日本伝承医学とは 1989年記   2018.8.8. 有本政治

 *これは今から約30年前の文章に加筆したものになります 

 現在行なわれている医療の方法や技術の概念で、日本伝承医学の技術を
理解しようとすることは、大変難しいことです。先入観をすてて古代人のメッ
セージ(伝言)に耳を傾けるという気もちで、「骨」のもつ多様な機能を理解して
頂きたいと思います。一般的な骨に対する概念を打破する必要があるのです。

 日本伝承医学の技術は、安全性が高く、簡単で、単純で、短時間で効果が
出せるものです。安全性が高い理由は、操作を加える個所が「足」に限られて
いるからです。物理的刺激を加えるのが足だけだと、直接的にも間接的にも
生命に危険が及びません。

頭部は人体の神経系の中枢である脳をつつみ、胴体部は五臓六腑という
内臓をかかえています。これらの個所に誤って強い力を加えれば、当然生命
に関わってきます。それが足だとこのような心配がまずありません。故に、老
人・子ども・男性・女性を問わず、また寝たきりの人のベッドサイドでもこの技
術が安全に行使できます。この安全性ということは、素人が行なう家庭療法と
しては、最も大切なポイントとなるところです。それでは、日本伝承医学の技
術の理論的根拠を、要約して解説してみます。

 日本伝承医学の基本技術の「三指半」(さんしはん)とよばれる技術は、仰臥
位にて右下肢を外側に開いて角度をとり、右足の踵と趾先を術者の両手で把
持して、アキレス腱を伸ばしながら趾先(小趾から三指半)を軽く折り曲げ、
10cm15cm位の高さから踵を落下させるという技術です。これは骨のもつ
“圧電現象”(ピエゾ効果)を応用して、足部の26個の骨に軸圧(まっすぐな方
向からかかる圧力)を加え、電気を発生させるものです。これにより発生した
電気によって骨に電流を流し、低下した体内電位を高め、体内電流を強め、
骨髄機能を発現させて、人体の電界のバランスも整える技法であります。

さらに「電磁誘導の法則」からすると、電流の流れる所には磁界が発生しま
す。電流量が増えれば、磁界も強められるという法則が当てはまります。人体
をとり巻く内外の電気と磁気の作用は、後程詳しく解説しますが、上述したピ
エゾ効果によって、生命体を成り立たせているエネルギー・情報としての電気・
磁気レベルを高めることを可能にします。電気はエネルギーとして、磁気は情
報として人体中のすべての生理機能に関わっており、特にホルモンの中枢で
ある松果体は、0.30.5ガウス程度の磁力によって、その機能に影響がある
といわれています。この事実は、人体内の電位レベルのわずかな低下によっ
ても、磁気レベルは下がり、松果体が機能しなくなる可能性があることを意味
しています。骨のピエゾ効果で発生する電気レベルは、例えわずかであっても、
人体内においては、その微妙なレベルが大きな生理的変化を生み出し、人体
の磁界を整えるのです。

 現在の医療の中で行なわれている電気治療・磁気治療は、外部から強い電
圧や電流を与えたり、何千ガウスという強い磁力を与えています。高電圧・高
磁気を人体に与えても、それなりに効果は上がっています。最近、人体への
磁気作用の研究が進み、様々な実験結果が報告され始めました。例えば、
がん細胞を消滅させるには、4,0008,000ガウス程度の磁力が良いとされて
います。

世界中で追試実験され、臨床に応用される日も近いと思われます。しかし、
これもあくまでも外部から高磁力を与えるもので、副作用もかなり多いのです。

 私は、体内で自力で磁気力を高められれば、それはほんの微弱なものであっ
ても生体は反応すると考えています。人間は自然界において、高電圧・高磁
場にさらされて生きているわけではありません。私たちをとり巻く地表面の電
圧は500V位、磁気の強さは0.30.5ガウス位です。この数値内の電気・磁気
力の中で、生物は生存を可能にしています。この電気レベルが低下すると、
生命体は生存の為の“自己発電システム”を作動させなければなりません。
故に当然そのシステムを備えていると考えられるのです。

古代日本人は、その“自己発電システム”を「骨」に見出していたのです。
右足の26個の骨に圧をかけ、踵を落下させることで発電は達成されるのです。
これが、「三指半」のもつ大きな特性です。そして「三指半」のもう一つの作用
は、「血流」を促進させることです。東京医科歯科大学の西原克成氏は、『重
力が生物を進化させた』という著書の中で、海の生物であるサメを陸上に上げ
た時の動きの研究について述べています。その研究の結果は、サメが体幹部
を左右に揺することで体内の血圧が上がり、血流が速まり、それが“流動電
位”に変換され、生体維持の機能を高めると解析しています(詳細は『骨は生
命活動の中心』参照)

 「三指半」の技術の中で、足関節のアキレス腱を伸ばす技術は、腓腹筋・ヒラ
メ筋(ふくらはぎ)の筋肉ポンプ機構を働かせ、血流を高め、心臓に還る血液を
増進させます。そしてこれは、上記の研究結果から、体内の電流を高めること
につながります。人体中の筋肉の中で、この腓腹筋、ヒラメ筋は、その円錐形
の形から“形状ポンプ”としてポンプ作用が働き、一番血流に働く筋肉です。
心臓まで血液を還すためのポンプ機構の中心を担う筋肉でもあります。また、
足関節は「関節ポンプ」としての脛腓関節の開閉運動機構を有しています。
足を操作する「三指半」と呼ばれる技術は、足の骨に圧をかけて圧電効果で
電気を発生させ、アキレス腱を引き伸ばすことで血流を高め、流動電位に変
換させる、という“気血”両方を同時に操作できる技術であったのです。まさに
「自己発電システム」と「血液流動システム」を同時に作動させることのできる、
まさに世界に例を見ない、驚嘆に値する技術なのです。

 次に日本伝承医学の「リモコン」と呼ばれる操法は、足の中足骨に圧をかけ
る技術です。これも足の先端部に、圧電現象により電気を発生させる方法で
す。「足」は、頭部とは対極の関係にあり、足の26個の骨は、頭部の26個の
骨と密接に相関しています。「足」は、全身の縮図であり、特に足の裏は全身
の内臓・筋肉各種・組織器官系統が配当されています。故に東洋にも西洋に
も、「ゾーンセラピー」と呼ばれる足の療法が存在し、治療効果を上げている
のです。その中でも古代日本人は、足の骨と全身の骨の相関を見事に把握
していたのではないかと考えられます。足の中足骨は、特に頭部と頸部との
つながりが深い個所です。「リモコン」は、中足骨に圧を加えることで、電気・
磁気レベルを高め、頸部及び脳を調整する技術です。「足」と「頭」という対極
の関係は、人体のもつ“極性のバランス”という意味からも重要です(詳細は
「足の秘密」参照)

 次に「ゆり・ふり・たたき」と呼ばれる技術があります。これらもすべて骨にヒ
ビキ(振動)を与える技術で、前述してあります「圧電作用」により電気を発生
します。発生した電気は「骨伝導」を介して全骨格に瞬時に伝播しています。
その中でも「ゆり」という技術は、身体全体を大きく揺することです。サメが左
右に体幹部を動かす実験の中で述べたように、体を揺することで血流を高め、
体内電流を上げる効果をもっています。「ふり」という技術は、手・足末端を小
刻みに振ることをいいます。この末端を振る動きも血流を高めるのに実に効
果的です。例えば簡単な実験で、手を小刻みに震わせたり、握ったり開いたり
の動きを繰り返してみると、手先がジーンとあたたかくなります。これは血液の
循環がよくなったことを意味しています。日本伝承医学の「ふり」の技術は、
(下腿部の骨)を上下に(長軸方向)に小刻みに振ることで、人体の体幹部
(胴体)のどの部分にも、小刻みな動きを送ることができます。特に、婦人科疾
(子宮筋腫、子宮内膜炎、卵巣のう腫等)において著効を示す技術です。
ふり操法により骨盤にある子宮・卵巣が振り動かされ、子宮・卵巣内の血流
が促進されます。それはひいては、子宮・卵巣内の電位を上げ、電流が流れ
る結果につながっています。「たたき」という技術は、体表の筋肉を介して、骨
を叩くものです。骨を圧したり、叩いたりという刺激は、当然圧電効果をもたら
し、電流を促進させます。また同時に筋肉を叩くことで、「ゆり・ふり」と同様に
血流を促進させることにもなります。

 この「ゆり・ふり・たたき」の技術は、液体成分が70%といわれる人体に対し
て内臓及び体液に動きを生起させる最適の方法です。そしてそれは流動電位
に変換されます。電流が流れることにより、この電流と酵素・糖類・リン酸・カ
ルシウム等の栄養と複合され、各器官を構成する細胞の遺伝子の発現が起
こり、各器官の機能が高められたり、維持できるのです。これには、電流が流
れるということが絶対必要な条件になります。

 日本伝承医学の基本技術である「三指半」「リモコン」「ゆり・ふり・たたき」
操法は、すべて電気を発生させたり、電流を高める技術として統一的に把握
できるものです。電流の流れるところには必ず磁場が発生します。故に極論
すれば、日本伝承医学の技術は、骨を利用して自己発電システムを作動させ
ることで、人体内の電界・磁界を整える技法であったのです。

電気・磁気と人体との関わり方に関しては後述する各論の中で詳しく解説し
ていきます。

 そしてもう一点、日本伝承医学の技術の中で触れておかなくてはならないの
は、操法のすべてにわたって手・足の角度をとることです。角度をとる意味は、
人体中の骨は単なる人体の支持組織としてではなく、電気・磁気を受信する
アンテナの役割も担っています(詳細は「骨に神をみた日本人」参照)。ちょう
ど磁気コンパスの針が地球の地磁気を受けて、常に南北に指向する姿です。

人体はN極・S極という極性をもつ地磁気に対して、反応する機構をもって
いるようです。その良い例として、“北枕”という縁起かつぎがあります。

死人の頭を北に向けるという風習です。北枕は単なる迷信ではなく、死人や
病人を蘇生させるための方法なのです。弱くなった人の磁性体を、N極から
S極に流れる地球磁場を受けさせて、エネルギーの流れを作り、人体機能を
回復させる方法だったのです。これは様々な植物を使った実験や人体実験
でも生理機能に変化が生じることが実証されています。このことから、治療の
際に患者の寝かせる方位を考慮にいれることも大切な要素となります。

 ここでもう一つおもしろい事実は、地球の南北の磁場の方向と地球の軸は
違うということです。地軸は磁石の北の方位より23.5°東寄りに存在します。
つまり、北東と南西を貫いています。北東と南西の方位は「風水学」でいう

“鬼門”(きもん)と“裏鬼門”の方位と一致します。この地軸23.5°振られた角
度は、「三指半」の技術の中で右足を外側に開いて指向軸をとる角度と密接
に関わっています。階層的構造で人体を眺めれば、地球と人体との関係は、
大宇宙と小宇宙の関係です。右足を23.5°外側に開くことにより地軸と同じ
指向軸が人体に通ります。この軸に対して入力したり、出力したりすることで
「気」の流れが調整できるのです。足の角度をとる意味は、まだまだ解明でき
ない部分を残していますが、人体のコンパスとしての作用、風水学でいう方位
としての北東と南西を貫く、“鬼門”“裏鬼門”の入力・出力方向と考え合わせ
れば、右足を23.5°開いて入力する技術はこれらと関わっているのではない
かと考えています。

古代人たちは、生命・人体の存在を宇宙の縮図と見ていました。この考え方
からすれば、右足を開いて角度をとる意味は、計り知れない作用を人体に及
ぼすのではないかと考えています。また、手足の角度をとることで、人体内の
電界・磁界の流れや分布を変える働きも含んでいるのです。

 以上が日本伝承医学の技術を裏付ける理論であります。要約すれば、日本
伝承医学とは、生命体を成り立たせているエネルギー・情報としての「電場」
「磁場」を最適にすることで、病気を治していく方法です。その手段として足の
骨を発生源として、またアンテナとして活用し、足のもつポンプ機構と「ゆり・
ふり・たたき」を応用して血流を促進させ、電位を高め、磁気作用を改善する
方法なのです。

 このように、日本伝承医学の技術は、これまでの治療概念を打破した新しい
生命観・人体観に立脚した技術体系をもっています。「足」を操作するだけで、
驚くべき効果を生み出すその背景は、以上述べた通りです。つまり、人体の
骨という組織は、単なる身体の支えだけではなく、生命の仕組みとなる三態の
「物質・エネルギー・情報」のすべてに関わる重要な組織であったのです。

骨は「物質」として、生命物質として不可欠なCa(カルシウム)P(リン)の貯蔵
庫であり、「エネルギー」として電気を発生貯蔵し、「情報」としては磁気を利用
し、骨伝導という最大で最速の情報伝達系の役割を担っているのです。

日本伝承医学は、この生命の仕組みの三態すべてに直接働きかける技術と
いえます。