足の秘密  2018.8.22. 有本政治

*これは今から約30年前の文章に加筆したものになります  

 日本伝承医学の基本技術は、すべて足を操作します。足の療法は洋の東西
を問わず、古代より行なわれています。西洋ではゾーンセラピーと呼ばれ、アメ
リカの東海岸では家庭療法としてかなり普及しています。日本でも「足心道」と
いう呼び名で古くから行なわれ、治療効果をあげています。

当然、中国にもあります。では何故、「足」の表や裏を押したり揉んだり叩いた
りするだけで治療効果が上がるのでしょう。

 

【足の特異性と脳との関係】

 それは、二足直立を果たした「ヒト」という種族だけがもつ「足の特異性」に
由来しています。「ヒト」の足の特異性とは、二本足で縦長な構造体を支えると
いうことです。故に四つ足動物の足とは、当然異なっています。四つ足と二本
足では、土台の構造がまるで違います。四つ足動物は安定度が高く、二足で
はとても不安定です。不安定ということは、平衡をとるための足からの情報が
必要になります。二本足でバランスの崩れやすい縦長な構造体の平衡を保つ
には、接地する足の裏に圧を感じとるセンサーがなくてはなりません。つまり
ヒトの足は、四つ足の動物とは異なって、繊細で微妙な感覚の変化情報を脳
に伝える「情報伝達機能」を備えているのです。

 足の裏に感じる重さ(=圧)のセンサーによって重心を安定させるように脳に
伝え、脳はその情報を受けて平衡をとる指令を発し、倒れないようにコントロー
ルしています。ヒトの足と頭()は常に連携をとり合って平衡系を作動させ、
“直立”のバランスをとっているのです。目を閉じて片足で立ってみると、足の
裏で微妙にバランスをとっている感覚が実感できます。故に、足の裏を押した
り揉んだり叩いたりする刺激情報は、前述した関係から脳に直結しています。
足の裏の筋肉が硬くなったり、しこりがあったりすると、情報伝達がスムーズ
に行なえなくなります。この筋肉の硬さやしこりを押したり揉んだり叩いたりし
てゆるめることで、情報伝達を正常に戻すことができるのです。これが、足の
療法の治効理論の一つと考えられます。全身の組織器官の反応点が集約す
るところでもありますから、足の反応点を操作することで、全身の組織器官に
信号を送ることが可能となるのです。

 さらに二足直立を果たした人間は、四足動物と違って下肢の2本のみの筋
肉及び関節ポンプを使用して、血液を“心臓”に戻さなくてはなりません。これ
は心臓に還る血液が四つ足動物に比べて、下肢2本でまかなうことになり、
心臓や脳に虚血(血液不足)を招く必然が生じるのです。これを最小限にとど
めるためには、足関節を含めた下腿筋(ふくらはぎ)の状態を常に筋肉のしこ
りや関節の異状のない良好な状態に保つことが求められるのです。

 

【足は全身の縮図】

 身体のどこかの部分に痛みや内臓の疾患等があれば、前述の平衡系に乱
れを生じ、重心の偏在が起こり、足の構造に乱れを生じることになります。
その例として外反母趾があります。現代医学的には外反母趾と婦人科疾患と
の因果関係はまだ認められていませんが、東洋医学や身体のゆがみを対象
とする医学においては、外反母趾と子宮・卵巣との関連は密接であると説か
れています。

よく足の療法の図の中に各種骨格や全内臓が配当されて描かれているの
を見かけます。足は全身の縮図と言われる所以は、以上の関係からもうなづ
けるのです。故に古今東西、足の療法が存在しているのです。「足」には、まだ
まだ身体全体を調整する大切な要素がたくさん秘められています。

 

【地の極としての足】

 それでは、足の秘密を探ってみましょう。

まず、「足(アシ)」の語源から、生命、人体の中での足はどういう存在なのかを
見てみます。「アシ」の「ア」というやまと言葉は、ものごとの“初源”や“最初”
を表わし、“はじめ”や“生まれる”という意味も含んでいます。

(アマ)、頭(アタマ)、阿吽(アウン)、あの世(アノヨ)等に使われています。
そして「アシ」の「シ」は、“示す”“止まる”“終わる”“死ぬ”ということを表わし
ています。すなわち「アシ」とは“はじめ”と“おわり”を表わし、「生と死」をも意
味する言葉であり、それと深く関わっています。つまり「生死を司る」という意
味とも考えられます。

 また「アシ」は地に着いているので、「ア」は天を表わし、「シ」は地を表わしま
す。つまり、「天と地」を表わしています。「天と地」は両極を指します。「足」は
地の極性を支配しているところです。電気・磁気的にいえば、「()極と()極」
N極とS極」、漢方的にいえば「陰と陽」、「天の気と地の気」という両極性の
一端を担っている場所なのです。故に、「足」を操作するということは「人体の
極性のバランスをとる」ということに一番適した場所と言えるのです。この意味
においても、古今東西での「足」の重要性の一端が伺えるのです。

 

【足の骨と全身の骨との相関】

 足は、26個の骨で構成されています。前述した「足と頭の相関」「全身の縮
図」「地の極としての足」の延長上で足の骨を捉えてみると、26個の骨の一つ
一つは、頭の骨、脊柱、肋骨との関連があると考えられます。数の上から見て
みますと、足の骨26個、頭の骨は23個で耳小骨3個を加えると26個になり、
脊柱の椎骨の数は24個で仙骨・尾骨を加えると、これも26個、肋骨も左右24
本、鎖骨2本を加えると26本となります。数の上からも、足の骨との相関関係
が伺えます。

 特に頭の骨、脊柱の骨との相関は、全身を調整する上で大変重要です。
日本伝承医学の足の操作は「骨」を対象に行ないます。それも踵の骨と足の
先端(三指半)の骨の二ヶ所を把持して行ないます。「足」は全身の縮図と見れ
ば、足の踵と先端(三指半)は、全身の足と頭に相当します。この二ヶ所を同
時に操作することで、この反射は全身に及ぶことになるのです。「三指半」(
んしはん)という踵と趾先の骨を同時に操作する技術は、足→骨盤→脊椎→
頭と全身の骨を一挙に調整することができ、このひとつの技法で全身の調整
が可能となるのです。“三指半”と呼ぶ足の操法で、瞬時に身体のねじれが修
正されることで、これを見事に実証しています。

 

【足と三大クラの関連(マガタマ・ツルギ・カガミのクラ)

 古代日本人が、その生命観・人体観の中でインドのヨーガに見られる「七つ
のチャクラ」に相当する「エネルギー・情報」のセンターとして三つの「クラ」を
提唱しています。「三大クラ」とは、“三種の神器”と関連する「マガタマのクラ」
「ツルギのクラ」「カガミのクラ」の三つです。「マガタマのクラ」は、骨盤の中心
“丹田”(たんでん)を指し、「ツルギのクラ」は心臓部、「カガミのクラ」は頭()
を指しています。

 「足」と「マガタマのクラ」である骨盤との関連は、土台としての骨盤の支柱に
相当するのが下肢であり、地面に直接接地するのが「足」ということから考え
れば、下肢の角度をとり、前述した「三指半操法」を行なえば、骨盤を調整す
ることになります。つまり「マガタマのクラ」を開くことになるのです。

次に「ツルギのクラ」である心臓部と「足」との関連は、よく知られているように
“足は第二の心臓”と言われ、「足」のもつ筋肉ポンプ作用、関節ポンプ作用
によって、心臓まで血液を送り返しています。この関係より、心臓の真上の
胸骨の下にある「ツルギのクラ」を開くことにつながります。「カガミのクラ」であ
る頭()は、前述してあります足と頭()の関連から、足の操作は「カガミの
クラ」を開くことになります。このように「足」の操作一つによって、古代日本人
の発見・開発していた三大「クラ」(三種の神器)すべてを開くことができるので
す。足を操作するだけで古代日本人の発見した“三つのクラ=三種の神器”
を覚醒することが可能になります。

 

【足は精神的ストレスを消す】

 現代人の頭()は疲れきっています。特に文明国に暮らす我々は、様々な
ストレスを受けています。情報化社会といわれるように、これを機能させるた
めには、脳に多量の知識を詰め込まなければなりません。それが過度になる
と脳はその許容量を超え、もはやパンク寸前です。受験社会もしかり、幼少
より知育偏重の中で育ち、頭に知識を詰め込むことを強要されてきました。
そして都会には、自然界には存在しない光・音・色・振動・電磁波等が氾濫し
ています。これらを意識する、しないに関わらず、我々の脳に刺激として入り、
脳を疲労させてしまいます。一歩外にでれば車の洪水で、運転する人も道を
歩く人も、常に四方八方に注意を配らなければなりません。

これで頭の疲れない人はいないでしょう。

価値観の多様化により、職場も家庭も交友関係も、人間関係が大変難しい
時代です。これらは大きなストレスとして私たちの脳を疲れさせ、身体をむしば
んでいきます。まさに現代人の頭()は疲れきっています。頭に血が上り、脳
の許容量はパンク寸前、これでは“キレル”人が多くなるのも当然です。もっと
悪くなれば、ノイローゼ、心身症、精神病へと移行していきます。老人の認知
症を含めて、この傾向は増大の一途をたどっています。

現代人は、天の極()と地の極()両極のバランス関係が、極端に悪くな
っているのです。それに拍車をかけるように“歩くことを忘れた現代人”が、
ほとんどといった状況です。「歩く」という運動を行なえば、のぼせた頭の血を
下げ、体内の血液の循環を促進し、気分転換を促がし、ストレスを解消するこ
とも可能です。偉人の格言に、「精神()を文明にしたかったら、肉体を野蛮
にしろ」というものがありますが、まさに足を使って動けという意味でもありま
す。その代表が「歩行」になります。つまり足を動かすことです。崩れた極性を
正常に戻す最良の手段は、地の極としての「足」を動かしたり、操作すること
なのです。足は全身と相関し、生死と関わります。足は、あの世とこの世をつ
なぐ操法になり得るのです。文明にむしばまれた現代人ゆえに、「足」の重要
性がますます叫ばれるのです。以上のことから、「足」の重要性を認識して頂
ければ、日本伝承医学の基本技術である足を操作する「三指半」「リモコン」
操法の意味をより理解して頂けると思います。