「骨」に情報を刻む  2017.9.18.  有本政治

 これは今から約30年前に書いたものになります

 私の生命観・人体観の全面的認識の方法は、人体を構造・機能・形態から
分類し、生命の仕組みとしてのエネルギー・情報・物質の三態からの考察で
あり、また人体の構成は気体・液体・固体の統一体ということになります。
そして、これらは全て時間と空間の条件変化の中で、「相互変換」するもの
という仮説に基づいています。

人体構成面から人体をながめると、その液体要素である「水」がウェットウェ
アの実体であり、カルシウムを始めとしたミネラル類がハードウェアとしての肉
体・骨格を構成し、気体である「気」(電気・磁気等)がそれらと相互反応して
ソフトウェアを機能させるシステムが生命体です。またそのシステムが宇宙を
起源としており、地球はその三つの要素を内包して存在しています。

例えば地殻には気体・液体・固体が含まれています。そのことは火山の溶
岩が証明しています。火山ガスや水蒸気という気体が渦巻いているし、溶岩
は火炎をあげながら流れた後で冷えると固まって固体としての「岩」になりま
す。また逆に、岩が溶岩になり火山ガスへと逆のパターンをもとります。つま
り相互変換している姿なのです。このように生命体は、時間・空間の変化の
中で内部の秩序を変化対応させながら、生命を営んでいるわけです。一時た
りとも同じ状態でないのが「生きている状態」の正確な把握であります。

 日本の古典文学表現の中にみられる「川の流れは絶えずして、しかも元の
水にあらず」という方丈記の冒頭の書き出しが、東洋の世界観を見事に浮き
彫りにしています。“生々流転”するのがこの世の全ての事象でありましょう。
「モノは永久に変わらない」、「眼に見えるものしか信じない」という前提に立
つ現代科学は、羅針盤を失って大海原をさまようハイテク船のような存在では
ないでしょうか。これでは生々流転する生命体を正しく捉えることは、部分的
にしかできないことになります。「見えないからだのシステムの気付き」の中
で触れてあるように全ては変わるという前提のもとに、目に見えない身体の
システムに着目していくことが生命解読のキーポイントになると考えています。

 そしてこの項のテーマである「骨に情報を刻む」という仮説は「見えない身体」
のシステムと対極を為します。「見える身体」の代表格、「骨」を物質としての
「骨」だけではなく、エネルギー・情報としての「骨」の存在として捉え、多面的
に考察してみたいと思います。

 前項では、すでに「骨に神(カミ)を見た日本人」と題して、古代日本人の身体
観を説明しています。目に見える存在の代表格である「骨」は、肉体は滅びて
も条件さえ良ければ何億年と残っています。何億年も前の動物の骨が化石
となって発見されることで、これは実証されています。何億年も物質として残
る存在である「骨」は、生命体にとって重要な役割を担っていると考えられま
す。日本人の考えた「骨に霊()が宿る」という着想は、物質としての「見える
身体」の代表である「骨」に、エネルギーや情報という要素を見出していたと
思われます。

 約30億年の地球上の生命進化の歴史をひもとくと、まず生命体は「海」から
生まれ次第に魚類へと枝分かれし、約四億年という時間をかけて海から陸へ
と上陸し、人類の祖先である脊椎動物へと枝分かれしていきました。海は万
物の母である証拠として、生き物の身体を形作っている元素(生元素)の組成
と体液の組成は、海水の化学組成と大変良く似ているのです。海という水の
中に全ての元素が水溶液として溶け込まれ、それを化合する「ゆすり」の場
としての海のうねりが存在したのです。まさに母の手の「ゆりかご」の中ですく
すくと育っていく「赤子」のように、生物は“海”で進化していったのです。まさ
に海は万物の“産み”の場でありました。古代人が日本語の海を“産み”とよ
んだ理由がここにみられるのです。

これらを裏付けるように、脊椎動物の支持組織である「骨」は大部分がカル
シウムとリンから成っています。原初生命体が海水に発生した時、その中に
多く含まれる元素、カルシウムとリンを利用したとしても不思議ではありませ
ん。故に「骨」は身体の支持組織としての働きに加えて、母なる海に代わって
カルシウムとリンを主成分とした海水のミネラル分を貯蔵し、必要に応じて人
体の組織にカルシウムとリンと他のミネラルを供給する役割を担ったのだと
思われます。

 脊椎動物における骨の形成は、単に陸上の重力(1G)に対抗できる支持組
織としての骨格だけではなく、必須ミネラルの貯蔵庫としても働いているので
す。また私たちの身体の中の血液をはじめとする、全ての組織液・体液の組
成は母なる海の海水の組成とほぼ同等です。私たちの身体は太古の海の
海水を身体の中のエネルギー源として袋の中に封じ込め、堅固な金庫のよう
な存在の骨の中にも「貯蔵」し、外界からは大気のエネルギーを媒介に生き
ているのです。

 冒頭で述べた人体の構成条件となる「ウェットウェア、ハードウェア、ソフトウ
ェア」の三態の作用がこれに相当します。しかし、生命体は“生々流転”し変
化するのがその宿命であり、新たなエネルギーと情報を補充し、変換生成し
なければなりません。骨は一度形成されれば、ビルの中の鉄筋がコンクリー
トの衣に包まれていつまでも変化しないように、筋肉に包まれた骨も成長を
終えた後、完成した形をずっと保っているわけではありません。確かに骨は、
身体の中の大黒柱として有為天変とは無関係に、孤高を守っているかのよう
に思われています。しかし、これでは生命の原則に反してしまいます。実は、
この堅固な骨格を形成している骨の大部分は、三年と経たぬうちに全く新し
い骨と置き換えられるのです。岩を思わせる堅固さと、安定性を暗示する外
観をもちながら、実は骨自体、生々流転を繰り返しているのです。元の形状
をずっと継承しつつ、新旧の交代を活発に続けているのです。

当然血液をはじめとした体液も同様です。しかし、ここで考えなければなら
ないことは形状記憶合金ならいざ知らず、全く同じ組成で、全く同じ形状で骨
は形成されるということです。30億年も前の太古の海水の組成がそのままに、
常に一定の形・成分組成で新しく作り出されるということは、その太古の情報
を記憶するシステムがなければ当然不可能なのです。この問題は分子生物
学の大いなる成果によって明らかにされました。それは細胞の中の核にある
DNAの発見です。確かにDNAの発見は偉大な成果ではありますが、その働
きは三つのことしかしていません。一番目は自分と同じ物をつくるという作用、
二番目はたんぱく質を合成するという作用、三番目は同じ物をつくるが変化
にも対応するという作用です。

これで生命のもつ謎が全て解けた様に思われていますが、DNAの働きの
たった1%が解けたという状態なのです。DNAの中の遺伝子情報によって、
生物のもつ構造・機能・形態が同じ様に作られることがわかってきましたが、
ただそれだけです。未知の問題はまだまだ山積み状態なのです。例えば、
人体を構成する基本的単位は細胞です。目の細胞は上述したようにDNA
情報によって、新しく目の細胞を同じように作っています。足の爪もまた同様
です。これらを転換させて、目の細胞を足の爪にもっていったとすると、そこか
ら目ができあがるかというと、そうではありません。やはり足の爪ができるの
です。足の爪の細胞を目に移しても爪ができるかというと違うのです。やはり、
目ができてくるのです。このことは何を意味しているかというと、全ての細胞
の位置と活動は「場」の力が支配しているのです。この「場」の理論というのは、
従来の生物学が生物というものは機械のようにバラバラの部品が寄せ集ま
ってできた物であるという機械的生物観を否定し、生物には全体の秩序とい
うものがあって、それが部分部分の働きをコントロールするという、有機的関
連の中で生きているというものです。例えば、地球を生命体として捉えマクロ
な視野でその姿を見れば、地球は大きな磁場であり南北を貫く大きな棒磁石
として考えれば、N極とS極が存在し、その周囲を磁力線というある方向性を
もった磁場が形成されています。それによって「コンパス磁石」の針は、常に
南北を指しているのです。これは不変の軸であり「場」であるのです。

 もう一つ、これに相当するものが「重力場」です。“起き上がりこぼし”を逆転
させても、何度でも同じ様に重力線に沿って立ち上がります。まさに地球生
物の全ては、この二つの「場」によって構造・機能・形態が決定付けられ、生
命の仕組みとしてのエネルギー・情報・物質もその大前提に沿って生命体を
維持しているのです。現代科学の物質的追求の中から、物質としてのDNA
発見があり、生命記憶としての遺伝子情報をそのDNAという物質の中に、二
重螺旋構造にして格納している姿を発見したことは大いなる成果であります。

しかし、生命体は物質としてだけ、保存・貯蔵しているわけではありません。
磁場や重力場は目には見えませんが、敢然とエネルギーと情報として作用し
続けています。それを裏付けるように地球自体には、ソフトウェア、ハードウ
ェア、ウェットウェア、の三態を内包しています。地球内部には「マグマ」として
DNAの作用と同様に、エネルギー・情報を保存・貯蔵しています。このシステ
ムはそのまま生命体である人体にも当然あてはまるはずです。

目に見える物質であるDNAの中にだけ、エネルギーや情報を保存している
のではなくて人体をとり巻く大きな「場」の中に、磁場や重力場のような目に
見えない形で全体を統制するエネルギーや情報をもっていなければ、生命体
としては生存不可能なのです。故に物質としてのDNAを内包したうつろいや
すい肉体が消失しても、見えないシステムとしてエネルギ−・情報を骨の中に
記憶させたのです。これが生命体のもつ「種保存」のシステムなのです。古今
東西言われ続けてきた肉体は滅んでも霊魂は不滅であるとする、古代人の
生命観がDNAの発見によって証明されようとしています。「見えないからだの
気付き」の中に述べてある、見えない身体のシステムが実在するかしないか
という低い次元での問題ではなく、これがないと地球という生命体は生存でき
ないのです。階層的構造としてのマクロ的な存在の地球のことは、かなりの
部分まで明らかになってきました。地球の外をとり巻く外気の作用、地球上の
海、水、森林の問題、地球内部の構造と機能等は、どれもミクロの存在の人
体に置き換えられるものです。ただ、地球を生きている生命体として捉えるか
どうかにかかっています。

 私の著書の中の「物質の粒子性と波動性」の中で例に挙げているヨーロッ
パを中心に行なわれている伝統医療法の「ホメオパシー」の薬理効果も、目
に見える物質の粒子性に求めればそんな馬鹿なことはないと一笑に付され
る問題です。しかし、見えない存在としての物質の“波動性”に着目すれば、
納得のいく形で理解できるものです。このような考え方に基づいて人体を形
成する「骨」に着目してみますと、物質としての存在だけでなく、エネルギーや
情報としての面を内包しています。縦長な構造物である人体を支える支柱構
造としての骨は、まさに人体の中心を貫く存在であり、地球の回転軸に相当
しています。

これを棒磁石に例えるなら人体の外部に磁場と磁力線が存在することに
なります。これはエネルギーと情報を表わしています。これも「見えない統制
システム」を解読する鍵になるものです。そしてさらに重力場は人体を鉛直に
貫き、重さのエネルギーとして、常に鉛直方向に向かうエネルギーと情報を
もっています。そして、それは作用・反作用という内在する二つのエネルギー
と情報に相当します。磁場と重力場という二つの場を形成させるのはその方
向性にあり、また中心軸としての働きも有しています。これを人体にあてはめ
てみると、棒状の骨格がそれを担うにふさわしい存在です。そしてさらに骨格
の働きは、大気中の様々な見えない情報(電波)をキャッチする受信アンテナ
の役目も担っているのではないかと考えています。

古代日本人が骨に神()を見出し、骨に見えない身体のシステムを感じと
り、物質的存在としてではなく「エネルギーと情報」としての作用を直観によ
って感じとっていたのでしょう。故に骨に神が宿り、霊が宿ると読みとったの
です。そして肉体は滅びても骨に永遠の命のシステムをみていたのです。
「情報」としての役割を見出していたのです。

地球生命が海から誕生し海水を体液に、ミネラル分を固体としての骨に蓄
え、これをエネルギー源として身体の緊急時にこれを溶出しています。そして
「水と骨」に生命記憶を情報として記憶させたのです。至極単純に考えれば
大切なエネルギーや情報は、堅固な骨の中にしまうというのは当然なことで
す。ましてや肉体は滅びても、骨は条件さえ整えば何億年も残るのですから、
大切な物は最後まで残るものの中にしまうのは当然です。耐火金庫を考え
ればうなずけることです。つまり骨に生命情報を封じ込めたのです。

 昨今は波動水なるものが登場していますが、水に情報を記憶させることが
できるならば骨の中の水系成分に満たされた「髄」に、情報を記憶させるの
は、同じと考えて良いでしょう。漢方医学は腎が五臓六腑の本であり、先天の
元気と後天の元気が宿ると説いています。腎は身体の水の総元締めであり、
骨と髄は腎の司る所という説明は、先天の元気が遺伝子情報であり後天の
元気はエネルギーとなります。それを「水」に記憶させ、情報とエネルギーを
他の組織器官に伝えているのです。そして、骨と髄にも同様の作用を付加さ
せたのです。故に緊急時においては骨の中から必須ミネラル分を供給し、骨
髄の中の造血幹細胞から血液を作り出させ組織に供給しているのです。
特に骨髄の中の幹細胞は特殊な細胞で、他の細胞は死滅しても幹細胞は
生き続けます。幹細胞がもつ情報の元さえあれば、いつでも新しい物を同じ
ように作り出せるということです。全細胞の中のDNAの総元締めといった存
在ではないでしょうか。それが骨の内部に存在しているのです。

 この事実と照らし合わせてみても、骨に情報が記憶されていると考えても何
の不思議もありません。骨は情報の“貯蔵庫”として位置付けられるのです。
全ての生命体は内外の周囲環境の変化の中で、常に良い「秩序」を作り出
そうと働いていくのが生きている状態の不変の定理です。その為には先天的
な遺伝子情報を基盤に、より良い新たな情報を産出しようと働きます。そのた
めには、生命の情報の貯蔵庫である骨に新たな“情報”を刻むことが必要に
なります。

日本伝承医学の考える生命観・人体観は、古代日本人の残した重大なメ
ッセージを解読することにより、これまでの「骨」の概念を打破する新しい見解
を見出しています。それは「骨」というものに対して骨の特性である「圧電作
用」と「骨伝導」を利用して電気・磁気的エネルギーを新たに発生させること
で、新たな生命情報を産出させ、骨に情報を記憶されるのです。これが「骨に
情報を刻む」という世界に例をみない日本伝承医学の独自の概念となります。