追補

私が本格的にこの日本伝承医学を後世に残そうと、執筆活動を始めたのが約三十
年前(一九八七年頃)になります。生命人体への全面的な認識を目指してとり組
んだのが、人体バナナ理論、人体積木理論、人体ヨロイ理論、人体液晶説、人体
エネルギー造成説、経絡の本体、少女A理論等になります。その中でも人体バナナ
理論と積木理論は二00三年に大幅に追記、追補して完成しました。
約三十年前に発想し、一四年前に追補して完成させた文章で、その後の新たな気付
きはあるものの、基本概念においては今なお新鮮な響きをもつものと自負しており
ます。今回は三十年前のものと一四年前のものを合わせて一冊の書としてまとめ
ました。
生命人体の謎へのアプローチは、個々の事実の集積だけでなく、全体と部分との
関連を考慮しながら進めなければ真実には到達できないと確信しています。近代
科学的な思考方法が物事を細かく分析し、その分析的な手法によって、細かい
構成物質を特定し物事の本質に迫っているのは間違いのない事実です。ただ分析的
な思考方法だけでは物事の本質の解明には不十分です。これでは「木を見て森を
見ず」の例え通りだからです。
人体バナナ理論と人体積木理論はこの隙間を埋める理論になります。人体全体と
部分との関連をわかりやすく解説し、本質を探りあてています。こういう発想に
基づいて生命人体にアプローチする事が物事の本質を解明するためには不可欠と
考えます。今後もこのような視点から病気や症状の本質の解明、探究を続ける
所存です。

人体バナナ理論の追補事項

人体の右ねじれと左ねじれの考察に関して、その後の私の研究において、
より決定的に働く要因を特定しました。よりシンプルに形でわかりやすく体の
ねじれの原因を説明できるので追補しておきます。

左ねじれの考察

「肝心要(かんじんかなめ)」のことわざ通り、肝臓(胆嚢を含む)と心臓が生命活
動において中心的な役割を果たしているのは明確です。特に胆嚢から分泌される
胆汁は、体内の熱や炎症を鎮める重要な役割を受けもっています。極めて苦い成分
が体内の苦寒薬(漢方薬の薬理作用)として働き、全ての病気予防と病気回復に
不可欠な役割を果たしている事が判明しました。
また血液の熱を冷まし、熱変性による赤血球の連鎖(ドロドロでベタベタな血液)
や形の変形を防ぎ、血液の質の低下を防止しているのです。故に生命維持において
この胆汁の分泌は最優先に守らなくてはなりません。そのための対応手段を生き
ている体は幾重にも構築しています。この対応が体のねじれを起こす大きな要因
となるのです。
肝臓は衆知の通り、人体のエネルギー代謝と蓄積を担う重要な臓器であります。
更に上記した胆汁の生成場所でもあります。肝臓の機能低下は生命維持に大きく
影響します。肝臓の機能低下を元に戻す対応として、肝臓に大量の血液を集め、
熱と腫れを一時的に発生させます。この肝臓の腫れを回避するための対応を余儀
なくされるのです。
このように胆汁の分泌を守り、肝臓の圧迫を避ける対応が体の左ねじれを起こす
最大の要因となるのです。胆嚢という袋の収縮を助ける対応として胆嚢を体ごと
絞り込む体勢をとります。体を左にねじり、右肩を前下方に巻き込むのです。
さらに肝臓の圧迫を避けるために、右肋骨の下部を前方に突出させ、体を左に
ねじるのです。この二つの要因が体の左ねじれの最大の要因と位置づけられるの
です。

右ねじれの考察

肝心要のもう一つは心臓になります。心臓の重要性については言うまでもありません。
命の源となる血液を全身に送り出すポンプの役割を担っています。これは生命維持
にとって不可欠であり、最後まで守り抜かねばならない機能です。心臓の収縮力
が低下するということは一時もあってはならないのです。故にこの心臓機能を守る
対応は完璧に備えられています。その対応の一つが体ごと心臓を絞り込む事で
心臓の収縮を助ける対応になります。そのためには上体を右にねじり、左肩を
前下方に巻き込む体勢をとる事になるのです。これが右ねじれの最大の要因と
なります。

人体積木理論の追補事項

人体の前後面における姿勢の変化は、何に一番起因しているかを考察してみます。
人体の土台となる骨盤とその柱となる脊柱に前後面のゆがみを発生させ大きな
要因は、人体のねじれのゆがみと同様に内臓機能を守る対応に起因します。
これもねじれの要因となる「肝心要」が大きく関わっています。その中から心臓
の機能低下を補うもう一つの対応を挙げてみます。
ねじれの項で解説してある様に心臓ポンプの収縮を助ける対応として心臓自体を
絞り込む体勢を挙げていますが、これにはもう一つ理由があります。人類の心臓
という臓器は、四つ足から二足直立を果たしたが故に、心臓を狭い胸部にコンパ
クトに収納する必要上から、ねじれを加えて小さく丸めた状態で収められています。
心臓を上から見て右に一ひねりした状態を呈しています。故に胸部自体を右ねじれ
にする事で心臓の機能を助ける姿勢になるのです。
また、円錐形状をした心臓のポンプ機構は心臓の下部の細く尖った部屋にあたる
心室を収縮する事で血液を噴出するポンプ機構になっています(形状ポンプと言い、
人体のふくらはぎの筋肉形状も同じで、これが第二の心臓と言われる所以です)
この形状ポンプの尖端の収縮を助ける対応を人体がとるのです。つまり心臓の裏側
の脊柱を前方に突出させる事で胸骨と挟み込み心臓の下部を圧迫する手段を講じる
のです。正確には胸椎の三番、四番、五番の椎骨を前方に突出させます。
これにより脊柱全体の生理的湾曲であるS字カーブが大きく乱されるのです。
本来人体の後方向に後湾曲している上部胸椎が反転して前方に湾曲するために、
脊柱全体のカーブの修正を余儀なくされるのです。重力線上に立位のバランスを
保持するためには骨盤の土台の角度も変え、脊柱の生理的カーブそのものを変える
対応に迫られるのです。これが人体の前後面の積木の積み方を変える最大の要因
となるのです。特にこの姿勢になりやすいのは、遺伝的に心肺機能が弱い体質を
もって生まれた方にこの傾向が強く出ています。
また前後面のゆがみの発生は、内臓の肝臓と脾臓の腫れと肥大が大きな要因に
なります。肋骨内の下部に位置する右の肝臓と左にある脾臓が肥大すると、肥大
による圧迫から回避する必要上、両肋骨の下部を前方に突き出す体勢になります。
これは上記同様に脊柱のカーブを乱す事になり、重力線上のバランス関係から
前後面にゆがみを生む要因となるのです(詳細は日本伝承医学のホームページ 
院長の日記を参照ください)
              二〇一六年  十月    有本政治

追伸 一九八七年に執筆したものをここに合わせて添付致します。

人体バナナ理論

 バナナほど、人々に愛される果物はないでしょう。南方の温かい陽射しの中で、
太陽をいっぱいに詰め込んだ、あの色合い。なんとも言いつくせない曲線美に包ま
れた形、香ばしいあの香り。バナナが嫌いだという人に出会うことはまずもって
少ないのです。しかし、そのおいしそうな外観にだまされて、一皮むいたら、
中身がところどころ黒ずんでいたり、腐りかかっていたり、外観からは想像も
つかない、残念に思った経験は誰しもあることでしょう。
これはどうして起こるのか、実験をしてみると簡単にわかるのです。バナナの
外観には傷がつかないように、指で圧迫を加えたり、全体を左右に何度もねじって、
そのまま二~三日位おいておくと、結果は、右記の通りになるのです。特にねじっ
たバナナは、中身の芯まで腐ってしまうのです。
 実はこのバナナと同じことが人体にも起こるのです。外見は何ともないように
見えても、体の内部は、様々な変化が起きているのです。人体はクネクネと動け
る柔構造をしているため、形(外形)にゆがみを生じても、それを重力線上で
うまく修正し、全体としては、素人目には、何等気づかない形を呈している場合
が多いのです。特に前後部での修正、左右面での修正は、人体内部に致命的な打撃
を及ぼさないのですが、ねじりというゆがみは、内部に多大な影響をもたらすのです。
簡単な実験として、水を含んだ雑巾を用意します。それを棒状にして縦に折ったり、
横に折っても、内部の水は滴り落ちません。しかし、ねじってみるとどうでしょう。
雑巾しぼりを考えれば一目瞭然です。つまりねじるという行為は内部にまで作用力
が働くということです。物体の破壊で一番ひどい損傷は、ねじり切られるという
状態です。針金を切り離す場合でも、ねじり切った場合、その損傷の度合いと熱
の発生は、一番大きいのです。
このように人体にねじれが起こると、内部にまで影響は及び、組織の破壊も起こり、
内部に熱の発生も生起されるのです。このように外部からのねじれた応力は、内部
に致命的破壊を起こす決定的要因となる訳です。
 その反面、人体内においては、DNA(デオキシリボ核酸)の二重螺旋構造に
代表されるように、ミクロの存在から、内臓個々の螺旋形状に至るまで、ヨラれた
状態が逆に必要なのです。それは、物理、化学的にみても非常に耐性が強く、
螺旋形状をとることで小さくまとまり、表面積が大きくなり、受容・伝送・処理・
反応能力を高めることができるのです。人体内部においては、ヨラれた螺旋状態
が必要なのです。
 つまり、内部においては、その機能を最大限に生かすためには、ヨラれた状態
が必要であり、外部つまり体全体は逆にヨラれていてはいけないのです。内部破壊
につながる、ヨリ、ねじれは外形上には絶対に起こしてはならないのです。
 上肢や下肢に起こる、関節の疾病のすべてが体幹部のねじれの応力をうけて、
バナナの中身が腐った状態と同じような内部変化(筋の異常収縮)を呈している
ところに、外部からの応力の、引き金によって、引き起こされているのです。
 体のゆがみの中で、このねじれをとってやることが内部破壊を防ぐ最良の手段
であり、人間関係においても、こじれた関係をもとに戻すことは「ヨリをもどす」
と表現しますが、日本伝承医学においては、このヨリをもどすということを体の
ゆがみの修正の基本と考え、テクニックを構築しているのです。
                    一九八七年      有本政治
 追記:人体バナナ理論は、私が一九七六年に発案展開した理論であります。
多くの方々がその後参考にされているようですが、人体バナナ理論は、
日本伝承医学独自の理論であり、真骨頂であるということをここに記します。

人体積木理論

 人体は縦長な構造物であります。その中で固体性質を有する約二〇〇個の骨が、
大小形を変えながらも上下に重なりあって、縦長な構造物を形成しています。
 人体を静止物(建築物)として考えてみると、その骨の連なりは、鉛直方向と一致
しなければ、人体のような縦長な直立姿勢は構築できません。これを「積木」に
例えれば、鉛直方向ならば、いくらでも高く積み上げることが可能になるわけです。
ですから積木の重ね方を少しずつずらして積み上げていきますと、接地面積と
重力線との関係がバランスを失う高さにくると、その積木は倒れてしまいます。
これを倒さないようにするには、積み木の積み方を重力線上に修正するように、
積みかえていかなければなりません。この修正をバランスよく行なえば、積木を
高く積み上げることができるわけです。
一番理想的な積木の重ね方は、重なり面をずらさないで、下面にある積木との接面
を最大になるようにすることが良いのです。そうすれば、高く積むにつれて起こる、
重さの圧力を最小限に食い止めることができます。接面が大きいほど、応力集中
を防ぐことができ、積木の破壊も防ぐことができるのです。ずれをもった積木の
積み方は重力線上に修正を加えてみても、接面が小さいと応力集中が大きくなり、
重さによる破壊は当然早く起こり、高く積み上げることはできないのです。
 上記の理論を人体に当てはめてみると、形(外形)のゆがみがどうして起こるかが、
わかりやすく説明ができます。一番例にあげやすい脊柱をみてみると、まさに積木
を重ねたような関節の連なりであります。一番理想的な椎骨の重なり方が存在し、
それが生理的弯曲(カーブ)を形成しています。しかし、その基底部である腰仙部
の角度、腰仙角が増減すれば、それに応じて重力線上でバランスをとるために
カーブの角度を変化させなければならず、これが形のゆがみの本質的要因となる
わけです。そして、椎骨と椎骨との連結はその面圧のバランスを崩し、関節内の
滑液の循環の停滞を引き起こし、熱の変性による、カルシウム沈着は椎骨の変形
を生起し、応力の集中は椎体部の狭窄、椎間板の脱出(椎間板ヘルニア)と椎弓部
の離開(脊椎分離症)の要因として働くのであります。
 この関係は体各部の関節にもすべて当てはまり、全体的な姿勢(外形)のゆがみ、
内部に引き起こされる様々な変性の要因が、人体積木理論により明確に認識されて
くるものであります。
                一九八七年      有本政治