骨は電気を発生する 2017.11.8. 有本政治 

 *これは今から約30年前に書いたものになります

 前項で骨は気の発生装置としての役割をもっているのではないか、というこ
とを圧電セラミックスを例に挙げて考察しました。この骨のもつ圧電効果をより
詳細に考察してみます。

 漢方医学における「気」の概念は非常に広範囲で、これをわかりやすく論ず
ることは大変困難です。私の「気」に対する基本概念は、「エネルギー・情報・
物質」の三態の統合体と捉えています。漢方医学に見られる気の認識の原
点は、「陰」と「陽」の二つの気の存在です。つまり陰気と陽気の二気です。こ
れは何を表わしているかというと、二つの“極性”をもっているということです。
極性とは、相反する性質をもっているということです。

 相反する性質をもつものを身近なものに例えますと、電気のプラス極とマイ
ナス極、次に磁気のN極とS極があります。磁石を例に挙げれば、「気」のもつ
構造がわかりやすく見えてきます。磁石とは、ある「物質」でできており、N
S極という相反する極性を有しています。N極とN極は反発し合い、N極とS
極は吸着するという「エネルギー」をもっています。

この現象は、N極とS極を識別する「情報処理能力」を有していることを意味
します。つまり、磁石は「エネルギー・情報・物質」の三態を有しているのです。
しかも、その磁石を半分に分割すると、その分かれた一片にまたN極とS極の
極性を有していくという特性をもっています。まさに漢方医学の陰陽論の中に
見られる「太極」から二気を生じ、これを「両儀」といい、それがそれぞれに別
れて、「四象」を生じ「八卦」(はっけ)と展開していく姿と同じ展開になります。

 永久磁石ではなく、電磁石として考察してみます。鉄の棒にコイルを巻いて
電気を流すと電磁石ができます。この電気は+(プラス)極と−(マイナス)極を
有しています。そしてプラス極からマイナス極に向かって電気は流れていきま
す。この+極と−極を反転させれば、電磁石のN極とS極は反転します。

このように、極性が転ずれば、正反対の性質に変化するのです。この電気・
磁気的性質を漢方医学の陰陽二気論は、みごとに説明しています。

「陰極まれば陽を生じ、陽極まれば陰を生ずる」、まさに気の概念は、電気と
磁気の性質を含んでいるといってもよいでしょう。電気と磁気の性質を探るこ
とは、「気」を解明する大きな手掛かりとなるのです。このように考えると、人
体の骨が圧電体であるという事実は、骨を気の発生装置として位置付けるこ
とを可能にします。

次に、骨は電気を発生するという圧電体としての性質を、水晶という“石”を
例にあげながら考察していきます。ピエゾ電気(圧電現象)といい、圧力を加え
ることで結晶が帯電する現象をいいます。実験として水晶を板にし、この板を
二枚の金属板の間に入れ、圧すると両面は等しく、かつ相反するように帯電
します。

このときの圧電気値は、1cmの巾の水晶に500kgの圧力を加えると、瞬間
的にではありますが、約25,000Vの電気が発生することが実験によって明ら
かになっています。この実験の結果から、圧電方程式で計算してみると1cm
の巾の水晶に100gの圧力を加えると5.6Vの電気が発生すると考えられます。
そして加える圧に比例して電気量が増加するというのです。この水晶のもつ
圧電実験は、そのまま骨に対しても実験検証されています。

 骨には圧電極性があり、この作用を利用し、歯の矯正治療や骨折の整復に
既に実際に応用されています。絶縁状態にある骨を器具で固定し上から圧を
かけます。すると圧力のかかる部分はマイナスに、張力のかかる部分はプラ
スに帯電します。

実際に犬の大腿骨を使った実験の結果では、両端につないだ電流計の針
が、圧をかけるたびに、微弱ではありますが電気(45V)を発生し針が動くの
が確認されました。この骨の圧電極性を利用して電気を流すと、骨を作る骨芽
細胞と骨を吸収する破骨細胞が盛んに活動を始め、骨の吸収と形成が盛ん
になることが確認されています。

この事実を実際に応用している研究グループがあります。昭和大学医学部
の藤巻悦夫教授の研究グループです。藤巻教授によれば、骨折個所をギプ
スや固い物質でしっかり固定してしまうと、表面上は仮骨が綺麗に形成され、
いかにも骨折は治ったように見えるのですが、それは見かけだけで実際には
治っていない、したがって再び骨折する率が大変高いのだそうです。骨に圧
力がかかるようにわずかな隙間を作ってやると、そこに圧電効果が起こされ
電気が発生し、その作用によって仮骨の形成も旺盛で内部までしっかり癒合
するのだそうです。そして、再骨折の心配も格段に少ないと検証報告していま
す。このように身体の中に電気を発生してあげると、様々な生理変化が生起
されるのです。

私たちの身体の中に電気信号(情報)や電気エネルギーが不可欠であるこ
とは、生理学上明らかです。脳内の活動、心臓の筋肉の収縮、神経の伝達は
電気信号と電気エネルギーによって成立しています。それ故にそれが検査に
応用されているのです。

 生物のもつ体内電気の例として、一番わかりやすいのが電気ウナギです。
電気ウナギが敵を攻撃しようとすると600Vの電気を一秒ほど放射し、相手を
痺れさせます。体内に電気発生装置を有して良い例です。

私たち人間の身体も電気を帯びていることは、冬場に経験する静電気現象
で身近に実感できます。指先などからパッと放電する時、瞬間ではありますが
5,000Vにも達することが知られています。

 こう考えてみると、生物はかなりの量の自己発電をし、その電気を体内に張
りめぐらし、神経電線を通して全身に流し、心臓を動かし、脳波を始め、全ての
生理活動に情報としてエネルギーとして使っているのです。血液、リンパ液を
流すのに配管された体内水道パイプ類の開閉調節、及び脳脊髄液の循環、
ホルモン分泌の調節においても、電気力は欠くことのできない情報、エネル
ギーなのです。

この電気力が低下した状態を例えれば、異物である病原菌が体内に入り
込み化膿状態になると、その部の体内電線は寸断され、管類は破裂し電気
インパルスの波が途絶えた悪化状態です。そして悪化部は無駄な大放電が
起こっていると考えられます。

また、幹線的神経電線部の大放電ではなく、末梢神経部の接触不良に因
る放電現象、いわゆるショート状態にも例えられます。また、ストレスなどに因
る神経線の衰弱で脳からの指令である電気インパルスが全身に良く伝わら
ず、その連絡不通のところには血液などの栄養物がスムーズに輸送されず、
エネルギー不足に陥っていることにも例えられます。

 このように見てみますと、瞬時でも良い、いや、瞬時だからこそ良いのです。
故障部は、生体電気を発生させてやり、生体に電気情報・電気エネルギーを
与えてやることで、回復のための機序が獲得できるのです。

骨に圧を加えることで、電気を発生することは既に検証済みです。この生
体のもつ発電装置に着目し、体内電気を発生しそれを充電できるならば、前
述してあるような様々な生理失調を回復することが可能となります。骨は電気
を発生するという発見は、これまでの治療形態を大きく変えることが可能にな
ります。しかも簡単な方法によってです。

 今回は電気発生に的をしぼって展開しましたが、電気の流れるところには
磁気が関与します。この体内磁気も、冒頭で説明してあるように極性を有す
る存在です。次項では、この電気と磁気の関係を説明してみたいと思います。