扁桃炎
扁桃炎(えんとうえん)は、喉の奥の両側にある扁桃(口蓋扁桃)
というリンパ組織が、ウィルスや細菌の感染によって炎症を起
こした状態を言います。
扁桃は独自の免疫機能をもっていて、外部から体内に侵入す
る病原菌を防ぐフィルターの役割を果たしています。喉の中に
は常に様々な細菌やウィルス等の病原菌が存在していますが、
このフィルター機能をもつ扁桃が、体内に病原菌を進入させな
いように常に防御しています。
また扁桃は菌を遮断するだけではなく、表面にある小さなく
ぼみ(陰窩)で病原菌を捕獲し、分析して、抗体を作れるように
全身へ指令を送っています。
つまり扁桃は様々な病原菌に接触して抵抗力を養う免疫組織
として働いているのです。全身の免疫ネットワークが正常に働
くまでの間、感染症の発症や重症化を防ぐ防波堤としての役割
を担っているのです。
【扁桃炎の症状】
扁桃炎になると、のどに強い痛みが生じ、つばを飲み込むだけ
でも激痛が走ります。扁桃が赤くはれ、白い膿(うみ)が付着す
ることもあります。首のリンパ節が腫れるので顎から耳、首筋
にかけて痛みが生じます。高熱や倦怠感、だるさ、食欲低下、
不眠、息苦しさ等が起きます。
細菌の場合は抗生物質が効きますが、ウィルスの場合は抗生
物質が効かないので、いくら服用しても熱が下がりません。
細菌かウィルスかの判別は重要で、ウィルスに対して立て続け
に抗生物質を使用すると、本来自身がもつ免疫力を大幅に低下
させます。抗生物質は正常な細菌にも影響し、耐性菌(薬に強い
細菌)のリスクを負います。また何度も抗生物質を使用し続け
ると血液組織が破壊され、急性白血病等を発症することがあり
ます。
高熱は3~5日間位続きますが、人間の体は38、4度で免疫に
スイッチが入り、自己免疫力が発動するので、高熱を解熱剤等
で急激に下げないようにします。横になって体を休め、氷枕と
アイスバッグの局所冷却法で自然に熱が下がるように導きます。
発熱時は代謝を良くするために水の摂取も大事です。
一日1500~2000mlを目安とします。尿意がなくても時間をみ
て定期的にトイレに行くようにします。排尿により脳圧が下が
るので、体内にこもった熱が排出されやすくなります。
「心臓はナトリウムで動き、糖は脳を養う」と言われるように
適度な塩分と糖分(砂糖や甘い物)の摂取は大事です。高熱時に
は水の他に、味噌汁(塩分)や温かい砂糖水(糖分)等を飲むよ
うにします。
【なぜ扁桃に炎症が起きるのか】
扁桃は病原菌を察知すると、そこに大量の血液を集めます。
血液を集めることで白血球等の免疫細胞を集結させます。激し
い炎症を起こして、免疫システムをフル稼働させるのです。
炎症が起きないと病原菌は体内の深部に侵入して、敗血症や重
篤な肺炎等を引き起こし生命の危機に直結するからです。
扁桃の免疫細胞は病原菌が入ると瞬時に察知して、サイトカ
インやヒスタミン等の警報物質を大量に放出し、血管へ緊急事
態として知らせます。血管は警報を受けとると毛細血管を一気
に太く緩ませ、白血球を扁桃に送り込みます。白血球が病原菌
を捕食して破壊し、体の奥へ侵入させないように守ってくれる
からです。この時、血管が広がり血液が集約するので、扁桃は
赤く腫れあがり熱を帯び炎症を起こします。扁桃炎の炎症は重
要な防御反応と言えます。
【なぜ高熱が出るのか】
ウィルスや細菌等の病原菌が体内に侵入すると、体内でプロ
スタグランジンと言う物質が作られます。この物質が脳の体温
調節中枢に働きかけて、体温を上昇させます。体温が上がると
免疫細胞(白血球等)の動くスピードや病原体への攻撃力が一気
に高まり、病原菌が増殖できなくなります。
ウィルスや細菌等の病原菌は熱に非常に弱いため、体温が高
くなると耐えられなくなるのです。体はせっかく高熱を出して
病原菌の増殖を抑えているのに、薬剤や解熱剤等で下げてしま
うと、病原菌が活動しやすい環境を作ってしまいます。
熱を人為的に下げると逆効果になるのです。
【抗生物質はウィルスには効かない】
抗生物質は細菌の細胞壁や代謝の仕組みを標的に作られた薬
のため、細胞をもたないウィルスには全く効きません。細菌は
自分の細胞をもっていますが、ウィルスは自分の細胞をもたな
いで、人の細胞を利用して増えていきます。
ウィルスは抗ウィルス薬を使いますが、全てのウィルスに万
能ではなく、何のウィルスに感染しているかで抗ウィルス薬が
異なります。抗ウィルス薬は、細菌を殺す抗生物質とは異なり、
ウィルスそのものを殺すのではなく、増殖の勢いを止めてウィ
ルスを退治しやすい環境にする薬です。そのため自分自身でも
しっかり養生して体力(免疫力)を回復させる必要があります。
抗ウィルス薬を飲んだからといって無理をすると、免疫力が上
がらずいつまでも治りません。
【細菌とウィルスの判別】
細菌とウィルスの判別は血液検査で炎症数値(CRP)や白血球の
増え方を診てもはっきりと判別することができません。迅速抗原
検査、PCT検査、PCR検査、遺伝子検査等を行なうことで、細菌
によるものかウィルスによるものかを識別します。抗生物質が
効くかどうかを知るために、細菌性かウィルス性かを判別する
ことは重要です。
細菌性扁桃炎の場合は、38度以上の高熱が出ることが多く、
喉に強い痛みが生じます。鼻水や咳はあまりなく、赤くはれて
白い膿(うみ)が付着する場合が多いです。首のリンパ節の痛み
や腹痛、嘔吐を伴うことがあります。
ウィルス性扁桃炎の場合はのどの痛みは激痛ではなく中度位
になります。発熱は続きますが比較的緩やかです。風邪のよう
に鼻水や鼻詰まり、せきや痰を伴います。扁桃は赤く腫れます
が白いぽつぽつのような膿はあまりみられません。
細菌でもウィルスでも、どちらもこまめな水分補給と十分な
休養と睡眠が必要です。辛い物等の刺激物は控えます。室内が
乾燥すると喉の痛みが強くなるので室内には常に洗濯物や濡れ
タオル等を干して50~60%の湿度に保つようにします。
細菌性の場合は体内に菌が残っていると急性糸球体腎炎等の
重い合併症を引き起こすことがあるので熱が下がってもしばら
くは無理をしないようにして過ごします。
【扁桃肥大】
扁桃の大きさにはもともと個人差があります。体質的に扁桃
が大きい状態を扁桃肥大と言います。
扁桃が生まれつき大きい人は、陰窩(いんか)と呼ばれる目に
見えない穴や溝が深く、複雑に入り組んでいるため、一度侵入
した細菌やウィルスが溝の奥に溜まりやすく外に排出されにく
くなります。これが病原菌の温床となり体力や免疫力が低下し
たときに、病原菌が増殖して激しい炎症(扁桃炎)を引き起こし
ていきます。
扁桃が体質的に大きいことで生活に支障をきたす場合、とり
除く手術(扁桃摘出術)が行なわれることがありますが、扁桃に
は免疫を担う重要な役割があるので、極力切除はしないで温存
することが望ましいです。
人間の体には不要な臓器や組織はありません。全ての臓器や
器官、組織はそれぞれの役割を担って互いに関連し合って生命
を営んでいます。共存共生できる選択肢をもつことが大切です。
【日本伝承医学の治療】
日本伝承医学では骨髄機能を発現させて免疫力を高めること
に主体をおいています。免疫力を高めることで自己治癒力を最
大限に引き出していきます。
個別操法として喉の炎症を除去する操法、脳内の炎症を除去す
る操法、痛みを緩和する操法(麻酔操法)等を用います。
高熱は3日間出しきることが大事なので解熱剤は極力使用し
ないで養生して回復させます。家庭療法としての後頭部、ひた
いや首筋の局所冷却も合わせて行ないます。
≪参考文献≫ 『発熱を捉えなおす』 著:有本政治