骨の秘密 2017.8.7. 有本政治
古代日本人の生命観・人体観の中で、「骨」はその中心的役割を担って
私なりに人体の「骨」に対して視点を変えてみる作業を続けてい
を明らかにするのは至難のことです。従来の骨に対する一方的見解の中からは骨
の新たな面は何も見えてきません。視点を変えるということが必要なのです。
例えれば、一枚の紙を見る場合、正面から見ればそれは一枚の“平面”です。し
かし、視点を変えて上からまたは下から見ると、それは一本の“線”に見えます。見
方によって“面”と“線”とでは、まったく別の存
横につなげてできるものです。現在の
か見えていないのです。
視点を変えれ
古代日本人は「骨」に何を見出し、どう解析していったのでしょう。古
た様々な関節の秘密が、日本には鉢巻き・腹帯・手甲・脚絆
います。まことに興味のつきない題材です。しかし
された秘密があるように思えてなりません。その秘密が明らかにされることにより、
この日本伝承医学もさらなる発展があるはずです。
しかし残念なことに、このような視点で骨を捉えた資料はどこにも見
それではどのようにしてそれを探っていけばよいのでしょうか。それは縄文古代人
の残してくれた、遺物、土器、埴輪、古代壁画
人体観を読みとる作業をしなければなり
開いた、日本文化の芸能、絵画、
故野口三千三先生が実践された、
いった教えを思い出し、生かさなければならないでしょう。文献として存在しなくとも、
芸術家の
うか。このような研究姿勢で今後とり組んでいきたいと考えています。
それでは、まず発生学という分野から「骨」の秘密を探ってみましょう。エコロジー
運動の創始者ヘッケル博士は、「個体発生は系統発生を繰り返す」
説を唱えています。例えば、人間の胎児は、地球生命誕生の
発生を「十月十日(とつきとうか)」に凝縮して誕生しま
は、脊椎動物のどの胎児も共通の形態をしてい
魚類、両生類、爬虫類、哺乳類もすべて
の形態の象徴が「マガタマ」の
象徴した「形」とい
どもえ)の紋章は、重大な意味を私たちに教えてくれているのです。私はこれを三
極構造とよび、日本人の思想の原形は、中国思想の“対極”ではなく、三極のバラ
ンスと考えています。物事は白・黒だけではなく、灰色も存在するのです。また灰色
の中にこそ、全体像と本質の両方が見出せるのです。つまり白黒つけられるのです。
脊椎動物である人類は、高等な脊椎動物で複雑な形態と構造・機能を有
ますが、一番単純な脊椎動物である「ナメクジウオ」の一本の棒状
機能的には変わっていません。様々な役割を分担させるか、
させているかの違いだけです。分化させれば、それだ
なりますが、逆にいえば、故障も起こりやすい
械・器具を見れば、それはよくわかり
生命体は複雑に分化されても、「元」とのつながりが切れて独立に生
ではありません。つまり、「元」とは原形としてのこれだけは
機能です。生物には、このような生命体としての
れを探るには、発生学は欠かせない学
ぼ)れば、そのものの「本体」
と形成過程をたど
すべての脊椎動物の発生の初期段階は、胎児の項で説明してあるように、
の発生過程をもっています。「卵」ができて
過程を踏んでいくのです。ここでは簡単に発生学を解説してみます。
発生した「卵」は丸い球状
す。これはすでに
葉」とい
呼びます。これが生物の「原形」となる三大構成要素なのです。
卵発生か
埋没
現するのです。これが内胚葉です。この内胚葉が後の内管系、口から肛門までの
「管」となるのです。そして、外膜と内膜との中間、つまり内部に17
胚葉”ができてきます。これが前述した「原形」としての
21日目あたりから、この中胚葉から「骨」の原
葉を支持し、その「中心」としてそ
のです。
分化
骨の原形で
的役割
た外胚葉が作り出す神経管が後に脊椎骨に包まれ骨の中を脊椎神経として
存続する訳ですから、この骨の原形としての脊索は三胚葉と密接に
のです。
生物発生の原形としての内・中・外の三胚葉は後に
きます。外胚葉は表皮と神経組織全般に変わ
循環系・泌尿器系として発展し、内
展していきます。
このように発生学的に見た骨の存在は、脊椎動物の発生の原形の段階で、全
ての組織・器官とつながっていることが確認できるのです。骨は単に独
人体の支持組織としての存在ではなかったのです。それ以上に
においては三胚葉の中心的役割を担っているのです。
複雑な事象を解明する手がかりは、その「もの・こと」の原形に遡るこ
本質とのつながりが見えてきます。これがいわゆる「原点に還れ」という格言の意
味としてもうなずけるところです。古代日本人の骨へ
予想をはるかに超えているように思われます。
人体の骨とは、まさに「中心」を表わし、それは他のあらゆる組織・器官と密接に
つながっているのです。骨の秘密を探る作業の中から、次第に骨
せる日本伝承医学の全容が明確になってくるのです。