骨は気の発生装置か  2017.10.20. 有本政治

  *これは今から約30年前に書いたものになります

 日本伝承医学の技術は、人体中の構成要素である気体・液体・固体と生命
の仕組みとなる「物質・エネルギー・情報」を「気・血・骨」の概念に統一した世
界に例を見ないものになります。それは、人体の骨を結晶体として捉え、鉱物
のもつ性質を有するものとして多面的で、高次元な機能を見出しているから
です。

現在様々な産業分野で使用されている「セラミックス」という素材があります。
このセラミックスのもつ特性は、そのまま人体の骨にもあてはまるのではない
かと考えています。セラミックスとは、簡単にいえば“焼き物”です。これはおな
じみの陶器や磁器と同じで、天然鉱物の粉や粘土を素材として焼き固めたも
のです。これが現代において、さらに精製された材料と新しい技術によって生
まれたのがニュー・セラミックスと呼ばれる一群の焼き物になります。

 ニュー・セラミックスは、その材料の組み合わせによって多様な性質をもつ物
が作られるようになりました。そのうちの電気磁気的な特性をもつグループは
、“電子セラミックス”と呼ばれ、エレクトロニクスの世界で不可欠な物質として
常に広い分野で活躍しています。そして、このニュー・セラミックスは、これまで
の金属物質に代わる無限の可能性を秘めた物質として注目を集めています。
この中で特に電気磁気的な性質を有する“電子セラミックス”が、人体の骨の
秘密を解き明かす重大なヒントを与えてくれたのです。ニュー・セラミックスとは、
まさに「不思議な石ころ」といえます。

 古代より、鉱物としての「石」を病気治療に用いた例は、洋の東西を問わず
多く見受けられます。この項では、人体の骨を「石(結晶鉱物)」に見立てて、
その秘密を探ってみます。

 前述した「電子セラミックス」の作用の中で一番わかりやすい説明は、“圧電
作用”です。これは圧電体セラミックスと呼ばれています。結晶体にギュッと圧
や振動を加えると「電圧」が発生します。これが「圧電体」と呼ばれるものです。
ある種の結晶体は、特定の方向に力をかけて形をゆがませると、片側にプラ
ス、反対側にマイナスの電気が生じて電圧が発生します。これをピエゾ電気効
果、あるいは圧電効果(piezoはギリシャ語で“圧縮する”という意味)といいます。
また、この結晶体はおもしろいことに、逆に外から電圧をかけると形がゆがむ
という全く反対の現象を現わします。これは、電圧を変化させれば、圧電体の
振動を変化させることが可能であるということです。これを“圧電逆効果”と呼
んでいます。形をゆがませるように力をかけると電圧が作られ、逆に電圧をか
けると形がゆがむという現象が発生するのです。

このようなものを「圧電体」と言って、昔からロッシェル塩(酒石酸ナトリウム・
カリウム)の結晶などが有名です。これはクリスタル・マイク(音圧をかけて電
圧に変える圧電効果を利用)やクリスタル・イヤフォン(電圧をかけて音振動に
変換、圧電逆効果の利用)に使われています。しかし、この結晶体は水に溶け
やすく機械的に壊れやすいのが欠点でした。ロッシェル塩といわれるように、
海水からとれる塩の結晶と似た物質です。塩といってもNaCl(塩化ナトリウム)
とは異なって、海水の結晶塩はMgKCaZn14種類のミネラル成分を含
有しています。海水からの結晶塩は、同様の圧電体としての特性を有している
と考えられます。

 人体中の骨は、リンとカルシウムを主成分としていますが、海水に含まれる
その他のミネラル分も含有しています。いわば骨は海水の主成分を固形化し
て貯蔵した存在なのです。このように考えると、塩と骨は同じ結晶体としての
圧電作用を充分にもっていると思われます。骨に電圧をかけ骨をゆがませる
ことにより骨細胞の増殖を増進させるという骨折の治療は、骨の圧電効果(
電逆効果)の応用としてすでに医療の分野で実際に行なわれています。結果
は、ギプス固定による骨折治療よりもはるかに短時間で骨折個所の回復が可
能となっています。

 また、圧電体セラミックスの身近な応用として、台所のガスレンジやガス湯沸
かし器などがあり、これらはつまみを回してパチンとやればガスに即点火でき
る仕組みになっています。この主役が圧電体セラミックスです。煙草のガス・ラ
イターにも同じ仕組みが使われています。これなどは、ガチッといきなり圧電
セラミックスを引っぱたいて、そのショックで出てくる高い電圧がパチンと火花
を出して放電するという、まことに派手な圧電効果の応用です。

昔の火打ち石の火花と同じ原理です。引っぱたき式=インパクト・ショックで、
つまみを回したり押したりする力をバネに蓄積しておき、レバーが外れた所で
一度に大きな力がセラミックスをガチンとやる方式です。その瞬間に高電圧が
発生し、火花放電するのです。このほかに圧力をゆっくり加えていくスクィーズ
式のメカもあって、この場合はスパークが1ストロークの間に数回パチパチと
飛んで放電する方法です。この時、15,00020,000Vの高電圧が発生します。
これに使用する圧電セラミックスはチタン酸鉛とジルコン酸鉛が主成分となっ
ています。鉛の代わりにカルシウムやマグネシウムに変えても同作用ができる
といわれています。

 この圧電セラミックスの圧電効果と圧電逆効果作用は、様々な分野で応用
されています。例えば電話の送受話器、圧電ブザー、平面スピーカー、超音波
送受信機器、車のバックソナー、医学機器の超音波診断器等、圧電効果と圧
電逆効果作用の応用は、計り知れないものがあります。また、磁性体セラミッ
クスは、非金属で、磁性を有するもので、“フェライト”と呼ばれ、この応用も様々
な分野で使われています。

 このような“セラミックスの作用を考察すると、人体中の骨のもつ多面的で
高次元な作用が類推されます。骨が圧電効果をもつことは既に実証されてい
ます。また、骨が磁性体であるという仮説も十分うなづけます。

 私の師、故野口三千三先生の教えの中に、「現在使われているすべての機
械・器具・道具類は生物のもつ構造・機能の延長上にあるもので、生物の構
造・機能の模倣である」という説があります。また逆も真なりといえます。セラ
ミックスのもつ機能は、生物の中にはもっと精妙に備わっているはずであると
考えれば、人体の骨に対して新たな展開が見えてきます。このような考え方は
「人体液晶説」の中でも展開しましたが、科学技術の最先端を担うニュー・セラ
ミックスの作用を考察する中で、多面的で高次元な機能をもつ骨の新たな一面
が見出せそうです。

 骨は気の発生装置という着想は、骨のもつ圧電効果を探る中で次第に明ら
かにできるものと思っています。骨を叩いたり、圧をかけたり、こすったりという
日本伝承医学のテクニックには、まだまだ未知の可能性が隠されています。
今後、「骨に貞()く」という姿勢で、それが明らかになっていくことを期待して
います。