不整脈の本質〜日本伝承医学的考察 2016.7.25. 有本政治

日本伝承医学の主張する病因論や疾病観は、現代医学のそれとは一線を画してい
ます。生命人体への全面的な認識の中からその本質を見出しています。現代医学
の病因論や疾病観はどうしても一方的な見解の域を脱しえません。一方的な物の
見方ではなく、多面的なアプローチの中から導き出した答えは、真の「セカンドオピ
ニオン」となり得るのです。

物事が真実かどうかの判断は、自然界や人生を貫く原則であります「正反二面性
の原則」に照らして、正反二面からの見解が求められます。
病気や症状を一方的に”悪”の反応ではなく、正の対応という視点で捉え直してみ
ると、これまで見えなかった姿が浮かび上がります。正反両面からの見解を示
す事で、物事の本質に迫れるのではないでしょうか。
日本伝承医学が首尾一貫して主張する、病気や症状は悪の反応ではなく、何かを
元に戻し、何かを守り、最後の最後まで命を存続させるための、必要な一時的な”
対応”という考え方で不整脈を捉え直してみたいと思います。

<不整脈ではなくて”調整脈”である>

心臓という臓器は、受精卵から胎児になった瞬間から死の瞬間まで、一瞬も止ま
ることなく動き続けています。これほど優秀な永久機関は存在しません。極微弱
な電気をエネルギーにして心臓ポンプを収縮し、血液をとり込み、また噴出して
しています。その通常の心拍数の平均は、毎分50回から100回位の一定のリズム
を刻んでいます。

人間が生存するためには、恒常的に維持しなければならない幾つかの条件が存在
します。その最も基本になるのが呼吸と心拍になります。呼吸は約3分50秒位停止
すれば死に至ります。また心拍も停止すれば死を意味します。つまり呼吸と心拍とは、
常に一定の酸素と血液を全身に供給する事で、生命を成り立たせているのです。

当然上記の機能を守るために、幾重にも張り巡らされた対応の手段が構築されて
います(自動調節機能)。これは生命体であれば当たり前の命を守る防衛手段です。
特に呼吸と心拍に対しては最優先に守る対応手段が精妙に講じられています。
この延長上に今回のテーマである”脈”の問題が存在します。結論的に言えば、不
整脈と称されて、脈を早くしたり遅くしたり、間隔を飛ばしたり、強弱をつけたりする
反応は異常では無く、全身に供給する一定の血液量を確保するための必要な対応
手段であるのです。つまり生きている体が命の源となる血液の循環を確保するため
に自動的に”調整”している姿なのです。
生命体は、体をより悪くなる方向に反応を起こしたり、ましてや命を縮める方向に反
応することは一切ありません。

<不整脈は健康な人でも必ずみつかる症状>

心臓の拍動は1日中同じリズムで打っているわけではありません。その時の体の状
態によって自動的に調節されているのです。運動時や脳が興奮した時などに起こる
速い脈(頻脈)は誰でも起こる生理的なものです。また30歳を越える頃には誰にでも
起こる不規則な脈(期外収縮)は、ほぼ全員に認められます。加齢と共に増加する
不規則な脈もある意味”経年劣化”であり生理的なものと言えます。

心臓に病気のない健康な人でも、1日中心電計を付けて観察すれば必ず誰でも不
整脈が見つかります。これは異常なのかと言いますと、その時の体の内部環境や
外界の諸条件によって体が自動的に調節制御している姿なので、異常ではありま
せん。このような不整脈はまったく治療を必要としないわけです。つまり生きている
体は内外の環境の変化に応じて心臓ポンプの拍動や強弱を自動調節しています。
また加齢と共に心臓ポンプは弱り、血管の劣化や硬化、詰まりも生じます。これに
対応して脈拍を調整していくのは生物としてあたり前の事です。つまり不整脈は、調
整脈であり、あるのがあたり前なのです。

<不整脈の症状と心臓疾患の症状は似ているが機序が異なる>

不整脈は簡単に言えば、心臓の拍動がすごく速くなったり(1分間に100回以上)、
遅くなったり(50回以下)、また強くなったり弱くなったり、血液が一気にドッと流れた
りするもので、それに伴った自覚症状が現われます。最も多い訴えは、ドキドキする
感じと、脈の中の血液の流れが感じられるというものです。。その他に、軽い胸の痛
みや圧迫感を感じる事もあります(これらは不整脈というよりは、動悸や軽度の狭心
症に入る)。

しかし不整脈の場合は全く無症状の場合が多く、たまたま自分で脈に触れてみて
初めて乱れに気付いたり、健康診断で初めて見つかることも多いようです。つまり
不整脈の症状は、その大半が自覚症状はなく、健康診断で指摘されて初めて知る
場合がほとんどの状況です。この状態から考えられる事は、不整脈は心臓自体の
弱りではなく、全身に血液を循環させている血管内の流れの異常と捉える事ができ
るのです。この流れを調整するために心臓の拍動に速い遅いと強弱をつけて、血管
内の血液の量と停滞を調整している対応と考えられるのです。故に心臓病(狭心症
や心筋梗塞等)とは別の機序で発生している症状なのです。これを判別するための
反応点が左右の足裏に現われます。体に現われる反応個所がまったく逆に現われ
るのです。不整脈は右半身に現われ、心臓疾患は左半身に現われます。別の機序
で発生するものですが、この状態の持続は、当然心臓自体の弱りに連動していく可
能性は十分にあります。ただ機序の違いは、対処の仕方が違ってきます。

<不整脈は全身の血液の配分が乱れ、血液を大量に集める箇所と血液の不足する
箇所を調整するために発生している>

前述してある様に、生命を維持するためには、命の源となる全身の血液の循環と配
分、血液の質を一定に保つことが不可欠になります。
全身の血液の量はその人の体重の約12分の1と言われています。体重が50キロの
場合、血液量は約4リットル位になります。この4リットルの血液を全身にくまなく循環
させなくてはならないのです。また循環させるだけではなく、必要な場所に必要な量
を配分する事も不可欠です。

特に人体内においては、新鮮な血液を常に大量に消費する場所があります。それ
は脳と肝臓になります。また機能が低下した組織器官には、新鮮な血液を大量に
集める事で回復を図ります。故に脳と肝臓や機能の低下した組織器官へは優先し
て血液を供給する必要が生じます。

前述の様に、全身の血液量は決まっています。この一定量の血液を過不足なく組織
器官に分配し、滞りなく循環させる事が求められます。ただ大量に血液を消費する
脳と肝臓に機能低下が生起された場合は、より多くの血液を脳と肝臓に配分する
必要に迫られます。この状況に置かれると全身の血液の配分は大きく乱れ、逆に
血液が不足する場所が 生じます。

不整脈はこの様に血液を大量に供給する箇所と血液の不足する箇所に、血液を
バランス良く供給する対応に迫られた時に、調整する目的で発生します。
その対応の形は、ある部分の血管を拡張したりある部分は収縮したり、全体的と
部分的に脈を速くしたり遅くしたり、強弱をつけたり、断続的な圧をかけたり、
一気に貯めて流したりという、ありとあらゆる手段が講じられます。これが不整脈
として捉えられているのです。

<不整脈は全身の毛細血管に流れの停滞や詰まりが発生した時に起きる>

人体の血管網は大小様々な血管が正に網の目の様に張り巡らされています。その
中でも微細な毛細血管網は正に”綿菓子”の綿の目状に人体中くまなく分布してい
ます。毛細血管の血管の内径は5〜10マイクロメートル(1ミリの1000分の1が1マイク
ロメートル)でその中を流れる赤血球の直径は7〜8マイクロメートルです。この状況
では5マイクロメートルの内径の毛細血管では赤血球が通過できない計算になりま
すが、赤血球が長細く変形する事で通過が可能になっています。しかし赤血球が連
鎖したり、赤血球自体に変形があるとスムーズに毛細血管の中を通過できなくなり
ます。これが毛細血管内に停滞と詰まりを生起する事になるのです。

血管内に血液の停滞と詰まりが生起されるということは、その先にある組織器官
は、機能低下や壊死が起こる事になります。これは非常事態で絶対に回避する必
要に迫られます。そのためには血管内に強い圧力や断続的な圧、圧の強弱、脈を
速くしたり遅くしたり、あるいは貯めておいて一気に流す等の対応が必要です。
これが不整脈という対応の姿なのです。

<根拠と機序が明確になれば、対処の方法が構築できる>

不整脈の根拠と機序が明らかになると、対処の仕方は自ずと見えてきます。それ
は全身の血液の配分の乱れと赤血球の連鎖と形の異常を改善する事になります。
つまりは全身の血液の循環(心臓ポンプの力)・配分・質(赤血球の連鎖と形の異常)
の乱れを改善する事が求められます。全身の血液の配分に影響を与えるのは脳と
肝臓になります。

また赤血球の連鎖と形の異常をもたらすのは、血液の熱変性にあります。血液の
熱を冷まし一定の温度に保つ働きは、体の苦寒薬の役目を担う”苦い胆汁”になり
ます。この胆汁の分泌不足が血液に熱変性をもたらし、赤血球の連鎖と形の異常
を生み出すのです。要約すれば、全身の血液の循環・配分・質に大きく関与するの
は肝臓と胆嚢(この二つは表裏の関係にあり連動しています)と脳、これに心臓機能
という事になります。正に”肝心要”(かんじんかなめ)とはこの事だったのです。肝臓
と脳との関連は肝脳相関として広く知られています。

結論は肝臓(胆嚢を含む)と心臓の機能を元に戻し、脳内の熱のこもりと脳圧の上昇
を除去することが不整脈を改善する上で不可欠の要素となるのです。大切な事は、
不整脈は一方的な悪の反応ではなく、逆に全身の血液の循環・配分・質の乱れを
元に戻し、命を守る重要な対応であるということを知ることです。故にこれを薬で封じ込
める処置を行なってはならないのです。この対応を封じ込める処置を繰り返す事は、
次なる対応手段に移行し、より重篤な方向に進行する事を認識して頂きたいと思い
ます。

<日本の古代人は不整脈と心臓の機能低下をわけて治療法を確立していた>

日本伝承医学では、不整脈の反応点と診断点は右足の土ふまずに硬結圧痛として
発現すると教えています。心臓のそれは左足の土踏まずに現われ、狭心症と心筋梗
塞の二つに分けて場所が示されています。日本伝承医学の基本的な診断法は右足
に反応が現われる場合は肝臓胆嚢系とし、左足は心臓系に分類して治療法が分類さ
れています。仰臥位での両足の長短にも現われ、肝胆系は右足が短く、心臓系は左
足が短くなります。
この診断法は的確で、不整脈の人は右足の土踏まずに圧痛硬結があり、右足の土
踏まずに違和感や引きつり、痙攣が発生しやすいのです。心臓病(狭心症や心筋
梗塞等)のある人は左足に同様の症状が発生します。

不整脈の治療には、肝臓と胆嚢の調整法を用いて、血液の配分と質(赤血球の連鎖
と形の異常)の乱れを正し、心臓調整法で心臓機能を高めます。これにより右足裏
に現われていた不整脈の反応を消す事で診断点とし、全身の血液の循環・配分・質
の乱れを元に戻す事で、不整脈(実際は調整脈)の対応をしなくても良い状態に回
復させる事ができるのです(日本伝承医学の治療法の詳細は、院長の日記を参照)。
不整脈をこの様に認識する事で、不安を和らげ、正しい対処の方法を選択する事
ができます。