箱根駅伝での選手の突発的な故障は何故起きるのか 2015.9.20 有本政治



【怪我や故障は起こるべくして起きている】

日本の長距離ランナーの憧れの場であり、多くの人々を楽しませてくれる箱根
駅伝は、駅伝競走の最高峰に位置づけられています。日本の国民的行事とし
て定着し、お正月の風物詩ともなっています。しかし毎年のように繰り返される、
当日の出場選手の変更や、選手達の突発的な故障による途中棄権、フラフラ
状態での失速の姿には胸を痛めます。この日のために、毎日何十キロも走り
込み、何年間も練習をし万全を期して、最高のコンディションで本番に備えてき
たはずなのに、いたたまれない気持ちです。

日本伝承医学の臨床家として、今年で42年を迎えますがその間スポーツトレー
ナーとして、多くの運動選手を診てきました。1986年には、ソウルオリンピックで
全日本女子バレーのトレーナーとしてオリンピックも経験しました。これまでの臨
床経験から言える事は、スポーツにおける怪我や故障は、不可抗力で起こる場
合が約2割、後の約8割は起こるべくして発生しているという事です。

特に駅伝競技においては、球技のように、互いが接触する格闘技的な要素では
無く、体の使い方も、急激で最大限の筋力を使用したダシュやジャンプ、ターン
があるわけではありません。つまり不可抗力な要因はほとんど入っていないの
です。駅伝競技における故障は、起こるべくして起きているものであり、その人
の弱い個所に発生していくのです。それは単に肉体的な要因だけではなく、精
神作用が肉体の生理機能に大きく影響を及ぼしています。



【極度のプレッシャーから起こる症状は、人智を超えている】

精神が肉体に影響を及ぼす例として、私がオリンピックにおいて経験した事例
を挙げてみます。オリンピックでの試合の前日まで、何の問題もなく練習をこなし
ていた選手が、試合当日の朝突然に、右足の踵(かかと)が痛くて、足を着けな
くて歩けなくなってしまったのです。施術をして痛みをとり、事無きを得たのですが、
こういう事例は頻繁に起こります。運動選手だけではなく、外傷的な要因を除いて、
朝起きてしばらくの間、踵が痛くて、着くことが出来ないという事はよくあります(似
た症例として、ピアニストが発表会の当日の朝、右の手首が痛くて動かなくなると
いう事もあります)。

このような現象がなぜ起こるかを説明します。まずその前に、体の起こす反応に
は全て意味があって発生していくということを覚えておいてください。その意味と
は、体を悪くするために生じるのではなく、何かを元に戻し、命を存続させるため
の対応として発症させているということです。

痛みで踵を着けない状態になると、人はつま先歩きをするしかありません。つま
先歩きは、下腿部のふくらはぎの筋肉をより一層収縮させる事になります。
下腿のふくらはぎの筋肉は収縮する事で、筋肉ポンプの作用で、血液を心臓ま
で還す役割を担っています。つまり、つま先立ちをさせて、この力をより強力にし
て心臓のポンプ力を助け、心臓まで速やかに血液を早く還し、虚血が生じて
いる脳に新鮮な血液を供給する対応をとっているのです。踵の痛みは脳の血液
不足を補う対応として発生しているということです。

しかし、一気に噴き出すような急激な力では、脳の血管が切れてしまうので、体
はそのような事は初めには起こしません。まずは踵に痛みを出して、歩幅を小さ
くさせ小刻みにゆっくり歩かせようとするのです。痛みを起こしゆるやかな動き、
歩行をさせることで、脳への血流を守り、脳内の血管が切れないように守ろうと
するのです。(めまいや極度の頭痛の時にも、急激に動かないで動作をゆっくり
緩慢にさせることで、脳への血流と脳の血管を守ろうとします)。

また、精神的プレッシャ−から、突然踵痛を起こすのは、脳脊髄液を還流させ
るためでもあります。プレッシャーや極度の緊張感は、脳に炎症を引き起こす為
脳脊髄液が停滞してしまいます。体は早急に脳脊髄液を脳内に循環させなけれ
ばなりません。人体は踵をつくことで、全身の血流が良くなります(三指半の原理
と同様)。痛いながらも踵をついて痛みの刺激を与えることで、脊髄液を循環させ
る役割も担っているのです。




【極度のプレッシャーを受けると、なぜ脳が虚血になるのか】

強いプレッシャーやストレス、極度の緊張が起こると、血の固まりの様な臓器で
ある肝臓に一気に血液が集まっていきます(肝臓の充血)。極度の恐怖や緊張
感を目の当たりにすると、血の気(ちのけ)が引くということがあるように、強い
ショックやストレス、緊張感が生じると頭部の血の気が一気に引いて肝臓に集ま
っていくのです(これは脳内の血管が切れないようにするために起こる現象にな
ります)。そのため脳に血液不足すなわち虚血の状態が生じます。体は、少ない
血液を早く循環させる必要上、脳圧を上昇させます。脳圧の上昇は限界を超える
と脳溢血やクモ膜下出血を誘発します。これを防ぐために、踵痛を起こさせ血液
を脳に集めなくてはならなくなったのです。生きている体はここまでやるのです。
踵に痛みを起こして足を着けなくさせる対応をとるのです。

これに似たような対応として、突発性難聴があります。ストレスやプレッシャーが
極限まで達して、これ以上脳に刺激が入ると脳圧が上昇して危険になる場合、
わざと耳を聴こえなくして、脳への刺激を抑制して命を守るのです(詳細は日本
伝承医学HP院長の日記、続難聴と突発性難聴の原因の項参照)。

これらの事例は、箱根駅伝の選手の故障を考察する上で、示唆を与えてくれる
ものです。それは箱根駅伝という大会が、オリンピック同様に、選手に強いストレ
スとプレッシャーを与えるからです。故にどんなに対策を立てても、予測を遥か
に超えた突発的な事故が起こってしまうのです。事故や様々なアクセデントは、
これ以上競技を続けると、命の危険があるという時の、体の出す警告サイン
でもあり、走れなくさせる事で、危険を回避し、命を守ってくれている対応でもあ
るのです。



【故障の原因の捉え方を根本から見直す】

命を守る対応である事は明らかになりましたが、次になぜ起きたかという根拠と
機序を探らなくてはなりません。そのためには精神的ストレスとプレッシャーが
肉体の生理機能にどう影響するのかを明らかにしなければなりません。また症
状を個別に見るのではなくて、全体との関連の中で見ていく必要があります。

箱根駅伝における突発的な故障の代表的な症状は、全体症状として脱水症状、
低体温症、脳貧血、心臓疾患、内臓痛(胆嚢、胃)、腹痛があります。骨や筋肉
に起こるものとして、骨折、筋肉の痙攣(大腿四頭筋、大腿二頭筋、大腿筋膜長
筋等)アキレス腱痛、踵痛、右脇腹痛、膝の外側痛等が特徴的な症状として挙
げられます。全体症状に関しては共通的に、走行時にふらつきが始めに生じ、
足に力が入らなくなり、意識がもうろうとし、悪化する事で、走行不能に陥ってい
く現象がみられます。骨や筋肉に起こる症状も、走行に著しい影響が生じ、程
度によっては走行不能になります。

これらを解決するためには、別の発想と観点から症状を捉える必要があります。
発想や視点を変えて、個々の症状の背景に存在する根源的な要因に目を向け
ていかなければなりません。そうするとある共通点が見えてきます。これが日本
伝承医学の病気や症状の捉え方の基本になるものです。

それは全ての病気や症状には、自覚がある無いに関わらず、その人自身の生命
力と免疫力の低下が存在しているということです。生命力とは細胞新生力で、免
疫力とは造血力のことをさします。直接的に症状を引き起こすのは、命の源であ
る全身の血液の循環、配分、質(赤血球の連鎖)の乱れが起因しています。



【故障の背景には、全身の血液の循環・配分・質の乱れがある】

極度のプレッシャーや緊張感、ストレスが発症すると、脳は酷使され、脳内に熱
がこもっていきます。脳が疲弊している状態が起きます。体は脳を回復させるた
めに脳内物質をいち早く生成しようとするため、肝臓に血液を集め、肝臓が
フル回転します(脳内物質のほとんどは肝臓で作られます)。肝臓に血液をとら
れるために脳は虚血状態をまねきます。

全身の血液の配分が乱れた事が引き金になり、血液の循環、質も低下していき
ます。箱根駅伝での故障の背景にも、この血液の循環・配分・質の乱れが存在
しています。

走行時に起こりやすい、脱水症状と低体温症は局所の問題ではなく、全身の症
状になります。全身症状という事は、全身の血液の循環・配分・質の乱れが必ず
関わっています。その他の脳貧血、心臓症状、内臓痛、腹痛にもこれらが関わ
っています。実は筋肉痙攣、アキレス腱痛、踵痛、右脇腹痛、膝の外側痛も、局
所の問題だけではなく、全身の血液の循環・配分・質の乱れが関わり、起こる
べくして起きているのです。これらを乱す要因は、身体的なものだけでなく、根底
には精神状態が大きく関与しているという事になります。

箱根駅伝における突発的な故障の要因に心理的、精神的作用が関わる事は、
これまでにも多くの方々も挙げております。特に箱根駅伝は、他の大会とは違
い酷寒時に、箱根の山を登り下りするという特殊な条件をもち、長い歴史と伝
統を持つ特別の大会であります。また駅伝という競技の特性上、個人にかかる
責任の重さが尋常ではありません。選手達はストレスとプレッシャーと闘わなく
てはなりません。この選手達の精神状態がどう肉体に影響を及ぼすのかという
根拠と機序が明らかにする事が大命題になります。ここが見えてくる事で、故障
の全体像が見えてきます。同時に全身の血液の循環、配分、質の乱れの原因
も明らかになっていくのです。



【精神的ストレスの持続と極度のプレッシャーが、肉体に及ぶ
機序と肝心要の重要性】

精神的ストレスとプレッシャーの持続は、常に脳を覚醒させ、刺激し続けます。
あれこれと考え続け、不安や緊張をかきたてます。不安と緊張という精神因子は、
脳内の神経伝達物質や脳内ホルモンを多量に消費する事になります。また同時
に血液も多量に消費します。この状態の持続は脳に熱を発生させ、徐々に脳内
に熱をこもらせていきます(脳に炎症を起こす)。熱のこもりは脳の機能に 影響
を及ぼすのは必然です。

この状態の持続は、脳だけにとどまりません。多量に消費される神経伝達物質
や脳内ホルモンのほとんどは肝臓で作られ、脳に運ばれ用いられ、また肝臓に
還って分解されます。そのために、肝臓に多大なる負担をかける事になります。
これが肝臓の機能低下を引き起こします。

肝臓という臓器は、血の固まりのような大きな臓器で、生命維持にとって重要な働
きを担っています。” 肝心要”と表現される様に、心臓に並ぶ重要臓器です。体
は肝臓の機能を元に戻す対応として、肝臓に多量の血液を集め、熱を発生させ
る事で機能の回復を図ろうとします。血の固まりのような大きな臓器である肝臓
に多量の血液が集まる事で、全身の血液の配分が大きく乱されるのです。

全身の血液の多くを肝臓にとられる事は、血液が不足する場所が出てくる事を
意味します。その影響を一番受けるのが、多量に血液を消費する脳になります。
さらに少なくなった血液を早く体の隅々まで循環させる必要上、血液循環のポン
プの役割を担う心臓にも大きな負担がかかります。この持続は心臓に機能低下を
もたらしていきます。

肝臓に血液をとられる事で、全身の血液の配分が乱れ、血液循環を担う心臓が
弱るという事は、益々脳への血液の供給が遅れる事になります。脳においては、
この少なくなった血液を早く脳内に巡らせる必要上、血圧の上昇と共に脳圧を
上昇させる事になるのです。脳圧の上昇状態の持続は、脳内に熱を発生させる
事につながります。これは脳の酷使と相まって、さらに脳内に熱のこもりを生起
させるのです。脳内の熱のこもりは次第に脳の中心部に及び、脳の深部の脳幹
部に熱を蓄積される結果になるのです。



【脳幹部に熱が蓄積される事で、呼吸、心拍、体温調節が乱される】

脳幹部は別名”命の座”と呼ばれ、基本的な生命維持機構に指令を出す場所に
なります。ここには体温中枢、心拍中枢、呼吸中枢、自律神経中枢、ホルモン中
枢、女性の生理の中枢、また情動をコントロールする中枢等があり、正に生命
維持に重要な役割を担っている場所です。ここに熱がこもる事は、基本的な生
命力や免疫力に影響が及ぶ事になります。

初期においては、特に大きな自覚症状は感じませんが、朝の目覚めが悪く、寝つ
きが悪い、夜中に目が覚める、夢をよく見る、体のだるさ、疲労が抜けないと言っ
た症状が現れてきます。これらの症状が感じられる場合は、自身で気付いていな
くても、生命力や免疫力が低下している事を現わす兆候であります。当然、体力、
運動能力も低下していきます。

脳幹部の機能低下が持続していくという事は、体の全ての機能が影響を受ける事
を意味します。何かが引き金になれば、体に様々な症状を発生させる事になります。
特に心拍、呼吸、体温調節に影響が出ると、突発的な症状の代表となる脱水症
状や低体温症、脳貧血、心臓疾患を発症させやすい条件を作る事になります。
また自律神経失調症や精神疾患も発症しやすくなります。

この段階で、肝心要となる肝臓(胆嚢)と心臓機能の低下が起こっています。これ
により全身の血液の配分と循環が影響を受けていきます。さらに胆嚢の機能低
下により胆汁の分泌不足が起こり、血液の質の低下を引き起こしていきます。



【胆汁(たんじゅう)の分泌不足が、血液の質を低下させ、
毛細血管を詰まらせ、故障の最大要因となる】

胆嚢は人体の右脇腹にあり、肝臓の裏側で袋状をした臓器になります。袋の中
に肝臓で作られた胆汁を貯め、胆汁の濃度を濃くして極めて苦い物質に変えて
いきます。必要に応じて袋を収縮する事で、胆汁を噴出させ十二指腸に送って
います。肝臓と胆嚢は、”肝胆相照らす”のことば通り、表裏一体の臓器です。肝
臓が弱れば胆嚢も弱り、胆嚢が弱れば肝臓に影響を与えます。胆汁は肝臓で作
られていますから、肝臓の働きが弱れば、胆汁の生成が減退し、当然胆汁の分
泌に影響を与えます。

胆嚢から出る胆汁は、1日約600mlから1000ml位分泌されます。その働きは、
脂肪の分解吸収を助け、便を生成するとされています。しかし胆汁の一番重要
な働きは、その苦い成分による”熱を冷ます”働きにあります。”良薬口に苦し”
と言われるように、漢方薬のほとんどが苦い成分でできています。これは”苦
寒薬”と呼ばれ、苦い成分が体の炎症を鎮める、抗炎症作用があるからです。

外部から抗炎症剤を投与するのではなくて、体内において、この働きをしてくれ
るのが胆汁になります。胆汁の極めて苦い成分が、体内の炎症を鎮静させるの
です。特に熱を帯びやすい血液の熱を冷ます作用が胆汁の一番重要な働きに
なります。このように、胆嚢の働きは、体内の抗炎症作用と血液の熱を冷ますと
いう重要な役割を担っています。故に1日にあれだけ多くの量を分泌する理由
があるのです。この胆汁の分泌は生命を病気(病気のほとんどが炎症の形態を
とる)から守る上でも、血液の温度を一定に保つためにも、減退させてはならない
のです。

胆汁の分泌に減退が生じてしまうと、体内の血液は熱を帯びてきます。この状
態の持続は、血液に熱変性を生起し、卵の白身が熱で固まるように、赤血球同
士がくっ付き、連鎖を発生させてしまうのです(ドロドロでベタベタの血液となる)。
これは赤血球の肥大化と形のいびつさを作り出します。これが血液の質を落とす
要因になるのです。また赤血球の肥大化は、毛細血管の内径よりも大きくなり、
毛細血管内の血液の流れに停滞と詰まりを引き起こしていきます。これを流す
対応のために、心臓のポンプに大きな負担がかかり、心臓の機能低下につな
がっていきます。



【胆(キモ)はやる気と関わるが、強すぎると逆効果】

胆嚢は別名、胆=キモと言われ、キモが座っているとか、キモが大きいとか小さい、
キモを冷やすと表現されるように、精神性に関わる臓器と位置づけられています。
いわゆるやる気や”根性”と関わる臓器であります。キモが健全であれば、旺盛な
気力が生まれ、肉体も精神も一丸となって、目的遂行が行われます。また苦境の
時も、自らを励まし、立ち直らせて、軌道修正していきます。しかしこの気力は、
強ければ良い訳ではありません。これが強すぎたり、自己を励まし、勇気づけ
る気持ちが長く続き過ぎた場合は、やる気と関わる胆嚢に逆に大きな負担がか
かるです。それが胆嚢に内熱を生じさせ、胆嚢の機能を低下させ、胆嚢が腫れ、
袋の収縮が制限される要因となってしまうのです(特に責任感の強いタイプの
選手ほどこの傾向が表れます)。これが胆汁の分泌を減退させ、血液の質(赤
血球の連鎖)の低下を引き起こしていくのです。



【選手に精神疾患や自律神経失調症が起きやすくなる理由】

肝心要が弱るという事は、生命にとって危険を及ぼしかねません。故に内臓
を支配する自律神経のバランスを崩しても肝心を元に戻そうと対応するのです。
これがいわゆる、自律神経失調症で、肝臓(胆嚢も含む)と心臓の機能を高める
ために一時的に交感神経を緊張させ、副交感神経を抑制する処置を講じるのです。
この対応は、交感神経を優位(緊張)にするために、交感神経緊張型の諸症状
を現出させます。頭痛、肩こり、首の痛みやこり、背中の張り、腰痛等で、その
中でも一時的に睡眠障害が生起されます。寝つきが悪くなり、夜中に何度も目
が覚めたり、目が覚めるとそれ以後眠れなくなったりします。これは眠れないの
ではなくて、眠らせなくする事で、昼間の体の状態に置き、弱った心臓を元に戻そ
うとする対応になります(詳細は、日本伝承医学HP不眠症の本質参照)。

故にこれを睡眠薬や誘眠剤等で無理やり眠らせてしまうと、弱った肝心は元に戻
らず、益々心身共に失調を来たしてしまうのです。そしてうつ病等の精神疾患へと
移行する危険性が高まっていきます。これを防止するためには、上記の機序を理
解し、肝心の機能を元に戻し、脳にこもった熱と脳圧の上昇を除去する処置が必
要になります(頭部冷却法が有効)。



【精神と肉体の関係の機序を知る事が問題解決につながる】

これまで説明してきた様な状態が、伏線として体内に生起されていれば、何かの
引き金により走行中に突発的な故障が起きる可能性は多いにあります。また前
日や当日の朝に突然に発生する事も十分考えられます。何事も無から有は生
まれず、自分では気付かなくても、体内には徐々に蓄積されていたのです。
またこれが隠れた真の原因であったのです。

精神的なストレスの持続と極度のプレッシャーがもたらす心身の弱りは、駅伝選
手に限った問題ではなく、全ての病気や症状の隠された真の原因でもあります
(詳細は、日本伝承医学HP院長の日記、精神疾患の肉体的機序について参照)。

精神的なストレスの持続と極度のプレッシャーがどういう機序で肉体に影響を及
ぼすのかという問題と、それからもたらされる全身の血液の循環・配分・質の乱
れの問題、それに関わる内臓の肝臓(胆嚢を含む)と心臓の問題、さらに脳の
熱のこもりと脳圧上昇の問題の根拠と機序を説明してきました。これにより走行
中に起きる突発的な故障の個々の真の原因と、体全体との関係や一連の繋が
りが見えて来ます。その個々の故障について以下解説致します。



【レース中の突発的症状の全身との関係とその機序】

突発的故障の代表的なものは、全身性の脱水症状、低体温症、脳貧血、心臓
症状、内臓痛(胆嚢、胃)腹痛があり、筋肉系の症状として、筋肉の痙攣(大腿
四頭筋、大腿二頭筋、大腿筋膜張筋等)、アキレス腱痛、踵痛、右脇腹痛、膝
の外側痛等が挙げらます。

走行中の全身性の脱水症状は、体内の異常な熱の発生とこもり、また異常な
汗のかき方により引き起こされます。これは大会前からの、精神的ストレスの持
続と極度のプレッシャーにより、肝臓と頭に大量の血液を奪われ、全身の血液
の配分が乱されていた結果です。配分の乱れにより、少ない血液を早く全身に
廻す必要上から、心臓に負担がかかり、血液の循環が乱れ、胆汁の分泌不足
から、血液の質も乱され、さらに赤血球の連鎖による毛細血管内の血液の停滞
と詰まりが前提として存在して発症したのです。

そこに試合当日の緊張と不安、気候の暑さが加わる事で一気に肝臓と心臓に
熱を発生させ、次第に熱のこもりが増大し、体内の水分を多量に消費する事
になったのです。さらに熱を放出する対応から、多量の汗をかき、異常に急速
に体内の水分を消費する結果となったのです。これが脱水症状発生の真の原
因になります。

低体温症においても、機序は同じになります。全身の血液の循環・配分・質の乱
れにより、体内の異常な熱を放出するために多量の汗をかき、気化熱として熱を
すてようとします。この対応が過度になり、体温を異常に奪う事になったのです。
また脳幹部に熱をこもらせ、脳幹の体温調節機能を低下させていたことが根源
的な要因として存在します。これに当日の気候の寒さが加わる事で、低体温症
を発症させたのです。日頃から寒さ対策は万全に行なっていても、体内に蓄積さ
れたものと当日の異常な精神状態と寒さが重なる事で引き起こされるのです。

次の脳貧血は、これまで解説してあります通り、全身の血液の循環・配分・質の
乱れにより、すでに脳への血液の供給は低下状態にあるところに、当日の精神的
な緊張と、逆にやる気旺盛な興奮状態が、肝臓、胆嚢と頭に血液を集め、脳へ
虚血が生じた事で発生しています。

心臓症状も、これまでの機序の延長上に存在します。動悸は、心臓の拍動が
通常の打ち方では、体全体に血液を巡らせなくなった場合に、一時的により強く
速く拍動させる事で起こっています。血液を流すための必要な対応として発生さ
せています。また心臓へ還る血液が不足する場合は、心臓の筋肉に軽い痙攣状態
を起こす事で、スポンジ効果を利用し、血液を集める対応を一時的に起こします。
これが一瞬心臓が締め付けられる様な状態を示すのです。長くは続くことはあり
ません。ただ心臓の症状は直接的に死に結びつくために、大きな不安を抱かせま
す。故にこの機序を正しく理解しておく事が重要になります(不安な気持ちは余
計に肝臓を充血させてしまうからです)。

内臓痛の胆嚢痛、胃痛、腹痛は、各臓器に血液不足が起こる事で発生します。
元々血液の配分が乱れているところに、当日の緊張と不安、やる気旺盛のため
に頭と肝臓、心臓に血液をとられる事で、血液不足が生じてしまったのです。
血液不足が胆嚢に起これば胆嚢痛に、胃に起これば胃痛に、腸に起これば腹
痛になります。これらは、痛みの信号を発する事で、心臓を活発に働かせると
同時に患部に血液を集める対応をとります。これが痛みの起こる理由になります。
このように突発的に起こる全身症状は、起こるべくして発生しています。この機
序を理解する事で、予防の対策が初めて講じられるのです。



【レース中の筋肉系の故障の裏にある真の原因】

筋肉系に起こる症状も、血液の循環・配分・質の乱れにより引き起こされます。
故に発生する場所があらかじめ特定できます。何年間もこの日のために、走
り込み、十分に準備をしたにも関わらず、筋肉の痙攣や痛みが出るのはどうして
でしょうか。練習でかなりの負荷をかけ、練習中では発生しないのに当日に発生
しています。その理由は、当日の精神状態が引き金になり発生しています。これ
も偶然ではなく、出るべくして起こっているのです。

筋肉の痙攣は、当該筋肉に血液不足が生起された時に、血液を集める対応と
して発生します。わかりやすく例えれば、スポンジを縮める事で、周りから水分を
吸収しますが、これと同様に筋肉を収縮させて痙攣を起こす事で、血液を集め
ようとしているのです。つまりは血液の供給に滞りが起きているのです。これは
局所の問題ではなく、全身の血液の循環・配分・質(赤血球の連鎖)の乱れが
背景にあるからです。故に血液が不足する場所が出てくるのです。

これまで解説してきました様に、心臓のポンプ力が弱まる事で、全身へ血液を
順調に流す事ができず、血液不足が生じます。また肝臓(胆嚢を含む)と頭に
血液を大量に奪われる事で、全身の血液の配分が乱され、血液不足が生じます。
また赤血球が連鎖(ドロドロでベタベタの血液)する事で、全身の毛細血管の流
れに停滞と詰まりが発生します。これは血液の循環を著しく遅らせ、血液が早く
供給できない事で血液不足が生じます。これにより血液不足を起こした筋肉に
痙攣が引き起こされるのです。右半身に出る場合と左半身に出る場合とでは
要因が異なります。



【筋肉系の故障は、上半身のねじれる方向で、右か左かの症状の出方が確定する】

上体のねじれは、何に起因するかと言うと、右は胆嚢が関わり、左は心臓にな
ります。右の胆嚢から解説します。胆嚢の袋が腫れる事で、袋の収縮がうま
くできず、胆汁の噴出が制限されるために、胆汁の分泌量が減退します。体内
で苦寒薬の役割を担う胆汁の分泌不足が起きる事は、生命にとって大きな問
題です。これを回避するために、胆嚢の収縮を助ける対応として、胆嚢を体ごと
絞り込む事で、胆汁の分泌を助ける体勢をとるのです。

右の脇腹で、乳頭の直下に位置する胆嚢を絞り込むためには、右半身の側面
を引きつらせ、右肩を前下方に巻き込ませ、上体を左にねじり、右骨盤を左に
ねじり、右の鼠蹊部(そけいぶ)を縮ませる体勢を余儀なくします。これは当然
筋肉の異常な収縮を引き起こします。(詳細は、日本伝承医学HP院長の日記、
Jリーガー中村俊輔の胆嚢炎と右大腿二頭筋肉離れについて、肩の痛みの本質
参照)。

上記の状態が起こった場合に、反応の出る筋肉の代表が、右の大腿二頭筋、
大腿四頭筋、下肢の側面の大腿筋膜張筋と下腿側面の筋肉になります(これ
は膝の外側の痛みにつながります)。これが右の下肢の筋肉の痙攣(けいれん)
の隠された原因になります。事前に自覚症状はなくても、すでに右半身の筋肉
に引きつりが起こっていたのです。これが当日の極度のプレッシャーにより胆嚢
の絞り込みが助長され、また気候条件も加味されて突発的な筋肉の痙攣につ
ながってしまったのです。

レース中に右脇腹を押さえたり、右の大腿部の前面や側面を拳で叩いたりす
る動作が起きるのも上記の理由になります。右脇腹痛も起こります。また走行
時の姿勢が右に傾いたり、右の肩が極端に下がる姿勢が起きるのも同様の
理由になります。

アキレス腱痛と踵痛も胆嚢の絞り込み体勢からくる、下半身のねじれと側面の
引きつりにより、下肢への体重のかかり方の変化から、負荷がアキレス腱や
踵にかかり、時間の経過と共に痛みを発したのです。このように右に起こる故
障や怪我の背景には胆嚢の絞り込み体勢があり、起きるべくして起きている
のです。これが右半身に起こる症状の根底要因であります。

次に左に症状が出る場合の、心臓の関わりを解説します。心臓という臓器は、
形状的には、ハート型をして、下のすぼまった円錐形状をしています。この形は、
形状ポンプと言われ、下部が収縮する事で、内部の血液を押し上げ噴出できる
構造になっています。また心臓の形状及び構造は、上から見ると、右側にねじら
れた、ねじりドーナツの様な形をして、胸骨の裏に収められています。

心臓のポンプ力が低下するという事は、血液を体の隅々まで循環させられなく
なる事を意味します。これは生命にとって一大事であり、これは何としても回避
する様に対応にせまられます。その対応の一つとして、上記してあります心臓の
形状ポンプの役割を助ける様に、心臓の下部の収縮を補助するために、胸を
前方に突き出す体勢をとるのです。胸椎の3、4、5番を前方に突出させる事で、
心臓の下部を圧迫し、心臓の収縮を助ける対応をとるのです。また心臓の右ス
ピンをより強める様に左肩を右側にねじり、心臓を絞り込む様に左肩を前下方
に巻き込むのです。

この様に、上体が右にねじれ、心臓を絞り込む様に左肩が前下方に巻き込み、
さらに上部胸椎(3、4、5番胸椎)が前方に突出する姿勢になる事は、体全体に
大きな歪みを作り出します。当然この歪みは、下半身にもねじれの応力が及ぶ
事になります。骨盤のねじれ、股関節の位置異常、膝関節のねじれ、足関節の
ねじれと下肢全体に波及し、故障の要因となるのです。

この中から、左の大腿四頭筋、大腿二頭筋、大腿筋膜張筋の痙攣も引き起こ
され、左膝の痛み、アキレス腱痛、踵痛も発生します。また左の坐骨神経痛、
股関節痛、恥骨の炎症、鼠蹊部の痛み等も発生していきます。
自覚するしないに関わらず、以上の機序が下地として存在し、当日の心理的プ
レッシャーと気象条件が引き金となり突発的に発生しています。根源に心臓の
弱りがあるという事は、筋肉系だけでなく、心臓発作や呼吸困難に陥る危険も
十分にあり、顔面が蒼白になり、呼吸が乱れ、胸を抑える仕草が現れた場合は、
要注意となります。

このように左半身に起こる故障も起こるべくして起きている故障と言えるます。
突発的な症状だけではなく、左半身に起こる怪我や故障は、心臓との関連の中
から上体に起こる歪みを根源にしているのです(詳細は日本伝承医学HP院長
の日記、錦織圭の左ふくらはぎ痛と左臀部痛は何故発生したか、肩の痛みの
本質を参照)。



【突発的な故障を防ぐには、何をすべきか、対処の方法】

根本的な原因は、精神的なストレスの持続と極度のプレッシャーによるもの
です。このストレスとプレッシャーは悪い方にばかり作用するのではなく、向上
心と集中力を生みだす原動力ともなっています。故に問題解決の要点は、スト
レスやプレッシャーを軽減する心理的なアプローチは当然講じますが、これか
ら受ける肉体的な悪影響を如何に最小限に抑える事ができるかが鍵になります。

そのためには、自身の生命力や免疫力の低下をもとに戻し、直接的な引き
金としての全身の血液の循環・配分・質の乱れを改善していかなければなりま
せん。全身の血液の循環・配分・質の乱れの原因は、肝心要に当たる、肝臓
(胆嚢を含む)と心臓の機能低下があるため、これらの機能も上げていかなけ
ればなりません。さらに脳内の熱の蓄積と脳圧の上昇、及び脳幹の機能低下も
要因となっているため、改善していく必要があります。日本伝承医学の技術は、
血液の循環・配分・質を整え、生命力と免疫力を高めることに主体を置いて、
学技が構築されています。

突発的な故障や怪我を防止し、予防と回復のためには、上記の要因を総合的
に改善していく事が不可欠です。また生命力や免疫力の低下を補うためには、日
常の生活習慣(食事、睡眠等)の改善も必要です。特に睡眠に対する認識が
大事です。睡眠は時間の長さではなくて、眠る時間帯が最も大切です。生命力や
免疫力を養うために欠かせない”成長ホルモン”は、夜中の10時から翌朝の4時位
の時間帯に分泌されます。ですからこの間に体を横たえる必要があるのです。
免疫力や生命力を高めていくためには、この時間帯に横たわることが重要条件
になります(夜更かしをしていては、いくら自助努力を重ねても体は回復しません)。



【具体的な対処の方法としての、頭と肝臓の氷冷却法】

解決のためには、ストレスの持続とプレッシャーから影響を受けている肝臓、胆
嚢、心臓の機能低下をくい止め、徐々に機能を上げていく事が必要です。
また脳内の熱の蓄積やこもりと脳圧の上昇にも歯止めをかけ、除去していく事が
必要です。肝臓と胆嚢は機能回復のために、大量の血液が導入し、軽い炎症
が起きています。これは臓器に充血と熱と腫れを生起させています。これを除
去するためには、氷を用いた肝臓胆嚢の冷却法が効果を発揮します(詳細は
日本伝承医学HP日本伝承医学家庭療法の項参照)。

スポーツ界に広く浸透している、アイシングの内臓応用になります。アイシングの
効能と安全性は、長い臨床経験から実証されています。筋肉、関節、腱の炎症や
充血、腫れ、痛みに対して、氷冷却する事で、大きな効果を発揮しています。
当然内臓に対しても同様です。日本伝承医学においては、全患者に家庭療
法として頭と肝臓(胆嚢も含む)の氷冷却法を実施し、成果をあげています。

実施の具体的な方法は、後頭部、額、首、肝臓と胆嚢を冷却します。用具は、
後頭部に対しては、氷枕を用います(従来のゴム製の物ではなく、ポリエチレン
性の中央に凹みのある物を使用します=不二ラテックス社製のものを推奨。
理由は、冷却伝導効果が高く、頭部が安定して揺れないからです)。他の場所
は、アイスバッグを使用します。額、首部、肝臓、胆嚢等、いずれの場所も氷を
当てて気持ち良い場所を微妙に探して使用します。使用時間は、氷枕はできる
だけ長く使用し、額と首は、気持ち良さを基準に、感覚的に各自臨機応変に決
め、随時繰り返します。肝臓と胆嚢は最低20分位を目安にし、重症時には2時
間位必要です。気持ちよければ就寝中溶けるまで使用し、程度に応じて、氷を
補充し、長時間使用します(長時間使用しても副作用は問題ありません)。
冬期は足に湯たんぽを使用する事で、”頭寒足熱”の作用が働き、体の上下
に血液の流れが促進され、脳内の熱と脳圧の上昇を効率よく除去出来ます。

上記の方法により、脳内の熱のこもりと脳圧の上昇が除去され、脳幹部の熱の
こもりも除去できます。また肝臓と胆嚢の充血、炎症、腫れが軽減していきます。
脳内の熱と脳圧の上昇が抑制されて、脳幹部の熱が除去される事で、自律神経の
バランスが整い、呼吸、心拍、体温をコントロールする脳幹の機能が回復します。
また肝臓の充血がとれる事で、全身の血液の配分が整います。胆嚢の腫れが
とれる事で、胆嚢の収縮が回復し、胆汁の分泌を促進できます。これにより、血
液の熱が冷まされ、赤血球の連鎖が解消し、血液の質の低下が改善できます。
また全身の毛細血管内の血液の停滞と詰まりをなくし、血液を早く循環させる事
ができるのです。これにより心臓の負担を軽減できます。以上の機序により、全
身の血液の循環、配分、質の乱れが次第に改善されていくのです。



【額と首の冷却は、脳内の熱と脳圧の上昇を除去し、脳幹部の
熱を冷まし、また心肺機能を高める】

額と首の冷却の意味を解説しておきます。
古代より日本においては、病気の種類を問わず、病気の回復に額を冷やす手
法が用いられています。日本の古代人は、額を冷やす事で、脳幹部の熱を除
去できて、病が回復に向かう事を既に発見していたのです(これは世界であまり
例を見ません)。額部は、前頭葉があり、此処に熱がこもると、精神的にマイナ
ス思考になりやすく、プラス思考とやる気を失っていきます(鬱症状の場合も前
頭葉に熱がこもります)。病気を回復に向かわせるためには、気持ちを前向き
にする事が重要な要素になります。額を冷やす事で、前頭葉の熱のこもりがと
れ、気力が回復するのです。また脳内の熱のこもりと脳圧の上昇をとり、脳幹
部の熱を除去するのにも有効な場所になります。

次に首の冷却は、直接的に頸動脈内の血液の熱を冷まし、脳内の熱と脳圧の
上昇を除去するのに、即効的に作用します。また脳幹部の熱のこもりにも同様
に、効果的に作用します。また特筆すべきは、左首の冷却になります。この部
位には、呼吸と心拍をコントロールする圧センサーがある場所になり、ここに氷
を当てる事で、呼吸と心拍のリズムを整える事ができます。これにより心肺機
能を高める事につながるのです。この左首の冷却は、薬がなかった時代には、
喘息の発作を止める治療法として使用され、効果的な方法として広く用いられて
いました。

また鬱症状に対しても、精神安定剤や抗うつ剤を使用しなくとも、額と首の冷却
で対処していく事が出来ます。不安神経症の呼吸困難に対しても呼吸安定を
もたらします。家庭療法としての額と首の冷却にはこのような効果があります。



【冷却法の注意点と間違いやすい点】

ここで、冷却法上の注意を書いておきます。これまで頭と肝臓の冷却法を指導
して来ていますが、一番勘違いされる方法が、保冷剤等を代用するケースです。
これは似て非なる方法になります。保冷剤等は、冷凍庫で冷やすと、表面温度
が0度以下になります。これを直接皮膚に当てると、たちまち皮膚に凍傷が起き
ます。皮膚の痛みが起こります。また皮膚が黒くなり、この凍傷痕が、しばらく
消えません。この間違いを犯さないようにしてください。

また、保冷剤等は、冷凍庫から出した直後は、低温を保ちますが、すぐに溶けて
温度が5度6度と上昇してきます。冷却温度は、1度を保つ事が必要なのです。生体
の組織に治癒をもたらす温度がこの温度なのです。冷蔵庫のチルドルームと同じ
温度なのです。チルドルーム内は、凍る直前の温度で保たれ、その温度が肉や魚
の鮮度を保つのに有効な温度なのです。もう一つ例を挙げれば、活魚の運搬のた
めの水槽内の温度も1度内外に保たれています。つまりこの温度が生体組織を生
かし、この持続が組織の再生を促すのです。単に熱を冷ますだけではないのです。

氷を使用した冷却は、氷がひとかけらも無くなるまで、1度の温度を保つことが
できるのです。故に、保冷剤等では効果を発揮できないのです。冷たければ良
いというわけではありません。まさに似て非なるものとはこの事になります。ただ
氷の使用に関しては、冷凍庫から出したばかりの氷で、パチパチ音がして、手指
がくっ付く氷は0度以下になっており、これを皮膚に直接当てると凍傷になります。
その様な氷は一度水を通過させて使用してください。

氷を用いた局所冷却法は自分でできる家庭療法となります。これを日常から
実施する事で、事故や故障を最小限に食い止める事が可能になります。しかし
根本の原因である精神的ストレスの持続と 極度のプレッシャーはなくなるわけ
ではないので、故障や怪我を全て予防できるわけではありません。しかし肉体
に及ぼす影響を最小限に食い止める事は十分に可能です。また肉体に及ぼす
機序をしっかりと認識する事で、何故の疑問が明らかになります。これは安心と
自信をもたらします。この効果は極めて重要になります。



【日本伝承医学ではどう対処するのか】

日本伝承医学の対処法は、突発的な故障や怪我の背景に存在する全ての要因
に総合的に働きかけることができます。その要因となる自身の生命力や免疫力
の低下に対しては、骨髄機能を発現させる事で、効果的に短時間で対応します。
生命力とは、細胞の新生力に置き換えられます。免疫力とは、赤血球や白血球
に代表される様に、血液そのものであり、新鮮な血液を作り出す造血力がこれ
に相当します。

細胞新生と造血は、人体の骨髄で行われており、骨髄機能を発現させる事で
確実に生命力と免疫力を高める事ができるのです。日本伝承医学の技法は、
この事に気づいた古代人が骨髄機能を発現する目的で開発したものになります。

症状の直接的な要因となる、全身の血液の循環、配分、質の乱れに関しては、
その原因となる肝心要に当たる肝臓(胆嚢を含む)と心臓の働きを元に戻す
必要があります。これもその重要性に気づいた古代人が、肝臓と心臓に特化した
技法を開発しています。肝臓胆嚢の熱と腫れをとる方法として、右の大腿骨を叩
く技法を伝え残しています。この操法を用いて骨にヒビキを与える事で、圧電作
用と骨伝導を介して肝胆の熱と腫れをとる事ができます。心臓に対しても、心
臓の反応の出る胸椎の3、4、5番の椎骨と肋骨にヒビキを与える技法を用い、
右ねじれと3、4、5番椎骨の突出を改善する事ができます。心臓の機能を回復
させ肝心要の機能が元に戻る事で、全身の血液の循環・配分・質の乱れが
改善できます。

脳内の熱のこもりと脳圧の上昇及び脳幹部の熱の蓄積による機能低下に対し
ては、頸椎の調整と副鼻腔の調整で熱のこもりと脳圧の上昇を除去します。これ
も足の骨にヒビキを与える技法で頸椎の歪みを取り、頭蓋骨の顔面部の骨を
ゆるやかに擦ることでヒビキを伝え脳内の熱と脳圧の上昇を除去していきます。
またすでに詳述しました家庭療法としての頭と肝胆、額と首の冷却が、脳内の
熱のこもりと脳圧の上昇を抑え、脳幹の機能を正常に戻すのです。これにより、
自律神経のバランスを元に戻し、不眠を解消し、精神疾患への移行を防ぎます。
また脳幹の機能の向上は、呼吸、心拍、体温の安定を生み、走行時の脱水症
状や低体温症を防ぐ事につながります。こうした日本伝承医学の捉え方と対処法
が、箱根駅伝をはじめ、スポーツ界における様々な故障や怪我の防止と回復に
貢献できる事を願います。