便秘の本質   2015.7.9 有本政治

便秘は一般的に悪い事として捉えられていますが、便を体内に留めるには、理由
があります。この理由を知った上で対処していくことが大事です。便秘は体が必要
があって起こしている対応なので、これを下剤や整腸剤、サプリメント等で無理や
り出してはいけません。(盲腸手術の後や大腸内の腫瘍による狭窄、直腸の形の
異常等の器質性の便秘の場合は除きます)。

便を大腸内に留める理由を解説します。大便が食べ物のカスで、ただ腐敗発酵を
もたらすだけの不要物であるなら、12時間もの間、大腸内に留めておく必要はあ
りません。直ぐに排出すればいいことです。大腸内には、有害な大腸菌を筆頭に、
1000種以上で500兆から1000兆にも及ぶ腸内細菌が生息しています。これは命を
維持していく上で必要だから、腸内細菌を住まわせているのです。このように体の
やる事には全て意味があります。その意味とは、命を存続させるためです。
人類が何百万年もかけて、種の保存と生存のために獲得した不可欠な生理機能
を働かせて、私達の体を生かすために、大腸に便を12時間留め、腸内菌等と共生
しているのです。

大腸は、長さが約⒈5m位で、直径が5~8センチ位の長い管になります。一般的
な働きは、胆嚢(たんのう)から分泌される胆汁を使用して、便を生成し、蠕動(ぜん
どう)運動により便を移動させ、肛門から排出させます。(蠕動運動とは消化に伴っ
て起こる不可欠な胃腸の運動のことを言います)。最近では、腸管免疫系(免疫の
かなめ)としての役割も発見され、免疫器官としても認識されるようになっています。
6~9mに及ぶ小腸も、造血、脳内ホルモン、神経伝達物質、免疫物質を生成し、
大腸と共に腸管免疫系として、人体中最大の免疫機構になります。
腸(小腸と大腸)の内壁の総面積は、テニスコート約1~1.5面分あり、皮膚の表面
積のおよそ100倍もあります。この事からも、腸は重要な免疫器官と認識する事が必
要です。そこから作り出される免疫物質等は生命にとって重要だから、生成が終わ
るまで便を留める必要があるのです。

では何故12時間もの間、便を大腸内に留め置くかを説明します。それは生成した
便を使って、腸内細菌が出す分泌物と化合させ、壮大な化学工場を営むように生命
維持に必要な物質(免疫物質、ビタミン類、ホルモン物質、各種必須物質等)を生産
しているからです。故に12時間にも及ぶ長い時間、大便を留め置かなくてはならな
いのです。生命維持に必要な物質を生み出すためには最短でもこの位の時間が
必要になります。これが最適の熟成時間になるからです。

便は1日1回出る事が理想ですが、もっと長く熟成時間をとらないと、必要な物質が
できない状態のときに便秘になります。3日かかる人もいれば、6~7日、またそれ
以上の場合もあります。8日以上になるとお腹が張り、かなり苦しくなりますが7日
以内に便が出ているようであればあまり心配はいりません。便は出ないのではなく
て、故意に留める事で、生命維持のための必要物質を作り出すために、便を出さ
ないようにしているということをまず認識することです。

便秘の本質を以上のように認識できれば、下剤や整腸剤、サプリメント等で、便を
無理やり出す事が、体にとっては良くない事だということがわかると思います。特に
腸管免疫系は、免疫機構の主軸をなすものですから、薬等で調整してしまうと著しく
免疫力を低下させていきます。そして大腸がんや重篤な症状へ移行しかねません。

それでは何が原因で、大腸内の熟成が遅れてしまうのでしょうか。それは便の生成
が正常にできないのが一番の要因になっています。便の生成ができないということ
は、当然そこに生息する腸内細菌の数やバランス、棲み分けを乱します。腸内の
細菌は、腸内フローラ(花園)と呼ばれ、きちんと棲み分けができています。
これが乱れると、腸内細菌の出す分泌物も正常に出ず、便の生成の遅れと相まっ
て、発酵、熟成が正常に進みません。こうした理由で必要物質の生成を遅らせてし
まうのです。また雑菌が増殖し、腐敗発酵も起こってきます。お腹が張り、臭いオナ
ラが出るのはこのためです。

便が生成できない原因として以下に挙げる生活習慣も大きく関わってきます。
 
 ①精神的ストレスの持続
     精神的ストレスにより肝臓が充血すると、胆嚢も腫れて機能低下し、胆汁
     の分泌が充分にできなくなります。そうすると便を生成できなくなります。
 ②寝不足、体を横たえる時間が少ない
     便を発酵、熟成させるためには体を横たえる時間が必要です。夜更かし等
     で起きている時間が長いと、大腸の上行結腸は、重力に反して便を上向き
     に移動させなければならないため負担がかかります。体を横たえる時間を
     充分にとることで、負担がなく便の発酵、熟成させていくことができます。
     便秘のときには、免疫力が低下し弱っていると判断し、最低でも一日8~
     10時間位は横になることが必要です(休養をとること)。 
 ③歩行(運動)不足
    人は歩行することで大腸内の血液の循環を促します。歩く時間が足りないと
    腸の蠕動運動がうまく働かなくなります。 
 ④食事の内容(栄養のかたより)
    大腸の発酵、熟成を手助けしていくためには、みそ、しょうゆ、納豆等の発酵
    食品、根菜類(れんこん、ごぼう、人参)、適度なタンパク質(米)等をバランス
    良く摂取していきます。麺類(ラーメン)やパスタ等の小麦粉成分は、腸を冷やし、
    腸壁にへばりついて消化機能を大幅に落とします。また腸温度は一定の温度
    に保たれないと発酵熟成ができません(冷たいものも控えます)。ラーメンや
    パスタ等の麺類は控えて、米を主食とした和食の食生活にすることです。
 ⑤水の摂取不足
    草花にお茶やコーヒー、スポーツドリンクをあげない様に、人体は1日約1~
    1.5ℓの水が必要になります。水が足りないと、体が干からび潤いをなくし、
    便の生成ができなくなります。水は全ての分泌液(胆汁、腸液、膵液等)の源
    (みなもと)になります。

次に便の生成ができない機能的な原因を挙げていきます。
 
  ①大腸への充分な血液供給がなされていない
     全身の血液の循環、配分、質の乱れから起きてきます。血液の循環が
     が悪くなると血液を肝臓と脳へとられてしまう為(肝臓の充血)、腸に血液
     不足が生じます。血液が足りないと腸の蠕動運動が正常にできなくなります。
  ②胆汁の分泌不足
     胆汁の成分のビリルビンと胆汁酸が便の生成には必須となります。このビリル
     ビンと胆汁酸は大腸内で便の形成に使用され、残りは再吸収されて門脈を
     通り、また肝臓に返されます。血液の循環が悪くなると、肝臓がフル回転で
     血液を解毒しようとするため、肝臓胆嚢に機能低下が起きます。そうすると
     胆汁の分泌が不足し、胆汁の上記の成分が足りなくなり、便の生成機能
     に支障をきたしてきます。
  ③血液の質の低下が、大腸の正常な機能を妨げている
     胆汁が分泌不足になると血液は熱を帯び(血熱)、赤血球同士が連鎖し合
     いドロドロでベタベタの血液になり、毛細血管の停滞とつまりを生じさせます。
     そうすると、血液の循環・配分が悪くなり大腸に充分な血液が行き渡らなく
     なり働きが低下していきます。
  ④心臓のポンプ力の低下 
     血液の循環・配分が低下すると、心臓はポンプ力をあげて速やかに全身
     に血液を回そうとします。これが心臓のポンプに負担をかけ、心臓の機能
     低下を招きます。また毛細血管内のドロドロベタベタ血液のつまりや停滞を
     流すために心臓ポンプに負担をかけていきます。

要約しますと、肝心要と呼ばれる肝臓(胆嚢を含む)と心臓の機能低下が、大腸に
血液不足と血液の停滞および血液の質の低下を生起させ、大腸の機能低下につ
ながり、便秘を引き起こすという事になります。

便秘には胆汁の分泌不足が一番大きく起因しているため、胆汁についてさらに詳し
く説明していかなければなりません。胆汁を出す胆嚢と胆汁を作り出す肝臓の両方の
臓器の機能低下が便秘の根底にはあります。元々肝臓と胆嚢は、”肝胆相照らす”
(かんたんあいてらす)と言われるように、表裏(ひょうり)の関係にあります。肝臓、胆
嚢が機能低下する最大の要因は、精神的ストレスの持続になります。精神的ストレ
スの持続は、脳を酷使させ、脳内の神経伝達物質や脳内ホルモンを大量に消費さ
せます。これらの物質は主に肝臓で作られ、また肝臓に還って分解されるので、肝
臓機能を酷使した結果、肝臓が機能低下するのです。

肝臓の働きが落ちると、体はこれを元に戻そうとするために、肝臓に大量の血液を
集め、熱の発生と腫れを起こす事で肝臓の機能を上げようとします。この対応は胆
嚢にも及びます。胆嚢が熱を持ち腫れる事により、胆嚢という袋が収縮できなくなり、
胆汁の分泌が減退するのです。つまり慢性的に胆嚢に腫れが起きることが、大腸
への胆汁供給を減退させているのです。この状態の持続は、免疫機構の要(かなめ)
である腸管免疫を著しく低下させるために、胆嚢は何としても胆汁の分泌を守ろうと
様々な対応手段を講じます。それが便秘の他、胆石の形成や胆管狭窄、胆嚢ポリ
ープにもつながっていくのです。(詳細は日本伝承医学HP、院長の日記の胆石、
大腸ポリープの項参照)

便秘を改善していくには、大腸への胆汁の分泌をいかに改善するかにかかってい
るといっても過言ではありません。そのためには胆汁を生成する肝臓の働きを高
め、胆嚢の腫れをとる必要があります。以上が胆汁の分泌不足の原因と機序に
なります。ここまで大腸と肝胆との関係が明らかになれば、大腸の働きを元に戻す
ためには何をすれば良いかが見えてきます。それはまず胆汁の分泌不足を解消
し、大腸に質の良い血液を送り、大腸への血液供給を促進する事です。そのため
には、全身の血液の循環、配分、質の乱れを正すために、肝臓、胆嚢と心臓の
調整を施し、特に胆嚢の熱と腫れを除去し、直接的に大腸に血液を集めていかな
ければなりません。さらに背景にある、生命力や免疫力の低下を高めていく事も
大切です。これらを達成することができるのが日本伝承医学の治療になります。

生命力とは細胞新生であり、免疫力とは造血力に置き換えられます。細胞新生と
造血は共に骨髄が担っています。生命力や免疫力を高めるには、骨髄機能を発現
させる事です。日本伝承医学は骨髄機能を発現する事を目的に構築されています。
また内臓的には肝心要(肝臓と心臓)を中心に技術が構成されています。便秘には
肝臓と胆嚢の熱と腫れをとるための、大腿骨叩打法を用います。また大腸に血液を
集める方法として、腸の操法も使用します。さらに家庭療法として勧める頭と肝臓、
胆嚢の冷却法は、脳内の熱のこもりと、肝胆の充血と腫れを速やかに除去します。
このような統合的な方法により便秘は改善することができます。