肘内障の根拠と機序(スポーツトレーナー未来塾~)
                  2021.2.26 有本政治


(1)
肘内障の解説と実技
 【解説】

小児の手や前腕を強く引っ張ったりしたときに、子どもの肘がはずれ
たようになり、曲げたり伸ばしたりする事ができなくなります。痛みを
伴い、腕がだらんと垂れ下がるような状態になります。強く引っ張らなく
ても衣類の脱着時に、親が手伝おうとして手や腕を引いた時に起こる場
合もあります。これを小児肘内障(ちゅうないしょう)と呼びます。

 肘内障は一般的には「肘がはずれた」と表現しますが、関節が脱臼し
たのではなく、腕橈(わんとう)関節において橈骨頭を固定するための
輪状靭帯(りんじょうじんたい)が骨頭部からはずれた状態をさします。
つまり、橈骨がけん引されたことにより骨頭を固定する靭帯が、骨から
半分くらいはずれてしまったのです。

 子どもの場合はまだ骨格が完成されていない為、大人の骨のように橈
骨上部に、くびれができていません。そのため輪状靭帯と橈骨頭がしっ
かり固定できていないので輪状靭帯がはずれやすくなります。但しこの
肘内障は大人でも起きる場合があります。これをいわゆるテニス肘と言
います(テニス肘に関しては別項目で明記します)

【原因】

 この橈骨けん引によるはずれは、誰にでも起こるわけではなく、小児
本人の身体のゆがみに根本原因があります。ゆがみとは上半身に起きる
肩の巻き込みに端を発した上
腕骨、前腕骨の巻き込みに起因しています。
上肢全体に巻き込みが発生すると上腕骨は回内になり逆に前腕部は回外位
をとることでバランスをとることになります。肘関節に回外位が加わると
肘伸展位の機能解剖の動きに反した動きになり、橈骨に過度のストレスが
常に加わることになります。この状態の持続は腕橈関節に熱を発生するだ
けでなく、橈骨を固定する輪状靭帯にゆるみと固定力低下を起こします。
この状態で橈骨けん引が加わることで、これが引き金となり肘内障は起こ
ります。

 左肘の肘内障は先天的に心臓機能が弱く、心臓ポンプの吹き出しを守
る対応として身体上部に右ねじれを起こしている場合に発生しやすくな
ります。右肘の場合は胆汁の分泌不足の体質による右肩の巻き込みが前
提としてあります。子どもの場合は左肘に発生する場合がほとんどにな
ります。

 ()肘は屈曲時に回外位を自然にとっています。伸展の時は橈骨は
回内位をとって伸びるようになっています。少年野球の子どもに、カー
ブをやらせてはいけないのは、カーブを投げると、橈骨が回外位になる
ような投げ方になってしまうからです。つまりカーブの投球動作は、肘
の機能解剖的動きと逆の動作をしていることになるからです。これを繰
り返すと肘関節に変形をもたらします。
 

【整復実技】

①受者は立位で壁に背をつけます。術者は前方より受者の肘を伸展させ
上腕を一直線にして肩を壁に固定します。一方の手の親指外側部橈を輪
状靭帯に接触圧定し、もう一方の手で橈骨を把持し腕橈関節に10秒位面
圧をかけ、関節内の滑液の潤滑を生起させておきます。(滑液とは関節
の関節腔を満たす液体になります。関節を保護、維持するための重要な
役割を果たしています)

②橈骨を把持した手で腕橈関節に面圧をかけたままの状態で橈骨をやや
回外位にしながら30度位肘を屈曲します。

③面圧をゆるめないで肘を回内伸展させていくと同時にはずれた輪状靭
帯を、ゴムの指サックを指に装着するような親指の動きで、橈骨骨頭に
はめていきます。一回でうまくいかない場合はもう一度繰り返します。
大人の場合は親指ではなく手根部を使用します。手刀みたいにして小指
側でおしこみます。

④受者に肘の屈曲、伸展、前腕の回内、回外動作をさせて確認します。 

【肘内障予防実技】

身体のゆがみ、肩の巻き込みをとれば肘内障は発生しにくくなります。
まず三指半(さんしはん)操法により体のねじれ、ゆがみをとります。
 ()三指半操法の詳細は実技解説書に明記
 次に受者のかかとと足先を両手で把持し下肢全体を内旋しておとす、
肩の巻き込みをとる操法をします(詳細は実技解説書『肩の操法』にて
明記)

 上記により肩の巻き込み、体のゆがみをとることができます。

(2)肩の治療とペアストレッチ上肢の部の復習 

≪肩の治療≫

【診断】

全身が映る鏡の前で受者に立位で両上肢同時に0度~180度まで側方挙
上させます。受者と術者共、その肩の動きを観察し、7つの関節のどこ
に問題があるか挙上角を確認しておきます。施術後肩の可動域が拡大し
たかを目視確認します。

【施術】

側臥位から大腿骨叩打法に入ります。(実技解説書『肩の操法』参照)
ペアストレッチの肩甲骨回しと肩甲骨はがしを行ないます。
上肢ペアストレッチの25番迄を行ないます。
長座姿勢から以下の面圧法を行ないます。
   ①肩甲上腕関節面圧法
   ②胸鎖関節面圧法
   ③四つんばい姿勢からの手の角度を変えながらの面圧法
   ④四つんばい歩行
痛みの取れ具合に応じて『操体法』を用います。
場合によっては『不随意運動法』用います。 

※骨は圧をかけることによって電気を発生させる性質があります。発生
 した電気は骨伝導を介して全骨格に瞬時に伝播していきます。

 骨は生命物質として不可欠なカルシウムやリンの貯蔵庫だけではなく、
 エネルギー電気を発生貯蔵し、磁気を利用し、骨伝導という最大で最
 速の情報伝達系の役割を担っているのです。
 

(3)機能解剖学のまとめ

解剖学には大別すると、形態解剖学と機能解剖学があります。
  形態解剖学とは、骨の名称や関節の構造、筋肉の名称と起始・停止部
等を学ぶものになります。機能解剖学とは、人体の関節の動きにおいて、
外からの観察では見えにくい骨の動きや他の関節との連動調和の関係を
学ぶ学問です。

  例としては第2回目から講義に入っている『肩周辺機構』の機能解剖
学がわかりやすいかと
思います。
 未来塾では、この機能解剖学と実技解説を主体として授業をすすめて
いきます。全課程修了者には、日本伝承医学スポーツトレーナーとして
の資格を発行しています。修了者はスポーツトレーナーだけではなく、
スポーツ障害の他、腰痛、肩こり、膝痛、肘痛、頭痛等を改善できる技
術を取得でき、日本伝承医学の施術者としても独立開業することができ
ます。
 

(4)肩甲骨はがし~後頭骨擦過法(さっかほう)

受者の交感神経が緊張している場合、後頭骨から両首、両肩、上背部
に筋緊張が起こっています。肩肋関節をとりまく筋肉も固くなり、肩甲
骨はがしをするときに肩肋関節に、術者の手が入りにくくなります。

  診断法のひとつとして、立位体前屈時に、頭が自然な形で下がらない
で首が持ち上がった状態になります。 この状態の持続は、背部痛や腰
痛を引き起こす要因にもなります。

後頭骨擦過法は、肩甲骨はがしのストレッチに入る前に行ないます。 

【施術法】

 受者はうつぶせに寝ます。後頭骨の骨膜と皮膚との間が固くくっつい
ているのをはがすイメージで後頭部を擦過します。

(詳細は実技解説書の『後頭骨擦過法』を参照)