スポーツ選手の「恥骨結合炎」の本質と対処法 2017.7.10 有本政治


スポーツ選手の間で、恥骨結合炎が回復せず悩んでいる方が多くいます。中々完
治せず、長期に練習を休み、炎症が治まったかに見えても、復帰したらすぐに再
発を繰り返し、遂には競技を断念せざるを得ない方も多く見受けられます。これは
恥骨結合炎の本質と根拠と機序が正しく捉えられていない事が背景にあります。
以下、この本質と根拠と機序を日本伝承医学的に解説し、その対処法を示します。


『骨盤前面部の関節になる恥骨結合部と後面の二つの仙腸関節は
 特殊な動きをする関節になる』

少し専門的な話になりますが、人体の恥骨部は骨盤を形成する関節の一つになり
ます。人体の骨盤は、二つの大きな腸骨と脊柱の根元の仙骨という骨の三つの骨
で構成されていて、これが輪状につながっていて、この中に腸や子宮、膀胱等が
収まっています。人体の前面部では、恥骨結合関節になり、後部で二箇所の仙骨
腸骨関節(仙腸関節)とで連結されています。

骨と骨のつながる場所は関節と呼ばれ、全て動く事を前提に作られています。ただ
他の大きく動く関節と違って、骨盤部の関節は大きく動く関節ではなく、2ミリから4
ミリというわずかな動きしか与えられていません。現代医学では骨盤部の三つの関
節を“不動関節”と呼んで、動かない関節として捉えています。しかし関節と呼ばれ
て、骨と骨を結合させているという事は動く様に作られているのです。動く必要がな
いなら、関節にする必要はなく、一体の骨でいいわけです。この骨盤を形成する三
つの関節の本来の動きの解明が十分にできていない事が、恥骨結合炎の本質を
見失わせているのです。


『骨盤部の結合部にあたる両仙腸関節と恥骨結合の関節の動きの特性を
 理解する必要がある』

骨盤にある二つの仙腸関節と一つの恥骨結合部は、2〜4ミリの微細な動きをする
関節になります。これらの関節は、歩行時や運動時において、両方の股関節と連
動し、“調和”しながら人体の立位を成立させ、歩行、走行、跳躍、着地、片足立ち、
サッカーの様な蹴る動き等を達成させています。

その股関節と骨盤の連動した動きとは、歩行時において、左右の足に体重が移し
変わる時に、股関節と連動して、恥骨結合部で2ミリ内外のクランク運動の動きと、
左右の腸骨が交互に前方に“弾み車”(蒸気機関車の大きくて重量のある車輪)の
役割を果たしながらこれも2〜4ミリの動きを作り出す事で左右の足を交互に振出
させ、スムースな歩行を可能にしています。紙面だけの解説ではわかりにくいかも
知れませんが、要はこの2〜4ミリの動きが二足直立歩行を可能にしているのです。

上記のメカニズムを立証するために、歩行ロボットを例に挙げて解説してみます。
以前のロボットは人間の手よりも巧緻な動きを可能にする事はできても、どうして
も歩行するロボットが設計できなかったのです。これは二足直立歩行のメカニズム
が解明できなかったからです。この原因が骨盤部の三つの関節が不動関節という
認識に立っていたからです。

この問題を解決したのが、股関節と骨盤の微細な動きの連動動作になります。こ
の解明があって初めて歩行ロボットが完成したのです。つまり前項で解説した仙腸
関節と恥骨結合部の微細な動きの解明が、人間の二足直立歩行や走行、階段の
上り下り等の動きを可能にしたのです。現代医学の主張する骨盤の三つの関節が
“不動関節”では、歩行ロボットは完成しなかったのです。

以上の例から明らかな事は、骨盤の三つの関節となる仙腸関節と恥骨結合部は
微細な動きがある事で、全ての立位の運動を成り立たせているということです。
つまり仙腸関節と恥骨結合は動く事が証明できるのです。

また以上の事から言える事は、今回のテーマの恥骨結合炎は仙腸関節の動きと
恥骨の2ミリのクランク運動が消失したり、動きがスムースにできなくなった事によ
り、恥骨部に抵抗が生じ、その持続が炎症を発生させていったと考えられるのです。


『恥骨部の動きを制限する原因は、骨盤の前傾と体全体のねじれのゆがみにある』

骨盤部の前面の結合部である恥骨結合部は、2ミリ内外のクランク(ジグザグ運動)
な動きをする事で、股関節と仙腸関節との連動した動きを作り出し、人体の二足
直立歩行を可能にさせています。この恥骨結合の動きに異常が生じる事で、炎症
が生じ、恥骨結合炎が発症するのです。

この恥骨結合部のクランクな動きを消失させる大きな要因は、骨盤部全体に起こ
るゆがみが原因になります。骨盤部に起こるゆがみとは、前後(前傾と後屈)と回
旋(ねじれ)の乱れになります。特にその中で、骨盤部の前傾姿勢(出っ尻タイプ)が
股関節とのスムースな連動を制限する最大のゆがみになります。

骨盤の前傾姿勢の状態で、各種運動を続ける事で、恥骨結合に過度の負荷がか
かり、患部に熱が発生し、次第に炎症に変わる事で、遂には痛みを伴った恥骨結
合炎を発症するのです。

骨盤のねじれのゆがみも同様に、股関節の正常位置に変化を生じさせ、前項から
詳細に解説してある骨盤と股関節の連動動作に障害を及ぼし、当然恥骨結合部
のクランク運動にも過度の摩擦を生起させるのです。骨盤の前傾とねじれのゆが
みは単体ではなく、ミックスされた形で体に作用を及ぼします。これが恥骨結合に
炎症を生じさせる根拠と機序になります。

つまり恥骨に炎症を生じさせるのは、恥骨という局所の問題だけではなく、人体に
起きている全体の姿勢のゆがみが背景にあって発生している事を認識する事が
大切になります。故にこの根源にある問題を無視しては、恥骨結合炎を完治に導
く事はできないのです(骨盤の前傾とねじれのゆがみの機序は日本伝承医学のHP、
院長日記、浅田真央選手の項等の詳細を参照ください)。


『どう対処したら良いか』

これまで恥骨結合炎の本質と根拠と機序を詳細に解説してきました。根拠と機序
が示されれば、どう対処するかの答えは既に出ています。体全体に起こっている骨
盤の前傾姿勢とねじれのゆがみを元に戻す事が不可欠になります。それをまず正
しておいて、局所の恥骨結合のクランク運動を正常に戻す事がもとめられます。こ
の両面からのアプローチが恥骨結合炎の回復には必要になります。
また局所の炎症を効率よく沈めるためには、恥骨部の氷冷却が効果的です。


『上記の両面からのアプローチを可能にする日本伝承医学の治療法』

日本伝承医学の治療法は、合理的に短時間で体のゆがみを修正できます。骨盤
の前傾や体のねじれを瞬時に調整できる技術を使用してこれに対処します。そし
た恥骨のクランク運動を骨への微細な振動法(ふり操法)で回復させます。この両
面からのアプローチにより確実に回復に向かわせる事ができます。また局所の氷
冷却が恥骨の炎症を鎮静させる効果を発揮します。