病気治しの基本~動物に学ぶ 2016.7.9. 有本政治

私達人間は高度な知能を有したが故に現在の文明を築いてまいりました。しかし
その反面”人間脳”のみに依存し、本来もっていた本能(生物脳)的な判断力を低
下させてしまいました。特に病気治しにおいて何を一番優先的に行なうべきなのか
の判断選択を見失ってしまったのです。
その象徴的な事例が昨今のサプリメントブームや各種健康法の氾濫の中に見受
けられます。何を食べれば良いか、どの栄養素を補えば良いか、こういう運動をす
れば良い、こういう呼吸法をすれば良い等、一面において間違いはないのですが、
全て人間脳で考え出された方法手段になります。

私は40年前に健康回復のための絶対必要条件として「食(食事)、息(呼吸法)、
動(体の使い方、運動法)、想(考え方、生き方)、眠(睡眠)」の5要素を提唱してまい
りました。どれも的確な要素であり、正しい健康法であります。
そして今日までの臨床経験を通してさらに重要な要素を見出しました。それは
「安静に横たわる」という基本的なことになります。

<動物の病気治し、健康回復法に学ぶ>

”安静に横たわる”を見事に実践しているのが動物達になります。動物達は具合
が悪くなるとただひたすら涼しい所を見つけて、静かに横たわる事で回復をはか
ろうとします。犬や猫を室内で飼ったことがある方は、彼らがひんやりした床や玄関
の石だたみに横たわっている光景を目にしたことがあると思います。さらに動物達
は、具合が悪いときには食事をあまり摂らなくなり、水だけでしのぐようになります。
食べ物の消化のために使うエネルギーをできるだけ抑え、体の回復を優先して、
エネルギーを病んでいる臓器の為に使用していくからです。私達人間は、具合が
悪いときに体力をつけなければいけないと食べてしまいますが、食べることによって
消化吸収の方にエネルギーをとられてしまうため、逆に回復を遅らせてしまいます。
具合が悪い時には食べないで横たわり、ただひたすら安静にしている動物達の姿を
人間も見習うべきと言えます。

<安静に横たわる意味は、3つあります>

❶生死に直結する臓器である心臓と肺の負担を減らし、酸素を充分にとり込み
 心臓ポンプを活発にする。
❷脳への血液供給を増やし、生命維持機構に指令を出す脳幹の働きを促進する。
❸肝心要となる臓器の肝臓と心臓の働きを元に戻し、全身の血液の循環・配分・
 質を整える。

以下に解説していきます。

<安静に横たわる事で心肺機能を元に戻し、生命力を高める事につながる>

安静に横たわる事の利点のひとつは、まず呼吸が楽に行なえるようになります。
そして心臓の負担が軽くなります。
体を起こした状態と横たわっての呼吸の違いは、横たわると呼気(吐く息)が楽
に行なえる事にあります。呼吸のメカニズムは息を吐きさえすれば吸気は自然に
入ってきます。息を吐くためには、肺を収縮させ、横隔膜をもち上げ、肋骨全体を下
降させ、下部肋骨を収縮させるという様々な要素を協調的に働かせています。こ
れはかなりのエネルギーを必要とし、特に重力に対して抗する力が必要になりま
す。

体を起こした状態での呼気は、呼吸のメカニズムの全ての要素に重力に抗する
力がかかるために大きなエネルギーと労力を必要とします。これが横たわる事で
かなりの重力から解放されたり、逆に最小限の重力を有効に利用し、肋骨の開閉
がスムーズに行なえ、また筋肉の収縮を助けられる事で呼気がスムーズに行われ
るのです。呼気が楽に行なえ、また省エネでできる事は体の負担を軽減し、酸素
をとり入れやすくなるので、体の回復と生命力を高める事に直結するのです。

また心臓は立位の状態では頭より下にあり、頭に血液を送り込むためには、血液
を重力に抗して噴出しなければならず、心臓ポンプに大きな負担をかける事になり
ます。これが体が横たわれば心臓ポンプの負担は大きく減り、弱った心臓を休める
事ができます。

生命を維持する上で一番大きく関わるのが呼吸と心臓の拍動です。呼吸は生命物
質として最重要な酸素をとり入れ、血液に溶かして全身に供給しています。3分以
上呼吸が止まれば死に至ります。また心臓の拍動が止まればこれも死を意味しま
す。つまり生命を維持し、体力を回復し、低下した生命力を高めて、心臓と肺の負
担を軽くし、働きやすい環境や条件にして、心肺機能を高める事は病気回復の基
本の一つになります。

<脳の 中心である脳幹部は基本的な生命維持機構に指令を出す場所で、別名
「命の座」と呼ばれ、低下した生命力を高めるにはここからの指令が必要>

前述してありますように、横たわる事で心肺機能が上がり、組織器官に酸素を供給
でき、全身の血液の循環・配分・質が整えられます。立位に比べて脳への血液供
給は飛躍的に増えます。これは新鮮な血液を大量に消費する脳の機能を助け、そ
の働きを活発にさせます。
特に脳の中心に位置する脳幹部に血液不足が生じると、少ない血液を早く回す
必要上、脳内の圧力となる脳圧を上昇させて血液を循環させます。この状態の持
続は脳に熱を発生させ、脳の中心の脳幹部に熱をこもらせます。

脳幹部に虚血と熱が発生すると、その指令能力を大きく低下させます。この脳幹
部は別名「命の座」と呼ばれ、基本的な生命維持機構に指令を出す場所です。
基本的生命維持とは呼吸、心拍、体温、ホルモン、自律神経、女性の生理、精神
的な情緒安定等を指します。正に生きる上で不可欠な要素です。故に病気治しに
おいては、この脳幹の作用を正常に保つことは必要条件になります。
脳幹部への血液の供給が回復することで、熱のこもりと脳圧の上昇は除去され、
命の座の機能は正常に戻り、活発に働くのです。

<横たわると血液の循環と配分が大きく変わり、心臓の負担が減り、心臓機能が
回復する事で全身に血液が供給できる>

また体を横たえる事は、体内の体液や血液の循環や配分を大きく変える事にな
ります。「立て板に水」の例え通り、立位においては重力に従って体液や血液は
下に流れ落ちます。しかし逆に上に還流させるには大変なエネルギーを必要とし
ます。心臓のポンプは噴出のためのものであり、上に吸い上げるものではありま
せん。心臓まで血液が還るためには様々な血液を循環させる機構を働かせる必要
があります。これは大変なエネルギーを消費する事になります。

しかし体を横たえると血液の流れは大きく変わります。特に還る血液は立位とは
比べものにならない程、容易になります。また水は水平に広がろうとしますから
省エネで体の隅々まで循環し、心臓に還る血液も省エネで早く循環できます。心
臓に充分に早く血液が還流する事は、噴出力をフルに活用でき、全身に新鮮
な血液を送り出す事ができるのです。これは弱った組織器官を回復させる上で不
可欠な要素になります。また脳への血液供給も上にもち上げる必要がなくなるこ
とから、心臓の負担が減ることで心臓機能が回復し、全身への血液ポンプ能力を
向上させます。さらに脳への血液も充分に供給できる様になります。

<横たわる事で、肝心要の肝臓に血液が集まり、肝機能が改善できる>

「肝心要」とは、なくてはならない極めて重要な要素を指しています。生命維持に
おいて肝臓と心臓が重要な役割を果たし、この二つの働きなくしては生命は維持
できないという意味です。心臓の大切さはいうまでもありません。命の源となる
血液を全身に運ぶポンプの役割を担っていて、心臓が止まる事は死を意味します。
心臓の重要性に関しては既に解説してある通りです。

もう一つの肝臓(胆嚢を含む)という臓器は、上体の右側肋骨の下部に位置し、脳に
次ぐ中身の詰まった大きな容量をもち、レバーと呼ばれる血の固まった様な臓器
です。肝臓が暗褐色をしているのは、血液に富む臓器で毎分約⒈5リットルの血液
が送り込まれ、また貯蔵されているからです。成人の血液量は体重の約12分の1
と言われ、体重が60キロの人の血液量は約5リットル位です。つまり肝臓は常に
全血液量の4分の1位を消費し、また貯蔵しているのです。

この血液を利用して、体内の基礎代謝(タンパク質、ブドウ糖、糖質、脂質、ビタミン、
ミネラル、胆汁酸代謝)等の全てを受けもっています。また体内の有害物質の分解
し、解毒を担っています。さらに、体内の苦寒薬(熱冷まし)の働きをする胆汁を生成
し、胆嚢に貯蔵し、濃度を濃くして分泌するという生命維持に不可欠な働きを担う
最重要臓器に位置づけられます。

つまり内臓は五臓六腑ありますが、その中でも肝臓と心臓が命の源となる血液の
「循環・配分・質」の三態に大きく関わる中心的臓器であるのです。故に”肝心要”
と言われています。このように、肝臓は全身の血液の配分と質をコントロールする
重要な役割を果たしています。故に肝臓の機能を最大限に引き出すためには、常に
新鮮な血液を大量に導入する必要があるのです。

肝臓に血液を集めるには、何よりも安静に横たわる事が求められます。肝臓を流
れる血液量は、横たわっている時を10とすると、座った状態が6、立った状態が4と
著しく減少します。つまり、低下した肝臓の機能を元に戻し、肝臓の働きを高める
ためには安静に横たわる事が絶対必要条件となるのです。
また肝臓は精神的なストレスの影響を一番うける臓器になります(詳細はホーム
ページ、院長の日記、精神的なストレスが肉体にどう影響するかの項参照)。

生きている体は肝臓の機能低下を元に戻すためには、大量の血液を肝臓に集め、
熱と腫れを一時的に作ることで回復を図ります。また精神的ストレスは当然脳を酷
使し興奮状態におきます。そのため脳は常に新鮮な血液を大量に消費します。これ
は脳への大量の血液供給を必要とし、ストレスの持続は肝臓と脳に全身の血液の
大半を奪われる事になるのです。これは人体内に血液の供給が不足する個所を
生起させ、遺伝的に弱い個所に何かしらの症状を発生させる最大の要因となってい
きます。全ての病気の根底にはこのような全身の血液の「循環・配分・質」の乱れが
存在するのです。

故に病気や症状を改善するためには、全身の血液の循環・配分・質の乱れを元
に戻す事が根本的に必要となります。そのためには全身の血液の循環・配分・質
の乱れの元になる肝臓と心臓の機能を改善する事が絶対必要条件となるのです。
正に肝心要とはこの事を指していたのです。

<心肺機能と肝臓(胆嚢を含む)と心臓(肝心要)の機能を元に戻すためには、
安静に横たわる事が不可欠>

安静に横たわる根拠と機序を解説してまいりました。肝心要だけではなく肺の機
能を高める事も解説しました。生命維持機能の中心は心臓と肺であり、全身の
血液の循環・配分・質に関わるのが肝臓と心臓です。安静に横たわる事の重要
性をこのように認識する事が大切になります。

<本能的な生き方を失った人間が忘れていた病気治しの基本を認識する>

私達人間は高度に発達した人間脳を駆使して、病気治しの方法(食、息、動、想、
眠の5要素)を考案してきました。どれも一面の真理であり、正しい方法であり
ます。しかし一番基本となる方法を見失っていたのです。それを私達人間に無言
で示してくれたのが動物の病気治しの姿であります。ただ動物はこれを思考によっ
て獲得した訳ではありません。天然に備わった最良の方法であったのです。
私達人間がこれを実行するには、人間脳で正しく認識する事が必要です。その根
拠と機序を解説致しました。わかって実行するのと知らないで行なうのでは体の作
用に大きな差が生じます。人間脳とはそういうものです。気付いた時からが始まりで
す。体調が悪いときにはできるだけ横たわる時間を多くとるようにしてみてください。

<古代日本人の偉大な発見ーー安静に横たわり、頭部の額(ひたい)を冷やす>

日本人は昔から病気治しとして、額を冷たい手拭いで冷やす方法を伝えています。
実はこの額冷却は日本独自の方法なのです。外国では行なわれていません。脳の
脳幹の重要性は既に解説してありますが、この脳幹の熱を除去するのに最も有効
に作用するのが”額冷却”になります。古代の日本人はこの事を発見し、冷やした
手拭いを額に当てる方法を伝え残してくれたのです。
日本伝承医学では、全ての病気治しに活用し、特に自律神経の失調に対して、額
と同時に左首を合わせて冷却することで大きな成果を上げています。

<安静に横たわるときに行なう氷冷却法>

前述してあるように、動物達が体を横たえる場所は偶然に決めているのではあり
ません。地面や床が冷たく、気の良い場所になります。地面や床の冷たい場所で
肝臓と心臓を冷やし、呼吸と心臓の拍動の楽な体勢をとるのです。
これをもっと効率的に行なえるのが日本伝承医学が推奨する頭と肝臓の氷冷却
法です。楽な体勢で横たわり、氷枕で後頭部を冷やし、アイスバッグで額と首の気
持ち良い個所を見つけ冷却します。また肝臓(胆嚢を含む)も同様に気持ち良い個
所を見つけ冷却します。これにより脳内の熱と脳圧の上昇を除去し、首を冷やす事
で心肺機能を助け、肝臓胆嚢の熱と腫れを鎮める事ができるのです。安静に横た
わり、氷冷却を実践する事で速やかに体を回復していくことができます。