人の体のナゼとワケーーー歩行の真の効能について

歩行の効能については、すでに様々な分野や立場から数多くの解説がなされ
ています。私自身も実践を通じて、その効果は実感しています。何故この単純
な動きである歩行が病気治し、健康回復、増進、精神安定に役立つのでしょう
か。古今東西、世界中で様々な運動法が考案されています。どれもそれぞれ
効能があり、否定されるべきものは存在しません。しかしその多角的な効能に
於いては歩行が群を抜いています。"単純歩行"(二足直立歩行)は何も手を加
えず複雑な動作は一切無く、人間の動きの本能であり、基本動作となり、移動
のための不可欠手段であります。人間の本能と言えるのは、「移動、捕食、生
殖」の三態であり、その中の移動を司る基本動作が歩行になります。走る事も
飛ぶ事も這う事も移動の手段ではありますが、基本は歩く事です。この歩くとい
う単純な基本動作が何故体に効くのか、その根拠と機序を探ってみたいと思い
ます。

歩行が心身にもたらす効能は以下多岐に渡ります。
⑴心臓、肺、血管機能強化
⑵コレステロール値、悪玉追放効果
⑶生命力、免疫力増強効果
⑷脳活性化効果
⑸筋肉増加、姿勢保持効果
⑹骨密度改善効果
⑺メタボ予防効果
⑻リラックス効果
⑼快食、快便、快眠効果
以上等となり、心身共に数多くの効能が確認され、その効果の高さに驚かされ
ます。現代人の運動不足は深刻で、どんな筋肉運動でも生理機能を活性化す
る事はうなずけます。筋肉運動により全身の血液の循環は改善し、心肺機能
を高め、内臓を揺り動かす事で、腎臓や腸の働きを高める効果は期待出来ま
す。

また足は第二の心臓と呼ばれ、血液を心臓まで還す筋肉ポンプ作用を助ける
効果は間違いなくあります。ただこれらの作用だけで、これだけ多岐に渡る効果
は説明出来ません。何かが全ての機能の根源にある生命力や免疫力を高める
ように働き、さらに全身の血液の循環、配分、質の乱れを改善するように働か
なければ、これほどの効能は達成出来ません。その機序を日本伝承医学の
身体観に基づいて解説してみたいと思います。

日本伝承医学の治療技術は他に類を見ない独自の身体観に立って構築され
ています。その最大の特徴は、骨の持つ特性である「圧電作用」と「骨伝導」
を使用する治療技術である点です。これを活用した治療技術は日本伝承医学
が唯一になります。これは骨に造詣が深い、古代日本人が発見研究し、残して
くれたものです。

骨の物質的特性となる圧電作用とは、骨本体に「圧」や「振動」が加わると微弱
ながら電気を発生する性質を言います。骨伝導とは、骨は単なる硬い石のよう
な個体ではなく、人体内に於いて神経系や血管系あるいはリンパ系と同様に
伝導系(伝達系)であるのです。この伝達系としての性質は、実証されて、すで
に骨伝導イヤホン、マイク、スピーカーとして実用化しています。

音の聞こえるメカニズムは、普通は鼓膜を振動させて音の振動変化を電気信
号に変換して脳に伝え、それが音として識別出来ます。骨伝導とは、鼓膜を振
動させないで、骨を振動させる事で全く同じように音として識別され聞こえるの
です。つまり骨は音のような微細な振動変化を見事に伝える伝達系であったの
です。それも神経系や血管系といった伝達系よりも、大きく早い、人体中最大
で最速の伝達系であるのです。

人体の中心に位置し存在する骨格系は、人体のエネルギーとなる電気を発生
し、その発生した電気を瞬時に全骨格に伝導する伝達系であったのです。さら
に言えば、骨の中は、人体内の化学反応に不可欠な物質であるカルシウム
(ca)とリン(p)の貯蔵庫であります。骨髄に於いては骨髄幹細胞によって、遺伝
子や細胞が作られ、命の源である血液(赤血球、白血球、血小板)が作られて
いるのです。まさに骨は「生命の仕組み」の三態となる「物質」(ca、p、血液).「エ
ネルギー」(電気).「情報」(伝達系、磁気情報)の全てに大きく関わる最重要組織
であったのです。古代日本人は、その事をすでに発見し、骨に圧や「ゆり、ふり、
たたき」という振動を使った治療技術を開発し、圧電作用と骨伝導を駆使して
骨髄機能を発現していたのです。

この骨の持つ特性と骨髄機能の発現は、歩行の効能を解明する上で重要な
"鍵"を与えてくれます。体の低下した機能を元に戻すためには、当該部位
だけを対象にした対症療法だけでは回復出来ません。前述してありますように、
背景にあるその人の低下した生命力や免疫力を上げていき、全身の血液の循環、
配分、質の乱れを改善する必要があります。

生命力や免疫力という表現は、漠然としていてわかりにくいものです。具体的
には、生命力とは細胞新生力に置き換えられ、免疫力とは細菌やウイルスと
闘う赤血球、白血球、血小板の力になり、血液そのものです。免疫力とは造血
力に置き換えられます。細胞新生と造血は共に骨髄で行われています。つまり
生命力と免疫力の低下を回復させるためには骨髄機能を発現させる事が必要
条件であり、一番効率的な方法になるのです。まさに全骨格に重力の圧がかか
り、足の骨に断続的な圧と振動が発生する二足直立歩行は、骨髄機能を発現
させる理想的な運動法となるのです。

そして全ての組織器官の機能低下を引き起こす直接的要因は、全身の血液
の循環、配分、質の乱れが起因しています。この血液の循環、配分、質の乱
れに大きく関わっているのが、肝心要の格言通り、心臓と肝臓、胆嚢になりま
す。心臓は血液の循環のためのポンプであり、肝臓は血液の成分と全身の
血液の配分に一番関わり、苦い胆汁を出す胆嚢は血液の熱を冷まし、赤血
球の連鎖を防ぎ、血液の質を保ちます。心臓の機能を引き上げるには、第二
の心臓と言われる足を動かす事が一番理にかなっており、肝臓胆嚢の機能を
高めるには、歩行による"揺り動かし"が効果を出します。全ての内臓は固まっ
てしまっては、機能が低下します。歩行による"ゆり"と"ふり"による振動が、
骨に電気が発生する原理と同様に肝臓にも電気を発生させ、機能を回復させ
てくれるのです。

すでにもう歩行の効能解明の答えの半分は出ています。骨髄機能を発現させ
るためには骨に圧や振動を与えて、電気を発生させ、発生した電気を骨伝導
を介して全骨格に伝播させ、骨の中の骨髄にスイッチを入れる事です。これに
より骨髄の中の造血幹細胞が活発に働き、細胞新生と造血を活性化させるの
です。骨髄機能の発現により確実に生命力と免疫力を高めることが可能にな
るのです。

すでに解説してありますように、第二の心臓と呼ばれる足は、筋肉ポンプと関
節ポンプの両方の作動により血液を心臓に還す働きを担っています。これは
心臓の働きを大いに助け、心臓機能の回復と維持に貢献します。心臓機能の
回復は全身の血液の循環の乱れを修正します。そしてリズミカルな歩行の響
きが肝臓胆嚢を揺り動かし、肝臓胆嚢機能の回復を促します。肝臓の充血が
取れる事で血液の配分を元に戻し、胆汁分泌が改善することで、血液の熱を
下げ、赤血球連鎖が取れます。これにより血液の質が改善します。肝胆だけ
ではなく左右の腎臓も揺り動かす事で腎臓機能を高め、大腸小腸の蠕動運動
を促進させます。様々な症状の直接的な要因となっている全身の血液の循環、
配分、質の改善は、脳血管障害を改善し、脳を活性化し、心肺機能を高め、
血圧、血糖値、尿酸値、コレステロール値等を安定に導きます。

つまり人間の本能的動作となる二足直立歩行は、ただ単に移動のための手段
ではなく、生命維持のために不可欠な運動であったのです。その証明が宇宙
飛行士に見出せます。無重力の空間に長くいると重力の圧を骨の関節に受け
なくなります。そうなった場合骨がもろくなり、筋肉も萎えて立ち上がれなくなり、
内臓を含めた全ての生理機能が低下し、命に危険が及ぶのです。それを回避
するために毎日欠かすことなく、器具を使って関節に圧をかけ、リズミカルに筋
肉運動を行うことで骨に振動を与え骨の機能低下を防ぎ、生命を維持していま
す。この事実が全てを物語っています。人体の骨には重力の圧が加わらないと
生命が維持出来なくなるのです。歩行は単なる健康法ではなかったのです。

歩行は生命の仕組みとしての三態となる「物質」「エネルギー」「情報」の全てに
関わる人体の骨に"圧"と"振動"を与える事で、人体エネルギーの電気を産み
蓄え、情報としての磁気も産み、その伝達系になり、物質としての細胞と血液を
産出する働きを担っていたのです。

以上が歩行の驚くべき効果の背景にある真の作用であったのです。この根拠
と機序を認識して歩行に取り組むのと知らないで実施するのとでは、実は全く
効果が違います。
人間の意識や意志はある方向性を持ったエネルギーであるのです。意識を持
つのと持たないのでは人体の生理機能に対する作用が違うのです。意識を持
って行なうと脳からの指令も発せられ、神経が繋がるのです。新たな回路が設
定されるのです。認識を新たにするとは正にこの事です。骨に心地よい響きを
与えるように歩くことが重要です。

ここからは具体的な歩行のやり方を解説します。
歩行姿勢は、鉛直方向(重力線)に沿わせます。イメージ的には操り人形が天
から鉛直にぶら下げられた感じで体軸をまっすぐに保ちます。体に力が入ら
ず、特に肩と胸に力が入らない事が肝心です。こうする事で上肢を除いた全て
の関節に重力の圧がかかります。そして両肘は軽く90度位に曲げ、前に振り
上げるのではなく、肩甲骨を後ろに軽く引くようなイメージで脱力した状態で足
の振り出しリズムに合わせます。(苦しい時には無理して肘を曲げてはいけま
せん。普通に手をさげたまま歩いてください)。

次に足の接地イメージが重要になります。必ず踵から接地します。それも"コツ
ン'"と心地よい音の響きを感じられる事が大切です。この踵への圧と響き(振動)
が骨に圧電作用を発揮させるのです。そして足全体の骨をイメージして踵から
第五指(小指)側に軽く重心移動させながら、足の親指の付け根で押し出し、前
に進む推進力にします。
意識はここだけです。姿勢を重心線状に保ち、あとは全身脱力する事で、全身
の骨に骨伝導を介して発生した電気と共に振動が伝わります。イメージ的には
コツン、コツンと踵に心地よい"ヒビキ"を感じながら、両肘をリズミカルに後ろ
に引きながら歩行します。

歩幅は、自然に開く自分の歩幅で進んでいきます。膝や股関節に痛みや違和
感があるときは小股にして歩きます。大股にすると、長い時間股関節に重力圧
がかかり、骨盤、仙骨の微細な動きの機構が作動しますが、無理して大股にし
て歩いてはいけません。顎はまっすぐ引き気持ち良く歩いてください。時間は
20分~40分位が適切ですが、不調な時には一日5分~10分位の歩行でも
十分です。時間や速度、歩幅に関しては、体調を考慮して臨機応変に対応し
てください。ポイントは踵への心地よい響きを全身の骨に伝える事です。

以上が具体的な歩行の要領です。これにより骨髄機能が発現し、生命力や免
疫力を高め、歩行の「ゆり」と「ふり」が肝心(肝臓心臓)の働きを回復に導き、
全身の血液の循環、配分、質の乱れを改善します。これが歩行の多面的な効
能の真の理由であったのです。