場面緘黙症(2) 

 場面緘黙症は感受性の強い資質の人に表われやすくなります。言葉を交わす
と言う事は、相手が自分の世界に入ってくることになるので、自分の内に侵略
されたくないという強い防御心が働きます。

かたつむりやはりねずみ、カメ、アルマジロ等、身を守るために殻に閉じこもっ
たり、身を固めて丸くなったりする生き物は地球に数多く存在します。人間に
も天然にこのような自己防御システムが備わっています。

身を守るために自分の殻に閉じこもる、他人に土足で心に侵入させないという
意識が電気レベルの速さで、高速に神経細胞に伝達されるのです。

神経細胞は電気的に活性化されると、パルス状の電気信号となり、軸索に沿っ
て伝播します。このパルスが神経の末端までくると、神経伝達物質が放出され
ます。放出された神経伝達物質は次の神経細胞の樹状突起や細胞体上にある受
容体と呼ばれる構造に作用します。このように脳の情報伝達は神経伝達物質を
介して行なわれます。人間の脳は無線や電線でつながっている機械の電気回路
よりも複雑で精妙にできているのです。


【脳内温度が上がるとなぜいけないのか】

脳は熱(炎症)に一番弱い部位になります。そのために目や鼻、口、耳と、
頭蓋骨にはたくさん穴が開いていて、熱がこもらず脳温(脳内温度)が上がらな
いようになっています。脳内に熱がこもり脳温が上がってしまうと、細胞の
たんぱく質が固まり、脳内物質が破壊されてしまいます。神経回路が遮断され
神経伝達物質が伝わらず、運動神経にも支障をきたし、硬直(身体が動かなく
なる)や麻痺、しびれを発症させます。

脳の炎症を除去するためには、就寝時の氷枕での冷却が効果的になります。
後頭部を氷枕で冷やし、首筋やひたいは、氷を入れたアイスバッグで冷却します。
後頭部や首筋を冷やすことで脳内に冷たい血液が循環されます。様々な精神障
害や思考力の欠如、情緒不安等は、脳の炎症から発症します。その根底には
心肺機能の体質的な弱さがあり、脳に虚血が起きやすくなっています。
日本伝承医学では施術後に、家庭療法として局所冷却法と「食息動想眠」の
日常生活の指導を行なっています。


【場面緘黙症】

小さい頃はおとなしい子、人見知りする子と思われあまり気にならないで過
ごせます。小学校に入ると先生からおかしいと指摘され始めます。親は動揺し
て子供に注意します。子供は心をますます閉ざしていきます。


≪症例≫ 小学校3年生から少女は家族や兄弟と一言も口を聞かなくなりました。
家で食事もとれなくなりました。病院を何軒もまわりましたが脳には異常は見ら
れませんでした。中学高校と変わらぬ状況の中、9年の歳月が経過しました。
体重は子どもくらいしかなくやせ細り、生理は止まり、消極的自殺行為とも思
われる中、彼女は生存していました。

場面緘黙症は外界の場面での発症と思われがちですが、このように家庭で居
場所や安らぎがもてない場合、家族間や家庭内でも発症するということです。
緊張や不安、恐怖のあるところでは人は安心できません。そのような場所では
食欲も出ません。人は不安感や恐怖心が強いと、固まる性質が本能的にあります。
神経回路が遮断され動くことも話すこともできなくなります。殻に閉じこもり
自己防御心が働くのです。無理矢理こじ開けようとすれば、ますます心はかた
くなになります。薬剤で何とかしようとすれば、脳内物質を自己調整する力が
なくなり、薬づけになり、自己治癒力、自然治癒力を消滅させてしまいます。

 大事なことは、まず不安感、恐怖心を軽減させてあげることです。そのため
には自律神経を調整し、交感神経の緊張をとり去らなければなりません。不安
感がなくなれば、少しずつ動けるようになります。言葉も自然に出てくるよう
になります。少女は大人になりお母さんになりました。彼女の子供は幼少期、
母親(彼女)以外の人とは話せませんでした。父親とも話せませんでした。
3
歳の健康診断で医師から家庭内に問題があると叱られました。でも彼女は注意
することも叱ることもせず自然体で育てました。子どもは元気に成長しました。