「骨」は生命活動の中心 2018.9.5. 有本政治

 *これは今から約30年前の文章に加筆したものになります 

 私のこれまでの「骨を捉えなおす」ための考察は、多岐にわたって展開して
きました。「骨に神を見た日本人」「骨に情報を刻む」「骨を捉えなおすⅠ~Ⅵ」
「骨盤・仙骨を捉えなおす」「骨の秘密」「骨に貞く」「人体液晶説」等、30編に
及んでいます。骨のもつ多様な働きを大胆な仮説に基づいて探ってきました。
仮説とは申しましても近い将来、科学者の手によって骨のもつ多面的な機能
は解明されるであろうという確信はもっております。古代日本人が発見・開発
し、メッセージ(伝言)として残した「骨」の秘密のベールがはがされる時が来た
のです。

それは、東京医科歯科大学の西原克成教授によって実験検証されました。
西原氏の著された『生物は重力が進化させた』という本の中で、私が待ちに
待った「骨」の多面的機能とその本質が解明されたのであります。そして奇遇
というか西原氏は、私の師でありました故野口三千三先生と東京芸術大学で
同じく体育科において、教鞭をとられていた故三木成夫先生の門下生であっ
たのです。私にとって、三木成夫先生の著された『生命形態学序説』『海・呼
吸・古代形象』『胎児の世界』等の書は生命・人体研究の大きな福音でした。
故野口先生と故三木両先生から授かった人体・生命の全面的認識法とその
着想と発想は日本伝承医学の解明に大きく役立ちました。今回紹介させて頂
く「生物は重力が進化させた」という説は、三木成夫先生を尊敬される西原克
成氏が世に問うた革新的進化論です。それでは氏の説の中より要約して引
用させて頂きます。

 

【サメはのたうち回って「重力」に対応した】

 脊椎動物の上陸に伴って起こった進化は、完全の重力に対応して起こって
いる。そのことをくわしく説明しよう。

 ここで、上陸に伴う環境の変化をもう一度整理しておこう。大きな変化は二
つである。一つは水中の6分の1Gから地上の1Gへと重力の見かけ上の作用
が六倍になったこと、つまり体重が自分自身の体に六倍に作用したこと、もう
一つは、水がなくなり、空気というまったく異質な物にとり囲まれたことである。
水中の生物は血圧が低い。浮力に相殺された6分の1Gの環境では、尾とひ
れとエラを動かせば、それだけで心臓脈管系を血液・リンパ液がめぐるのであ
る。したがって、心臓のポンプ作用は水中では強大である必要がない。

 ところが、いきなり1Gという6倍の重力環境におかれたらどうなるだろう。
まず、自分の体重が重くのしかかってくる。下手をすると、自重でつぶれて死
んでしまう。また、重力が6倍にもなれば、尾とひれをいくら動かしても、血液
は体中をめぐらない。自重でつぶれるという危険と、血液が体中をめぐらない
という危険をクリアするためには、血圧を上げなければならない。血圧を上げ
さえすれば、自分の体重をささえ、なおかつ体中に血液を運ぶことができる。
では、血圧を上げるにはどうすればよいか。のたうち回ればよいのである。

いや、サメは呼吸ができないから、窒息しそうになると苦しくて自動的にのた
うち回らざるを得なかったのである。エラは空気中で呼吸するようにはできて
いないからである。結局、サメは、陸上に残され、苦し紛れにのたうち回ること
によって血圧が上がり、結果的に自重をささえることができたし、血液を体中
にいきわたらせることもできた。息ができないという問題点も、血圧が上がった
ためにエラで空気呼吸ができるようになって解決するのである。ところで、軟
骨が硬骨になり、造血機能が脾臓から骨髄へ移るのはどうしてであろうか。
これも重力の作用が翻訳された血圧の上昇によるものなのである。血圧が
上がると、軟骨は硬骨になってしまうのである。また、脾臓から骨髄に造血機
能が移るのも、血圧の上昇によるものなのである。

 あまりにもできすぎたシナリオだと疑う方もおられよう。こんなことを考えた
研究者は世界でも初めてだと思うので、無理もない。しかし、このシナリオは
すべて検証可能である。筆者は一連の実験を行ない、これが重力の作用に
よって引き起こされることを検証し確認した。以下、この「実験進化学」での検
証結果を紹介する。

 

【サメはすぐに空気呼吸できるようになる】

 重力対応進化の検証のために、筆者は数年前から実際のサメを使って実
験を行なっている。その手術の際のサメの様子を観察するだけでも、デボン
紀に起きた劇的な変化を想像することは容易である。麻酔薬の入った海水に
サメを入れると、大暴れをして陸に向かって逃げようとする。水温が上がった
り、塩分が濃くなったりして苦境におちいると、サメは陸に向かって逃げるらし
い。

なんとか押さえこんで麻酔海水につけておくと暴れながらも麻酔がかかる。

 手術をすると、海水中、つまり陸上の6分の1の重力環境に生きているサメ
がほとんど血圧を必要としないことがわかる。筋肉を切っても出血しないので
ある。それでものたうち回っているうちに血圧がかなり上がっている。日を変
えて、何回も手術していると、そのつど血圧の高まりを記憶するらしく、なんと
エラで空気呼吸ができるようになるのである。初めて手術をしたときは20分も
海水につけなかったら息も絶え絶えで死にそうだったサメが、5回目の手術の
日にもなると、1時間陸上にほうっておかれても平気になる。立派に空気呼
吸して陸で麻酔がさめる。この観察だけでも、血圧を上げればエラで空気呼
吸が可能なことはおわかりいただけると思う。

 

【血圧が高まると軟骨が硬骨になる】

 まず、血流が多いと軟骨が硬骨になってしまうことを検証しよう。じつは、この
現象は比較的よく知られたことなのである。血流の激しい動物の肝臓に軟骨
を埋め込んでおくと、いつの間にか硬骨になってしまうことはすでに実験で検
証されている。しかし、そのことを進化の学問に応用することをだれも考えつ
かなかったのである。

 ここで血圧の高まりというものをもう一段別のものに翻訳する必要がある。
実際に生きているサメの体の中にある軟骨を硬骨にするわけであるが、水中
でサメの体を常に血圧の高い状態に維持するのは難しいからである。では、
どうすればよいか。血圧が上がると、身体の中を流れる血液と血管壁を初め
とする

周囲臓器との間に生ずる流動電位が高まる。つまり、生体内では、血圧は流
動電位、すなわち電流に翻訳されているのである。

 そこで筆者は、金属チタンを使ってつねに電流の流れる電極をつくり、サメ
の背筋部に埋め込んでみた。4ヶ月後に、標本を作製したところ、みごとに軟
骨は硬骨に変わっていた。しかも、骨髄の周囲の椎軟骨の上端に骨髄造血
巣ができており、この造血巣の位置と形はヒヨコのものと区別できないほど酷
似していた。

 

【骨髄造血巣ができる】

 骨髄造血巣ができたのは、電流の刺激のみによるものか、あるいは電流以
外の要因によってもできるものなのかを確認しなければならない。筆者は硬骨
の主成分であるアパタイト(骨の主成分となるリン酸カルシウム)が、骨髄造血
巣を誘導するものと考えているのである。

 そこで、ところどころの孔のあいたアパタイトの焼結体(アパタイトチャンバー)
をサメの背筋に埋め込んでみた。今度はとくに電流を流したりはしていない。
手術後4カ月たって、同じように標本を作製したところ、アパタイトチャンバー
の付近に骨髄造血巣がちゃんとできていた。同時に造骨細胞もできており、
軟骨が硬骨化しつつあった。

 じつは、筆者は一連の実験に先だって、哺乳類のイヌやサルで同様の実験
をおこなっている。順番からいうと、哺乳類で成功した実験をサメに応用した
といったほうがよいかもしれない。筆者のおこなった進化に関するすべての
実験は、進化の法則を明らかにするとともに、医学的にも大きな意味をもって
いる。進化に対する考え方が変われば、病気に対する対処法も大きく変わら
なければならないのである。このへんを純粋な進化のサイエンスといっしょに
説明すると混乱するので、第五章でまとめて述べる。

 実験に使ったイヌは体重45キログラムのシェパード、サルは体重12キログ
ラムのニホンザルである。注意していただきたいのは、イヌやサルといった哺
乳類はすでに骨髄造血巣をもっていることである。この実験の目的は、身体
の中の骨のまったくないところに骨髄造血巣を誘導することである。この点で
サメの実験とは若干目的が違う。

 従来、人工のアパタイト骨では、異所性つまり骨のないところでは絶対に造
血や造骨は起こらないとされていた。しかし、筆者の開発した人工アパタイト
バイオチャンバーによって、世界で最初に人工的に筋肉内で造血と造骨に成
功した。これを発表した3年前、第32回日本人工臓器学会でオリジナル賞
1位をいただいた。

 この実験にはミソがある。まず、アパタイトチャンバーを皮膚のすぐ下に入れ
たのでは、造血巣も造骨巣もできない。また、アパタイトチャンバーを筋肉に
入れても、イヌやサルを動かさなければ、同じように造血巣・造骨巣はできな
い。アパタイトチャンバーを筋肉に入れて、イヌやサルを定期的に動かしたと
きにだけ、造血巣・造骨巣ができるのである。これがなぜなのか、ここまで読
み進められた読者には明白かもしれない。そう、血液に流れとは別に体液が
なければダメなのである。この体液の流れが電流に変換される。皮膚の直下
では、たとえ動いたところで、液性の流動はきわめてわずかしか起こらない。
また、筋肉に入れても、動きがなければ同じである。筋肉に入れて動かせば
、絶えず液性の流動が起こり、流動電位が流れ、局所の細胞の遺伝子の発
現をまねくのである。

 筆者はこれを検証する目的で、チタン電極による造血巣の誘導実験をサメ
に先んじて哺乳類でおこなって成功をおさめた(チタン電極では造骨巣はでき
ない)。また、アパタイトの流動電位を生理食塩水流下で測定して、確かに流
動電流が流れることも確認した。これらの成果をふまえて、一連の実験をサメ
に対しておこなったのである。

 

【軟骨が硬骨に変わり、骨髄ができるメカニズム】

 先のサメに対する二つの実験から、結果的には重力に対応することになっ
たサメの行動が、血圧を経て、最終的には電流に翻訳されて、軟骨を硬骨化
させると同時に骨髄造血巣を誘導することを検証できた。しかし、現象的には
たしかに検証できたが、そのメカニズムはどうなっているのだろう。

 まず、血圧が上がると、身体の中を流れる血液と血管壁をはじめとする周囲
臓器との間に生ずる流動電流が高まることはすでに述べた。この流動電流が
一定値以上になると、アパタイトの存在下で軟骨を形成していた間葉細胞の
遺伝子の引き金が引かれ、造血細胞及び造骨細胞に分化する部分の遺伝
子が発現する。このようにして内骨格の軟骨が硬骨化して骨髄腔が形成され
る。骨は液性の流動にしたがって形成されるから、液性流動の少ないよどみ
の部分には骨ができない。ここが骨髄腔となる。

 生体は液体でできているから、体に加えられた生体力学刺激は、すべて液
性の流動に翻訳され、これがさらに流動電流に変換されると、この電流と酸
素、糖類、リン酸、カルシウムなど栄養との複合で、各臓器を構成する細胞の
遺伝子の発現が起こり、それで各種の機能が発現したり維持されたりするの
である。

 骨では、造血と造骨が共役してリモデリング(つくり換え)が起こり、形も力学
対応して変わる(次節で詳述)。陸上劇では、こうして形成された骨髄腔に脾
臓で行なわれていた造血機能が移動する。これは、骨髄腔の方が白血球・
赤血球・リンパ球の複製に必須の核酸の代謝が脾臓より容易に行なわれる
ためである。骨髄腔を囲む骨は水酸化アパタイトつまりリン灰石でできている
ため、
DNARNAの複製に必須のリン酸とカルシウムイオンが多量に存在
するからである。

 

【アパタイトは生命現象の鍵をにぎる物質だった】

 第一章で、風変わりなアンコウのオスとメスについて紹介した。オスがメスに
噛みついた後、だんだん単純な形となってメスの栄養でゆうゆうと生きるよう
になる。この体の変化が、じつはアパタイトをきっかけとして起こっているので
ある。

 先に、イヌの筋肉内に人工骨髄アパタイトバイオチャンバーを移植して造血
巣・造骨巣を誘導する実験を紹介した。この実験では1カ月、2カ月、3カ月、
4カ月、12カ月経過時に標本を作製するため、手術して筋肉ごととり出す。
このとき、すでに1カ月後からアパタイトの周囲には太い動静脈が誘導され、
腫瘍の摘出より難しく、大量の出血が見られる。アパタイトは血管を誘導する
ことができる物質なのである。

 アンコウのオスが大きな歯でメスに噛みついてぶら下がると、歯がメスの筋
肉組織に突き刺さり、アパタイトが溶けてそのまわりに胎盤にあるような太い
血管を誘導するのである。このため、メスからオスに血管がのびて栄養を供
給できるのである。

 アパタイトの主成分が何であるか、もう一度考えてみよう。骨の主成分であ
るリン酸とカルシウムである。リン酸はDNAの構成成分でもあるし、エネルギー
代謝のもとであるATP(アデノシン三リン酸)にもなくてはならない。また、カル
シウムは各細胞の機能調節物質として最も重要である。つまり、骨こそ、生命
活動の中心たる物質が集積している器官なのである。すなわち遺伝子の複
製、遺伝子の機能発現、細胞呼吸とエネルギー代謝などさまざまな生理作用
のかなめとなる物質の生きた貯蔵庫なのである。

 このアパタイトの物性ゆえに、造血巣が脾臓から骨髄腔に移ったのである。

脾臓では血液に乗ってくるのを待たねばならないが、骨髄腔では壁自体が栄
養の宝庫となっている。

 骨格系とは、単なる体のささえではなかったのである。体の中で実際に活動
している部分はおもに内臓であるから、われわれはどうしてもそちらに目が
いってしまうが、臓器としては内臓と同じくらいに重要なのが骨なのである。

以上が西原氏の解明された「骨」のもつ機能の重大な発見・検証です。

 古代日本人は、おそらくこの事実をすでに知り得ていたとしか思えません。
生命活動の中心的役割を担う「骨」に対して、骨の圧電効果を利用して電気
を発生させ、骨伝導を介して全骨格に電気・磁気を流すことで、生命の仕組み
(物質・エネルギー・情報)にアプローチし、病人や瀕死の人までも蘇生させる
術を開発していたのです。日本伝承医学とは、まさに骨に気(電気・磁気・意
識等)を通す技術であったのです。