HSC(Highly Sensitive Child)
 

HSC(Highly Sensitive Child)とは、感受性が強く、繊細で敏感な子どもたち
の気質を言います。HSP(Highly Sensitive Person)と共にアメリカの心理学者
エレイン・アーロンが提唱した言葉になります。両方とも心理学上の概念であり、
精神医学上の概念ではありません。つまり病気ではなく、その子の気質であり、
生まれながらに先天的に持っている特性のひとつと言えます。

 特徴としては感受性が非常に強いため、友人や親、周囲の人達の気持ち、
他人の本心を見抜く力がすぐれています。学校や幼稚園、保育園等その場の
雰囲気や環境にも敏感な為、不登校や不登園になりやすいのも、このHSCの気質
の子たちに多く見られます。気質は医聖と言われたヒポクラテスが唱えた
四体液説に由来すると言われています。
 

【ヒポクラテス】

ヒポクラテスは古代ギリシャの時代に実在した医者になります(紀元前460
370年頃)。ヒポクラテスが残した最も大きな功績は、肉体的な病気や精神的
病状を呪術や迷信、神々の仕業から切り離して、臨床と検証により科学、医学
へと進展させたことにあります。日本でも昔は、原因不明の不治の病や精神病
は恐れられ、呪いやたたりの仕業とされてきました。滑液包炎や蜂窩織炎等の
病気では、炎症が全身に及び敗血症で命を落とすことがあった為、無念な思いで
死んでいった者の魂が乗り移り、肉体に憑依し命がさらわれたなどと言われて
いました。
病気や症状をこうした呪術や迷信と切り離し、医学として確立させたのが
ヒポクラテスになります。彼は医学の聖人、医聖としてあがめられ、
ヒポクラテスの影響を受けて医者を志した若者は世界中にたくさんいます。
彼の唱えた四体液説は、時を超えて今もなお、綿々と語り継がれています。
 

【四体液説】

四体液説は、万物は火・風・水・地の元素からなるというエンペドクレスの
四大元素説を引き継いでいます。人間は血液、粘液、黄胆汁(おうたんじゅう)
黒胆汁(こくたんじゅう)の四体液をもち、各々が心臓、脳、肝臓、脾臓に配当
されています。四体液説は、この四つの調和によって身体と精神の健康が保たれ、
バランスが崩れたとき病気になるという説になります。そののち医師ガレノス
により、この4種類の体液のかたよりによって気質が異なるという「四気質説」
が提唱されました。哲学者カントはこの四気質説に基づいて人間の気質について
分析し、その後多くの学者達に引き継がれ、2000年以上の歳月をかけて気質は
研究され続けてきました。
 性格は生まれつきの先天的性質と、場の環境によって形成される後天的性質
がありますが、気質は先天的性質(特徴)をさし、遺伝的要因が大きいとされて
います。気質の遺伝は両親からだけではなく、隔世遺伝することもあり、
祖父母やそれ以前の代からの遺伝的要因を受け継いでいることも多々あります。
 性格の中の後天的性質は意識の持ち方や努力で変えることはできますが、気質
は基本的に変えることはできません。また変える必要もありません。同じ木でも、
りんごの木は途中から梨の木には変わらないように、同じ人間でも気質により、
その人の個性は異なっていきます。その子の生まれ持った気質を、個性として
どこまで周囲が認めてあげられるか、伸ばしてあげられるかが大事です。周囲
の人間は子どもたちの気質の芽を摘まないようにしていかなければなりません。

HSPHSC~不登校】

HSPHighly Sensitive Personの略で、感受性が非常に強く敏感な気質の人
というような意味になります。HSPは大人に対する言い方で、HSCは子どもに
対する言い方という認識で良いかと思います。ここではHSCの子どもたちに多く
みられる不登校について取り上げてみます。
 HSCと言われる子どもたちは感受性が強い為、学校での集団生活がストレスに
なる場合があります。感受する力が先天的に強いので、いろんなことに敏感で
人の気持ちがよくわかり、気をつかいすぎてしまい、精神的に疲れてしまうの
です。45分~50分間、じっと席に付いていることが苦痛に感じられ、朝から
午後までずっと学校にいることさえ疲れてしまうのです。HSCの子は特に嫌な
ことがなくても、不登校になってしまう場合があります。
 感受性が強いので、我慢強く頑張り屋さんにみられがちです。人に弱音を
吐かず限界までがんばってしまう所があるので、これといった理由がないのに
突然学校に行きたがらなくなることもあります。自己肯定感が低くなりがちで、
周囲の目も気になるため、ますます学校が遠のいてしまいます。大人の場合は、
出社拒否のような状態に陥りやすくなります。

HSCと脳との関係】
 右脳(脳の右半球)の前頭部皮質という思考を司る部分と関係していると言われ、
右脳の電気活動が活発な赤ちゃんが、HSCになりやすいと言われています。
赤ちゃんの時から右脳が活発に働くため、右脳の活性化に伴いだんだん左脳も
活発になっていきます。つまり右脳も左脳も普通の子より活性化され、常に
脳細胞が働いているような状態が起きてしまうので心身共にくたびれてしまう
のです。睡眠時でも交感神経が優位の状態になっているので、脳が常に休まら
(脳疲労)、眠っているのに疲れがとれない、特に朝が起きられない、体が
おもい、頭が痛い、おなかが痛い等の症状が発症しがちになります。

【日本伝承医学における見解】

日本伝承医学では、このような状態を脳の炎症として捉え、まず脳の炎症を
除去し、交感神経の緊張をとり去り、体と精神の状態を回復させていくことに
治療の主体をおいています。家庭療法としては氷枕を用いて、脳内の熱のこもり
をとり炎症を鎮めて、脳を休ませていきます

 脳腸相関といい、脳内が休まらないと腸にも症状が表われ、急におなかが
いたくなったり、吐き気を感じたりするようになります。学校に行こうと思うと、
おなかが急に痛くなったり、頭が痛くなるのは体が起こす自然現象といえます。
 日本伝承医学の臨床では自律神経調整法、後頭骨擦過法、腸の操法等を用い
ます。カウンセリングでは認知行動療法により、思考のバランスを整え、スト
レスをできるだけ軽減できるよう導いていきます。

【感受性が強い人たちへ】
 
 感受性が強い人たちは、生まれつき偏桃体の働きが強く、不安に対しての
センサーが人より敏感に働くようになっています。人間には恐怖にさらされたり、
身の危険を感じたりすると、偏桃体を中心とする脳の恐怖回路が作動します。
恐怖や脅威、危険から身を守るために、脳細胞の防御システム、危険感知シス
テムにスイッチが入るようになっているのです。命を守るために危険の認識を
何よりも最優先し警戒にあたるこの防御システムは、人間だけではなく、野生
の動物すべてが身につけている本能になります。生きるための対応として必要
だからです。

 偏桃体は大脳皮質とつながっていてお互いにリンクし合って働くようになって
います。偏桃体はセンサーにより常に脅威を探知し、脅威や恐怖に遭遇すると
すぐに大脳皮質にその情報を伝達し、大脳皮質の前頭前野で感情や記憶の制御
を行なって処理していきます。感受性が強い人は、このシステムが昼夜問わず
作動しているため脳が疲労しキャパオーバーになってしまうのです。許容範囲
の限界を超えてしまって、シャットダウンしてしまうのです。学校や会社に
行きたくなくなったり、集中力にかけたり、無気力になったり、物事に対して
やる気が起きなくなってしまうのには、こうした背景があることを、まず自分
自身が受け入れ、認識し、今の自身の姿と共存共生していくことが必要です。