足関節の捻挫性の症状
足関節の損傷のほとんどが捻挫性の症状になります。痛みが
あり腫れていても、整形外科ではレントゲン(X線)で骨折や脱臼
等の異常がみられない場合は、怪我(けが)、炎症と診断される
場合が多く見受けられます。
足関節の捻挫性の症状には内反捻挫と外反捻挫がありますが、
ほとんどが内反捻挫になります。足関節の構造が外側より内側
への可動域の方が広く、ひねりやすいからです。一般的な内反
捻挫では、足首が強制的に内側に(足裏が内側に向く)ひねられ
る際に、3つの外側靭帯(前距腓靭帯、踵腓靭帯、後距腓靭帯)
のひとつ、もしくはそれ以上が引き伸ばされることで痛みが生
じます(内反の方向や程度によって損傷を受ける靭帯や関節は
異なります)。靭帯は、強い外力が作用し本来の関節可動域を
超えた時に引き伸ばされます。
内側には距骨に付着する三角靭帯(内側靭帯=足関節の内側に
ある靭帯)があります。三角靭帯は脛骨と足根部をつなぐ四つの
部分に分かれています(前脛距部、脛舟部、脛踵部、後脛距部)。
この三角靭帯は外側靭帯(前距腓靭帯、踵腓靭帯、後距腓靭帯)
よりも強くできています。このことは足関節において外反捻挫
より内反捻挫の割合が多いことの一因と考えられています。
足関節の底屈内反捻挫では、骨の変位が起こり、衝撃を受け
る関節がショパール関節やリスフラン関節に及びます。第3、4、
5中足骨にひびが生起することもあります。立方骨、外側楔状
骨、中間楔状骨に突出を引き起こし、立方骨と第4、5中足骨間、
外側楔状骨と第3中足骨間に変位と微細な動きが消失します。
底屈内反捻挫はこのように損傷が複雑で重症化になりやすく、
痛みや違和感が長期に及ぶ場合があります。
長時間の正座のあと足がしびれている状態で立ち上がって転
倒した時、ジャンプをして着地したときに何かの物の上に乗っ
た時、予期しない段差を踏み外したとき、ハイヒールを履いた
状態で足首をひねったとき等に底屈内反捻挫は発症します。
また底屈内反捻挫は歩行時に、後ろ足を前に移動させる際、足
がうまくあがらず地面に残り、足先が地面にひっかかってしま
い、足首をひねったことでも起こります。歩行時に起きる内反
捻挫は、筋力が低下した高齢者だけではなく、若い人でも疲れ
ている時や睡眠不足時に脳からの神経伝達が正常に働かない時
に起こります。歩いていただけで、知らぬまに底屈内反捻挫を
起こしているということがあるのです。
このような捻挫性の症状の背景には、体のゆがみのねじれが
あります。心臓肺機能の低下があると心臓のポンプ作用を守る
ため体は右にねじれ、肝臓胆のう機能の低下があると、胆汁の
分泌を促すため体は左にねじられていきます。体幹部のこうし
たねじれのゆがみは下半身の股関節、膝、足首に波及し、各関
節に正常から逸脱したゆがみを引き起こし、応力の集中が生じ、
筋肉や靭帯に常に負荷がかかるようになります。足関節がガク
ガクにゆるみ、わずかな衝撃でも捻挫を発症しやすくなります。
日本伝承医学ではまず、根本要因である体のねじれのゆがみを
正常に復してから、個別の整復法、面圧法に入ります。
直接的要因としては筋力と足関節の柔軟性の低下、運動神経
の司令の異常が挙げられますが、捻挫性の症状においてあまり
着眼されていない運動神経との関連について次項で説明してい
きます。
【運動神経】
神経は中枢神経(脳と脊髄)と末梢神経(運動神経と自律神経)
の二つに分けられます。運動神経は脳(脳の中枢の脳幹部)から
の司令を受けて、骨格筋を働かせて体を動かします。運動神経
は抹消神経に属し、遠心性神経とも言われます。過労や精神的
ストレス(脳疲労)、加齢等で脳内に熱がこもると(脳の炎症)、
脳からの司令が乱れ、運動神経が正常に働かなくなります。
電気信号が末端まで送られなくなるため、捻挫性の疾患、怪我
や事故が起こりやすくなります。
神経の活動は神経細胞の電気的な活動が軸索のシナプス(情報
の出力部分)を通じてネットワークに伝播されることで行なわ
れます。この回路は熱に最も弱く、脳(脳幹部)が熱を帯びると、
正常な電気信号が送られなくなります。運動神経が狂うと、
もう一段、階段があるのに終わりだと思って着地したり、段差
を乗り越えたつもりが、足がうまく上がらなくてつまずいたり
します。マットやカーペット、縁石のようなわずかな段差でも
つまずいてしまい、足をひねってしまいます。歩行時につまず
いたり、前のめりになったり、転倒したりするのは、単に筋力
だけの問題ではなく、脳の炎症(熱のこもり)から生じる運動神
経の劣化が起因しているのです。足が重く感じたり、つまづい
たり、足首がカクっとしたり、ひねったりした場合は、脳内に
炎症が起きているので(脳疲労状態)、就寝時には氷枕で後頭部
の冷却、アイスバッグでひたいや首筋の冷却を行ない脳の熱の
こもりを除去するようにします。
【リスフラン関節炎】
リスフラン関節は足の甲の中央にある関節で、第1・第2・
第3楔状骨と立方骨、5つの中足骨により構成され、足根中足関
節とも言われます。足のアーチ構造の頂点に近い部分に位置し
ているため、運動や歩行時に常に外力を受け止めている部位に
なります。
リスフラン関節炎は足の甲の腫れと痛みが特徴になります。
通常の捻挫よりも強い痛みが生じます。前足部に体重をかける
と痛みがひどいため、踵(かかと)をつく踵歩行になります。
重症になると足の甲に骨棘(こっきょく)ができ、痛みで正座が
できなくなります。
直接的要因としては、スポ-ツ障害、外反母趾、偏平足、
ハイヒールの長期使用等が挙げられますが、リスフラン関節炎
は変形性関節症に属する疾患で、根本的要因には体のねじれの
ゆがみが存在します。体幹部のねじれのゆがみが下肢に波及し
関節が正常から逸脱、変形をきたすことで発症します。レント
ゲンにより中足部に骨折、脱臼(関節がはずれて骨が正常な位
置からずれた状態)がみられた場合は関節炎ではなく「リスフ
ラン関節損傷」と診断されます。
【ショパール関節炎】
距舟関節(距骨と舟状骨の間の関節)と踵立方関節(踵骨と立
方骨の間の関節)での損傷をショパール関節炎と言います。足の
付け根に近い所にあるので横足根関節とも言われます。ショパ
-ル関節は強靭な靭帯によって補強されていて、関節の可動域
も小さいため、本来は損傷されにくい部位になります。
踵が固定された状態で足先に外力がかかった場合、前足部が固
定された状態で踵が左右にひねられた場合、高所からの着地、
急激なジャンプ等により発症します。
【ショパール関節・リスフラン関節の操作法
】
① 突出した立方骨、外側、中間楔状骨の押圧整復法
② 足根骨・中足骨面圧法
③ 足関節の外踝側、内踝側の運動法
④ 足関節全体の肢ではさんでの距腿関節面圧法
【底屈内反捻挫時の距骨の内反前方変位の操作法】
重度の底屈内反捻挫においては靭帯の損傷だけではなく、関節
の骨の変位が起きています。この場合は変位した骨を正常位置
に復するための整復技法が必要です。この整復技法とは、距腿
関節(距骨と脛骨、腓骨で構成)に発生する距骨の内反前方突出
変位と、遠位脛腓関節の離開の二つの変位を整復する方法にな
ります。
① 距骨の内反を整復する操法
② 距骨の前方変位の整復法
③ 術者の股と両掌での関節をしめる操法を長く行ないます。
※各種操作法は『日本伝承医学実技解説書』上巻、下巻
著:有本政治に詳細が記載されています。日本伝承医学実技
解説書は、日本伝承医学学院の師範課程迄の全過程を終了した
方のみへの販売となります。