下痢を捉え直す   2015.7.18 有本政治

下痢は一方的に悪い反応として認識されていますが、必要な対応という視点で、
捉え直してみると、今まで見えなかった姿が浮かび上がります。下痢は、体内に留
めておいては有害になるものを、体外にすてるために起こしているのです。腐った
ものを食べた時に、気持ち悪くなって嘔吐しますが、これは体内に入れたら有害で、
命に危険を及ぼすものを、嘔吐によって体外に排出している手段になります。
下痢も同様の原理で起きています。下痢の場合は、すでに体内に入ったものや
体内で蓄積された熱や毒素及び内圧を、下痢という手段で外にすてる対応であると
いうことになります。

日本伝承医学では、体に起こる症状は命を守る対応として捉えています。体が起こ
す症状には全て意味があるのです。前述の嘔吐や下痢、排尿、発汗に始まり、次
の手段が発熱、各種炎症、皮膚病であり、次がオデキ、水腫、ポリープ、腫瘍となり、
最後が最終対応の負の生命力の発現となるガンになります。(詳細は、HPガンを
捉え直すの項を参照)。このように段階的な防御手段を体は幾重にも備えており、
最後の最後まで命を守ろうと働いているのです。生物として生まれて、体を悪くする
ために体に反応を起こす事はありえません。命を縮めて、早く死ぬ方向に導く事は
生命の法則に反するからです。命あるものは、生命を存続させるように完璧に生へ
のプログラムがなされているのです。

下痢は命を守る必要対応になります。故に薬物で止めてしまったり、封じ込める処
置を繰り返してしまうと、体は次なる対応を余儀なくされ、より重篤な状態に移行し
ていきます。例えば微熱を解熱剤で長期に渡り抑え続けていくと、免疫力が落ち急
性白血病を発症する事があります。また高熱を一気に下げてしまう事で、熱は出場
所を失い、深部に熱がこもり髄膜炎を発症する事があります。このように症状という
ものは封じ込めてしまうと、逆に重症化し、死に至る事もあるのです。

下痢に対する認識と処置は、体内に留めてはならない有害となる熱や毒素及び内
圧を体外にすてるための対応であります。ですから止めるのではなくて、出し切る
事が正しい対処法になります。有害となる熱と毒素及び内圧とは、如何なるものか
を以下に説明していきます。

まずは熱について考察していきます。
体は、恒温動物と言われるように、体内温度環境が36度5分近傍に保たれていま
す。この体温より、低くても高くても、人体の生理機能は影響を受けます。特に体は
高温に対しては弱い特性を持っています。42度位までが限界であり43度位を超え
た時点で脳内のタンパク質は固まります。(脳が目玉焼き状態になります)。つまり
44度、45度の体温で人が生きているという事はないのです。

このように脳は体の中で一番熱に弱い部位になります。毎年夏場に熱中症で亡く
なる人が多いのは、脳内の温度が一定値を超えたため、意識を失って死に至るの
です。人の体は熱に対して極めて弱くできています。この熱をどうすてていくかが、
命を守る命題になるのです。故に殆どの病名が肝炎、腎炎、肺炎というように、何々
炎の名称が付きます。この炎症をいかに鎮めるかが病気治しの根本であり、命を
守るためには、いかに熱を体外に排出していくかにかかってきます。

脳に熱が発生し、こもっていくと様々な影響が体に出てきます。特に脳の中心に位
置する脳幹部は別名”命の座”と呼ばれ、基本的な生命維持機構に指令を出す重
要な場所になります。この部位の温度は上げてはならないのです。故に人体中一
番早く汗をかく場所が頭の額(ひたい)になります。額に汗をかく事で、その気化熱
作用によって、脳の温度を下げる対応をとっているのです。また脳圧の上昇を抑え
る働きも同時に担っています。頭部に目、耳、鼻、口と穴がたくさん集約されている
のも、各穴から熱を排出して脳内に熱をこもらせないようにしているためになります。
咳、嘔吐、クシャミ、痰(たん)、鼻水、鼻血、涙、目ヤニ、アクビ、耳だれ等は、全て
脳内の熱を排出させ脳圧を下げている対応の姿だったのです。

排尿や下痢も脳内の熱のこもりと脳圧を下げる対応のひとつになります。極度の恐
怖にさらされたときに人は失禁します。これは脳圧を一気に下げて、脳内の血管が
切れるのを防いでいます。また、緊張するとお腹が急に痛くなりトイレに行きたくなり
ますが、これも余計な熱を体にためないように体外へ排出している対応になります。
人は緊張すると、肝臓が充血し肝臓に多量の血液をとられてしまう為、脳が虚血(血
液不足)になります。脳に血液を送りこむためには、腸内に便がとどまっていると、
腸を働かせるために多量の血液が必要になってしまいます。ここで余計な血液を
使っている場合ではないのです。体は一刻も早く脳へ血液を回さなければならない
対応にさまられているのです。そのために下痢という手段をとっていきます。
また緊張がひどく胃が気持ち悪くなると嘔吐という手段もとります。このように各人
の症状や体質によって、体は熱を排出させるために様々な形をとっていきます。
嘔吐は体力を要すため、肺の機能が弱く吐く力のない人は、頻尿や下痢という形を
とっていく傾向が見受けられます。

次に体内の毒素の発生を考察します。
前述してありますように、腐った物や有害な物を食べた場合に、嘔吐や下痢でこ
れらの物質を体外にすてる対応は、命を守る上で必要な手段になります。これ以外
で起こる毒素の発生は、必要な毒として体に作用します。謂わば必要悪です。大量
に発生すると害になりますが、それ以外は命にとって必要な対応になります。
体を死に至らしめるために起こるのではなくて、何かを起動させたり、何かを守るた
めに発生します。また血液成分を元に戻すために、必要上生成されます。 もう一つ
毒素として作用するのが、食べ物が未消化、未分解な状態で胃から小腸に入った場
合で、小腸には有害な物質として作用します。

前述の必要悪ですが、その代表として、”活性酸素”が挙げられます。昨今、活性
酸素が注目されています。その毒性ばかりが強調され、体内における悪の象徴の
ように扱われています。確かに過剰に発生すれば、物を酸化させる性質があり、
ある意味毒性が強く、体内の細胞を酸化(物が錆びる作用)させる事で、様々な
病気を引き起こし、老化の原因として作用します。
しかし生きている体のやる事は必ず意味があるのです。酸素は生きていく上で必
須の一番重要な物質です。酸素を利用した代謝により、私達の命は維持されてい
ます。その過程で活性酸素は自然に発生する、謂わば呼吸で酸素を吸えば、体内
で必ずできる物質になります。

さらに重要なことは、体を守る大切な働きを担っているのです。活性酸素は、体内
に侵入した細菌やウイルスを取り除く働きがあります。白血球やマクロファージ(白
血球の一種。大食細胞で細菌や異物を取り込んで消化する)などの免疫機能の一
部として、細菌やウイルスを取り除いているのです。免疫の補助役として、免疫力の
低下を補い、命を守っているのです。つまり、活性酸素は、その毒性で体を悪くする
ために増えているのではなくて、必要な対応として発生させているのです。
生きている体は、免疫力の低下を補う対応として、故意に活性酸素を増やす事で、
免疫力の低下を補い、命を守ってくれているのです。

またもう一つ重要な働きとして、エネルギーを作る仕組みの中で、余った水素と
結合して”水”になり、小便や大便として体外に排出する働きをするのです。悪者
どころか、必要だから活性酸素は作られ、免疫の補助役を担い、不必要な水素を
すててくれているのです。

体の弱りや免疫力の低下が進み、水の排出が通常の手段では処理できなくなった
時に、これを体外にすてるために頻尿と下痢を繰り返す事になるのです。
故にこの場合の下痢は水分の多い水瀉性(すいしゃせい)になります。1日に何回も
下痢を繰り返す事は、苦痛を伴いますが、その理由を正しく認識した上での対応が
求められます。命を守る上では、この下痢は、無理やり薬で止める処置をしては絶
対にならないのです。

このように下痢を起こすには起こす理由があるのです。生きている体の起こす反
応は全て意味があり無駄なことはありません。一方的に悪いものという視点が、大
切な働きを見失わせているのです。

次に前述した下痢のもう一つの要因となる食べ物の未消化、未分解の問題を考察
していきます。食べた物の消化や分解吸収に関わるのは、内臓の胃と小腸、大腸
であります。その消化を推進するのが、胃液、膵液、胆汁です。どれも必須の消
化のための物質ですが、その中で、下痢に一番関わるのが、胆嚢から分泌される
胆汁になります。

胆汁は胆嚢という袋が収縮する事で、胆管を通り、十二指腸に分泌されます。極
めて苦い物質で、1日に約500〜800ml分泌されます。その役割は、消化酵素は
含みませんが、十二指腸で膵液といっしょになる事で、脂肪を乳化し、分解吸収し
やすくします。脂肪は分解されると脂肪酸に変わり、小腸で吸収されます。この脂
肪酸は生命にとって欠かせない物質で、体のエネルギー源であり、またホルモンの
合成の材料になり、細胞膜の成分として細胞の機能を働かせる欠かせない栄養素
であります。この脂肪酸を小腸内で吸収しやすい形状に変化させるのも胆汁の役
割になります。故に慢性的な胆汁の分泌不足は、体内の重要なエネルギー源とな
る脂肪酸の吸収を落とし、生命力や免疫力の低下につながるのです。

胆汁の分泌不足は、十二指腸から小腸内に、脂肪が未消化、未分解のまま送り込
まれます。これは小腸に於いては、吸収されない毒物(異物)として認識されて
しまうのです。この場合の生きている体の対応は、必要な物質を吸収した後に、
速やかに毒物を排出させる処置を講じます。これが下痢の発生を誘発しているの
です。

また胆汁は、その成分のビリルビンによって、大腸内で便を生成します。さらに
胆汁は外部から入った細菌や腸内細菌の増殖を抑える働きがある事が最近分かっ
て来ました。胆汁の分泌不足は、大腸内に於いても、便が形成されず、また有害
な腸内細菌の増殖を抑える事が出来なくなるのです。便が形成されないという事
は、水瀉性の下痢を起こしやすくなり、有害な腸内細菌を排出するために下痢の
対応を余儀なくされるのです。

以上が、下痢の発生の根拠と機序になります。下痢の本来の意味は、一方的に悪
い反応ではなく、体内に止めてはならない、熱や毒素を排出するための必要な手
段であり、また脳内の熱や脳圧の上昇を除去するための対応であったのです。
極端な例を挙げれば、コレラや赤痢、腸チフスといった伝染病に於いても、抗生
物質を使用してコレラ菌、赤痢菌、腸チフス菌を殺菌する処置は必要でも、下痢
そのものは止めない方が、命を落とす危険を回避出来るのです。その理由は体
内に留めてはならない熱や毒素を体外に排出する重要な必要対応だからです。

それではどう対処すれば、下痢を改善に向かわせることができるのでしょうか。
それはこれまで解説した下痢の起こる根拠と機序の中に見いだすことが出来ます。
下痢は小腸や大腸といった腸内だけの問題ではなく、脳を含めた体全体の関連の
中から発生しています。また脳内の熱のこもりや脳圧の上昇は、精神的ストレス
の持続が根本の原因です。また活性酸素の発生の理由に挙げたように、自身の免
疫力や生命力の低下が根底にあります。また下痢の最大要因と位置づけられる胆
汁の分泌不足は、胆嚢だけではなく大元には肝臓の機能低下が存在します。肝臓
や胆嚢の機能低下をもたらすのは、精神的ストレスの持続が引き起こしています。
また直接的に小腸や大腸に血液が充分供給されない事も大きな要因になっていま
す。

これらを統合して、回復を図るためには、背景に存在する低下した生命力や免疫
力を補い、直接的に影響を及ぼしている全身の血液の循環、配分、質の乱れを整
える事が必要です。さらに局所的には、脳の熱と脳圧を除去し、絶対的要因となっ
ている胆汁の分泌を改善させ、腸に血液を集める処置が必要です。
これを達成することができるのが日本伝承医学の治療法になります。骨髄機能を発
現させる事で、生命力や免疫力の低下を補い、肝心要の肝臓、胆嚢と心臓の働きを
元に戻す事で、全身の血液の循環、配分、質の乱れを整えます。また日本古来から
伝授されている肝臓、胆嚢の腫れと炎症を鎮める大腿骨の叩打法が肝胆の機能
を高めます。さらに小腸大腸に血液を集める腸の操法で血液供給を回復させます。
家庭療法として勧める頭と肝臓、胆嚢の氷冷却法により、脳内の熱と脳圧の上昇
を抑え、胆汁の分泌を促進させます。この様な統合的な取り組みで、下痢は改善し
ていくことができます。下痢の本質を正しく認識し、これを封じ込める処置に終始す
る事の危険性を知って頂きたいと思います。