骨を捉えなおすⅢ      2018.4.6. 有本政治

 *これは今から約30年前の文章に加筆したものになります

 骨を捉えなおすⅡにおいて、骨は伝達系、循環系、感覚器系の役割を担って
いるという説明をしました。このパートⅢにおいては、その中の感覚器としての
役割と伝達系としての役割をより詳細に考察することにより、骨の多面性を明
確にしていきたいと思います。

日本伝承学の中のテクニックに帯電した電気を放電する頭蓋骨調整の技
法があります。この技法は頭蓋骨(後頭骨)に擦過刺激を与え帯電した電気を
放電することで、脳内の血液循環を変え、交感神経の緊張を元に戻し、精神
面の調整に応用しています(詳細はH.P.院長の日記「骨は心を癒す」の項参照)

人体内の骨格は、体内電気の伝達系の役割も担っていて、心身の状態が失
調すると、骨に分極が起こり骨に電気の帯電が生じるのです。この技法を理
解するためには、骨のもつ“多様”な働きを十分に理解しなければなりません。
骨は感覚器であり、体内のエネルギーや情報の伝達系であり、もっと飛躍して
仮説を立てれば、骨は宇宙との送受信のためのアンテナであり、情報記憶装
置でもあるのです。それでは骨が感覚器であり、伝達器管であるということを
例をあげて考察してみましょう。

音楽()は耳で聴くのが一般の常識です。ところが、ロボット工学の糸川英
夫博士は、音は骨で聴いていると主張しています。「音は耳で聞くだけではな
い。体全体、とくに骨で聞くともっと音楽を楽しむことができる。ピアニストやバ
イオリニストが、演奏中陶酔感を得ることができるのは、骨を通して楽器から
直接体に振動が伝わるからだ」と主張しています。まさに骨は感覚器であり、
骨伝導を介しての伝達器管であるのです。

 骨が感覚器であり、伝達系であるという事実から開発されたのがボディーソ
ニックという装置になります。ボディーソニックはもともとオーディオマニア向け
に開発されましたが、最近ではオーディオとしてだけではなく治療システムとし
ても応用されています。

昭和61年、聖路加病院、東京医科歯科大学病院などの医師が集まりバイ
オミュージック研究会が結成されました。そこで患者に音楽を聴かせて治療効
果を上げる音楽療法の一つとしてボディーソニックがとり上げられ臨床実験が
行なわれました。その報告では、ストレス性の口内炎や神経症の患者を対象
にボディーソニックを使用したところ、血圧が安定しストレスが解消し、症状が
快方に向かうという結果が得られました。これは、何を意味しているかというと、
血圧が変化するということは、心臓のポンプ力が向上し、体のすみずみまで
血液が流れるようになるということです。また、ストレスが解消するということは、
自律神経のバランスが整い、交感神経緊張がとれるということを示しており、
治療に応用できることを示しています。

横浜市立大学医学部の形成外科では既に手術室のベッドにボディーソニッ
クシステムが採用されています。手術三十分前から患者にボディーソニックを
聞かせると緊張がほぐれ、手術がスムーズにいくと報告されています。日本赤
十字病院では、長時間苦痛を伴う成分献血にボディーソニックを利用したとこ
ろ、献血による貧血、低血圧がほとんどなくなったと報告しています。福岡大学
医学部では、認知症の治療にボディーソニックが応用され研究が進められて
います。このように骨で音楽を聴くと様々な生理的変化が見られ、治療効果が
高いことが実証されています。これらの実証例は、骨に波動性の刺激を与え
れば、体の生理機能に大きな変化を及ぼすことができるということです。

 かのベートーベンは耳が聞こえなくなってからというものピアノの端を歯で噛
みながら鍵盤を叩いたそうです。歯から頭蓋骨に振動を直接伝え音を感じて
いたそうです。文字通り骨で音を聞いていた証拠です。事実私たちの耳の仕
組みは、鼓膜の振動を内耳にある三つの耳小骨のツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨
の骨伝導によって振動を増幅させピアノの鍵盤に似た作用をもつ蝸牛という
器官に伝えて音の大きさ、音色を聞き分けているのです。歯という骨と似た器
官からの振動を頭蓋骨に伝導させれば、何らかの電気信号に変換されて大
脳に伝えられ、音として認識できるのです。

 漢方医学の中での歯の捉え方は、歯は“骨の余り”と表現され、骨と同等に
説明されています。現代生理学においては、歯のもつ圧電効果(ピエゾ効果)
として、歯を噛むときのカチカチという歯にかかる「圧」によって電気を発生し、
脳の細胞に電気信号として作用し、脳の活性化作用をもっていると説明して
います。

日本の最古の医書「医心方」の中にも、歯が痛むときカチカチと300回くらい
歯を噛み合わせると痛みが鎮静されるという記載が見られます。これも電気
信号として脳内に作用していると考えられるのです。やまと言葉の「噛む」とい
う言葉はアイヌ語で「カム」=神を表わしています。余談になりますが、白土三
平氏のマンガに「忍法カムイ伝」というものがありました。このカム()に相当
します。

 歯を噛むことは神=脳に通じていると考えられるのです。噛むことで脳に電
気信号を送り脳細胞を活性化させる働きがあるのです。故に奥歯を多く抜くと
歯の噛みあわせがなくなり、脳に信号が送れなくなり、脳の生理機能の低下
を招き、脳が養えないことから脳の容量が小さくなっていくのです。脳の容量が
小さくなると現代問題になっているアルツハイマー病及び認知症にも関わって
いるといわれています。骨の余りとされる歯のもつ重要な働きです。

骨が音を聞くということは、音を振動(波動)として伝えるということです。
音には人間の耳に聞こえる振動(周波数)と、音として耳には聞こえない振動
(波動)が存在します。骨はどちらの振動も察知することができます。音の微細
な振動の変化を察知する能力を有することは、同じ波動系に属する電波、磁
波、光、色等も察知する能力をもっているとも考えられます。冒頭で述べた、
骨が宇宙から様々な波動を受信したり送信したりするアンテナの役割を果た
している可能性は十分にあるわけです。

立方体の究極の姿は「球体」となります。人体を模式化して考えれば、点と
しての中心(コア)から全方向つまり放射状に円錐コーンが広がって、それがい
くつも集まって球体を作っています。花火が空中で爆発した時の形を思い浮か
べればわかりやすいでしょう。そして界面をもって構成されます。人体に例えれ
ば、コア(中心)が芯としての骨であり、界面が皮膚ということになります。外界
との界面としての皮膚がもつ作用はミクロな存在である細胞膜と同等であり、
細胞膜は五感のすべて(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)を有しています。その
相似形である界面となる皮膚も同じように五感のすべてを感受できます。また
これ以上に電波、磁波も感受していると考えられます。また太陽電池的な作
用を有していると考えています。

そして皮膚で受けたあらゆる情報はあたかも集音マイクのように集約され
中心に集められ中心である骨に伝達されるのではないでしょうか。そして骨は、
集めた情報を記憶したり、また送信する役割を演じている器官と考えられるの
です。骨は振動(波動)を送受信し、情報を記憶し、伝達する作用を有している
のではないかという仮説が構築できるのです。これは仮説の域を出て、既に
最先端科学の世界で立証されています(文献、『エネルギー医学』エンタープ
ライズ出版、全2冊を参照下さい)

パートⅡで述べてあります骨は感覚器であり、伝達系であるという説と結び
付けて考察できることは、骨はすべての感覚の受容器であり、すべての波動
情報の受容伝達系であると考えられるのです。その中でも感覚の中の一つの
「圧」と骨に伝わる「振動」を一番受容すると考えられます。前述したボディー
ソニックを用いて骨に振動を送り込んで病気を治す療法が効果を上げている
ことなどからも証明できます。

私は古代日本人は骨に対して実に高次元な認識と高度な解析を行なってい
たと考えています。その深い洞察から到達した各種の骨を対象とした技法は
驚嘆に値する恐るべき秘密をその中に凝縮しています。骨に圧を加えたり、
揺すったり叩いたり骨に響き(バイブレーション)を与えたりする簡単で単純な
技法で生命力を高め、精神を高揚させ、病気を治す技法を開発していました。

まさに骨には恐るべき秘密が隠されていたのです。

 日本伝承医学のすべての技法は、以上の認識に基づき、骨に正しい情報を
記憶させる意識をもち、骨に圧や心地良い「ヒビキ」(振動=ゆり・ふり・たたき)
を与えることが主体となって構築されています。故に、従来行なわれている一
般的認識としての整骨的技法(整体、カイロプラクティック、オステオパシー等)
とは概念が全く異なる技法になります。

日本の古代人は、骨を体の支持組織として、骨の物質的性質も充分に理解
し、整骨的技法として、関節に重力圧や関節面圧をかける技法も開発し、残し
てくれています。これまで解説したように、骨の多面的な考察に基づいた骨の
二大特性となる「圧電作用」と「骨伝導」を応用した世界に例をみない技法を
開発研究していたのです。

 骨を動かし、骨のもつ機能を最大限働かせるにはどういう技法が一番適切
なのか、古代日本人は充分にその方法を知っていました。現代人の骨に対す
る固定概念がそれを見えなくしてしまっているのです。骨を捉えなおす作業に
より、古代日本人の到達した独自の人体観、生命観の謎がやっと見え始めて
きました。

骨というコアにあたる個所に直接作用が及べば、後は、犬の身震いのよう
に全身に波及されるのです。骨は身体の屋台骨と同時に生命活動の中心を
なす重要な器管であったのです。日本伝承医学の技法は、骨に対する認識を
変えることで、単純でありながら、大きな効果のある方法を構築しているのです。