液の循環を守るために、関節内に軟骨とい
う個体を作り、関節内の循環を守っていきます。これは生きるための運動としての
歩行を守る対応なのですが、跳んだり走ったりの関節運動においては違和感や痛
みを生じさせます。

女性の病気の卵巣嚢腫という疾患は、卵巣という袋内にもう一つ袋(=嚢腫)を生
じさせる事で、排卵時の卵巣内の内圧を高め、排卵を助ける対応をとっています。
排卵は大きなエネルギーが必要な生理活動になります。これは生殖機能が低下し
て排卵が困難になった場合の対応手段になります(詳細はHP、卵巣疾患の本質の
項を参照)。

以上挙げた3つの例は、石、軟骨、嚢腫を内部に故意に作る事で、大切な機能を守
る対応手段になります。生きている体の起こす反応には全てこのように意味がある
のです。腎臓結石も当然必要な対応で生じさせているのです。


『腎臓に結石を形成させるのは、3つの機序がある』

腎臓の働きは、血液の濾過再生器官であり、老廃物や不純物を尿として排出させ
て、血液と体液全般の質を一定に保つ作用があります。また体内の血液、体液の
配分をコントロールしています。このために、腎臓機能が低下して、上記の機能
に停滞が生じると即、命に関わる生理失調を生起します。これを回避する対応が
結石の本質になります。以下の3点が結石発生の機序になります。

①食生活の乱れから体内に有害なシュウ酸が蓄積され、体内で分解吸収されない
シュウ酸をカルシウムと結合(シュウ酸カルシウム)する事で尿と共に体外に排出
させる対応。
②体内のカルシウム濃度を一定に保つために結石カルシウムを腎臓に置く。
③カルシウム結石を作る事で、体液の酸性化を抑え弱アルカリ性に保つため。

①のシュウ酸との結合は、シュウ酸カルシウムという個体の形成になります。本来
腎臓機能が正常であれば、シュウ酸は分解吸収されて体外に尿として排出されま
す。しかし腎臓機能の低下があるとシュウ酸が体内に蓄積され、劇薬物として作用
する事になります。これを回避する対応としてカルシウムと結合させてシュウ酸カ
ルシウムを合成し、尿と共に体外に排出する手段をとっていきます。

②も正常な腎機能であればカルシウム結石を作る必要はないのですが、腎臓機能
に低下があると、シュウ酸カルシウムやリン酸カルシウムというカルシウム化合物を
生成して腎臓に置く事で、本来骨から溶出させるべきカルシウムの代役を担い、微
細な血中カルシウム濃度や体液濃度、細胞内のカルシウム濃度の調整をする事で
血液、体液の質の安定を図る対応をとっていきます。

③も腎機能が正常であればカルシウム結石を作る必要はないのですが、腎臓に機能
低下があると、カルシウム結石を作る事で、必要に応じてカルシウムを溶出させ、
血液、体液の酸アルカリ濃度を一定の弱アルカリ性に保ち、血液、体液の酸性化
を防ぎ、体内の酸アルカリ濃度を一定に保ち、血液体液の質の低下を防ぐ対応を
とっていきます。

以上が結石ができる機序になります。故にこの機序を無視して結石を溶かしたり、
外科的に除去することを繰り返してはいけないのです。結石を作らないようにする
ためには、低下した腎臓機能を根本から回復させる事が不可欠になります。
腎機能が正常に戻れば、結石を作る必要はなくなるからです。では腎機能の低下
はどうして引き起こされるのか以下その根拠と機序を解説していきます。


『腎臓機能低下は何によって引き起こされるのか』

遺伝的に腎臓機能が弱い体質の方は、結石発生が起きやすい事は事実です。
体質以外に腎臓機能が低下するのには、その根拠と機序が存在します。
外傷的な要因を除いて、腎臓の機能低下は急激に起こるものではありません。
また腎臓単体で発生するものでもありません。長期に渡り腎臓の濾過再生機能に
負担がかかる要因が存在しているのです。

腎臓の濾過再生機能に負担をかける要因とは濾過再生する血液の質の低下に問
題があります。血液の質の低下とは、具体的には体内で解毒吸収分解されない毒
素を含んだ血液と赤血球の連鎖と変形になります。この分解吸収されない毒素を
含んだ血液と赤血球の連鎖と変形した血液が常に腎臓に流入される事で、腎臓に
負担と負荷がかかるのです。

腎臓の血液の濾過再生能力は1日に約150トンと言われています。この毒素を含ん
だ非生理的血液(瘀血)と赤血球の連鎖(ドロドロでベトベトな血液)と変形した赤血
球が腎臓の機能に大きな負担をかけ、この状態の持続が腎臓機能を徐々に落とし
ていき腎臓機能低下を生じさせていきます。

上記の血液の質の低下(非生理的血液と赤血球の連鎖と変形)は何に起因してい
るかと言いますと、これは体内や血液内の毒素を分解する働き(解毒作用)を担う
肝臓にあります。また赤血球の連鎖と変形をもたらすのは胆嚢から分泌される胆汁
の分泌不足が原因になります。

肝臓の解毒作用が低下する事で、アンモニアやシュウ酸と言った体内毒素が分解
吸収、排出されず血液の質の低下をもたらしたのです。また胆汁という苦い物質
が分泌不足となると血液の熱を冷ます作用が低下し、熱変性により赤血球の連鎖
と変形が引き起こされるのです(詳細はHP胆嚢の項を参照)。このように腎臓機能
低下の要因は、肝臓胆嚢機能の低下による血液の質の低下が原因となっていた
のです。


『肝臓と胆嚢の機能低下は精神的なストレスの持続が原因となる』

人間の病気の原因を極論すれば、肉体的な要因ではなく、精神的ストレスの持続
が生理機能に影響を及ぼし病気を引き起こしていると結論付けられます。この機序
は精神的ストレスの持続は脳に熱をこもらせ、脳の中心に位置する脳幹部の機能
を狂わせます。

脳幹部は基本的な生命維持機構(体温中枢、呼吸、心拍、ホルモン系、自律神経
系、情緒の安定作用)に指令を出す中枢で、ここからの指令の停滞がその人自身
の生命力と免疫力低下をもたらし、全ての病気の始まりになっていきます。古代の日
本人はこの機序にすでに気付いていて、全ての病気に対して、冷たい手拭いを額
に当てて頭を冷却し、脳幹部の熱のこもりをとる事を治癒の起点としていたのです。

精神的なストレスの持続は、神経をすり減らし、脳を常に興奮状態に置きます。
脳を過度に使うということは、脳内の神経伝達物質や脳内ホルモンを過剰に消費
します。この脳の神経伝達物質や脳内ホルモンの原基は実は肝臓と密接に関係
があり、また肝臓に還って分解されるという行程をもっています。この行程の過度の
持続が脳だけではなく、肝臓機能の停滞と低下を招いてしまうのです。

肝臓機能の低下は、“肝胆相照らす”(かんたんあいてらす)の言葉通り、胆汁の生成
力を落とし、内包する胆嚢の機能をも低下させます。このような機序により、精神的
ストレスの持続が肝臓胆嚢機能の低下をもたらすのです。

肝臓機能の低下は、肝臓の働きの中で重要な作用となる解毒機能の低下を生起し、
体内毒素の蓄積を生む最大の要因となるのです。また体は肝臓、胆嚢の機能の
回復を図るために、肝胆に大量の血液を集め(充血)、熱(炎症)をもたせることで
機能を元に戻そうとします。

これは体にとって必要な対応なのですが、レバーと呼ばれ血の塊のような、中身の
詰まった大きな臓器に充血が起きることは、一時的に体内の血液の配分を大きく
乱す要因となるのです。そして人体最大の血液消費量である脳に血液不足(虚血)
を生起させる事になります。これにより頭痛、頭重感、めまいを引き起こし、また脳
内の少ない血液を脳全体に早く巡らせる対応から。脳圧の上昇を生み、この持続
が脳内にさらに熱を生じさせる要因となっていくのです。脳圧の上昇は眼圧の上昇を
も同時にもたらし、各種眼疾患への原因ともなるのです。

肝胆の充血炎症は、胆嚢の腫れを意味し、胆嚢という袋に腫れが生じることは、袋
の収縮を制限し、胆汁の分泌を低下させる事につながります。胆汁の苦い成分は、
漢方薬(苦寒薬)と同じ作用を担い、体内の炎症を沈め、血液の熱を冷ます作用も
同時に担っています(抗炎症作用)。この血液の熱を冷ます作用の低下が熱変性を
起こし、赤血球の連鎖と変形を作る最大要因となります。

以上が肝臓胆嚢機能低下の根拠と機序になります。精神的ストレスの持続が肝臓
と胆嚢の機能を低下させ、肝臓の解毒作用の低下による毒素の蓄積と、胆汁の分
泌不足による赤血球の連鎖と変形の両要因が腎臓機能に低下をもたらしたのです。


『どう対処すれば良いかーー日本伝承医学的対処法』

腎臓結石の根拠と機序を解説してきましたが根拠と機序が明確になればどう対処
すべきかの回答は出てきます。腎臓結石の根底には、精神的ストレスの持続によ
る肝胆機能の低下が存在していたのです。しかし精神的ストレスは、すぐに無くす
ことはできません。ではどうすれば良いかと言いますと、精神的ストレスの肉体への
影響を最小限に食い止める事が重要になってきます。

まずは精神的ストレスの持続からダメージを受けた脳内の熱のこもりを除去する事
が必要です。日本の古代人が伝えた額の冷却と同じように氷を使った頭と首の冷
却が不可欠になります。頭と首の冷却により、脳の中心の別名“命の座”と呼ばれ
る脳幹部の機能回復が図られ、基本的生命維持機構への指令がスムーズに行な
われる事で回復が始まります。

また肝臓胆嚢機能を回復に向かわせるために、氷を用いた局所冷却法で肝臓胆
嚢の炎症、充血、腫れを徐々にとっていきます。この頭と肝臓胆嚢の氷での局所
冷却法を毎日実践する事で、脳内の熱のこもりと脳圧の上昇を下げ、肝胆の機
能回復を図ることができます。

脳幹部の機能回復と肝臓胆嚢の機能回復が少しずつ進む事で、解毒機能が元に
戻り、赤血球の連鎖と変形が除去されれば、血液の濾過再生装置である腎臓への
負荷と負担が減り、腎臓機能が回復していきます。以上のような腎結石の根拠と機
序に基づいた合理的な対処法が、腎臓に石の形成を防ぐ最も有効な方法になります。

頭と肝胆の氷を用いた局所冷却法は、日本伝承医学が必修科目としているもので、
家庭療法として自宅で行なうことができます。さらに腎結石がある側に、直接氷冷却
法を行なうことで、腎臓部の腫れと炎症を抑え腎臓機能回復を早めます。また腎臓
機能低下によって生じる腰痛の回復にも有効になります。

腎臓結石に対する日本伝承医学の治療は、仰臥位にて手足の角度をとり、下腿
部の骨を用いて当該の腎臓を細かく振る「ふり操法」で腎臓の炎症と腫れを除去し
ていきます。また必要に応じて古代人の開発した左下肢引き抜き法を使って、結石
を尿として排出させる方法をとります。そして肝胆に対しては右大腿骨こう打法を用
いて肝胆の腫れと炎症充血を除去します。当然その前提として骨髄機能を発現さ
せて低下した生命力と免疫力を高める事と合わせて総合的に対処します。


『一般的な結石予防も合わせて行なう事が重要』

腎臓結石に限らず、病気を回復に向かわせたり、予防のためには自身の生活習慣
の改善、見直しは必然になります。食生活、睡眠、運動、気分転換の方法等を改
善する事は当たり前であり、自身の自助努力無くして腎結石は防げません。

腎臓結石の原因は、現代医学的には食生活の洋風化による肉類など動物性たん
ぱく質の摂取量の増加が指摘されています。肉類や乳製品などを多く食べると結石
の元となるシュウ酸や尿酸などの物質が体内に増える要因になります。

その中のシュウ酸はカルシウムと結合しやすい性質があり、シュウ酸カルシウムと
して“石”を作りやすいのです。故に腎臓結石の予防には食生活の見直しは必然と
なります。肉類や乳製品に偏った食生活を改善し、緑黄色野菜や海藻類を多く摂り、
和食を中心とした食生活に変えていく必要があります。

またカルシウムに代表される必須ミネラルのバランスを心がけ、特に現代日本人
のカルシウム不足は深刻であり、カルシウム摂取に気をつける事が重要です。
カルシウムは牛乳などの乳製品に多く含まれますが、乳糖分解酵素を多くもたな
い日本人は牛乳や乳製品の大量摂取は、脂肪を分解吸収する胆嚢の機能低下の
要因となるため控えるようにし、小魚、海藻類、大豆、豆腐、納豆、ピーマン、人参、
カボチャ等を積極的に摂るようにします。

またミネラル類(カルシウム等)の摂取をサプリメントや飲み物に求めますと、これは
返って結石の生成を促進するため逆効果となります。
食生活の改善の次に重要になるのが水分の摂取になります。腎結石の人は特
に1日2リットル以上の水分摂取が不可欠です。水分摂取量の不足が腎臓結石の
原因の一つであり、水分不足になると腎機能が円滑に働かず、尿の濃度も高まり
結石を作りやすくします。さらに1日2リットル以上の水分摂取で小さな結石は尿と一
緒に体外に排出されやすくなります。

水分摂取は重要なのですが、これはあくまで常温の”真水“が基本です。水分には
違いないのですがコーヒー、紅茶、ジュース類にはシュウ酸が多く含まれるだけで
はなく、大量摂取は逆に腎機能を落とす事になるのです。
1日2リットル以上の水分を摂取するためには、常温のペットボトルの水を常に目に
見える位置に置いて、度々補給すること様にすると良いです。

次に重要なのが運動になります。生活習慣の改善、食事の改善や水分の補給と
合わせて、軽めの運動が効果的です。軽めの運動をすると、結石が砕けて自然に
排出しやすくなります。特にジャンプ、縄跳び、ウオーキング、軽めのジョギングなど
体を適度に上下にリズミカルに動かす運動が効果的です。駅や会社でも、できるだ
け階段(特に下り)を利用するなど、上下運動を意識的に行なうことも大切です。
この様な統合的なとり組みが腎結石からの解放につながるのです。